アルキオス・イル・ムカリオン&モストルス・イル・シシュマス118『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『エルレイアー教の根本教義2』と『バスタイ市長トゥッシラタ』の物語
前回少し修正してます(すみません)。
『コロコス帝国歴史物語』、『預言者エルレイヤー』の逸話はまだ続く。
『そんな『因習』に絶望していた彼が『光明神ウルスアルマ』からの『啓示』を受けたのが三十歳の時だったという。彼が河で『清めの儀式』を行うために水くみをしていた時、『大いなる光』とともに『光明神ウルスアルマ』と『六大眷属神』が出現なされたのだ。『善神』達の光で『預言者』は自分の影が見えなくなったという話だ。それから彼は『光明神ウルスアルマと六大眷属神のみを崇拝せよ』と諸国を旅して教えを説いて回ったそうだ』とダイモーヤ王。
「実は神官たちのなかには『『預言者エルレイヤー』は『ウルスアルマ神のみを崇拝せよ』としか言っていない』と主張するものもいるらしいですが、『カラミスヤ王朝』の公式見解はこっちだそうです(余談)」とイスティ。
この話を聞いてニムルは昔『隠者タプラン』から聞いた話(2020/10/29投稿分)を思い出した。
(おおよそタプランさんが言ってた話と同じ……かな? ちょっと語り口が違うけど……)
200年もの間、しかも『明文化』されていない『伝承』がほとんど変化していないというの実は『驚くべきこと』なのだが、ニムルは『ピン』と着てはいなかったのだった。
『諸王の王』が続ける。
『だが彼と彼の弟子たち周囲の『ファラーン人』たちから激しい迫害を受けて土地を転々とし、やっと『王』の一人を改宗させるもその『王国』も周辺国からの攻撃で滅んでしまった。『預言者』は絶望する弟子たちを激励して伝道を続けたが、結局『定命の者』であったゆえにわずかな弟子たちを残して永遠の眠りについたという……すると忌まわしいことに『邪神マルマンサ』は『偽弟子』を地上に派遣し、捻じ曲げられた『預言者エルレイヤー』の教え布教し始めたのだ。そのせいで『原始教団』は分裂の憂き目に遭い、彼らは歴史の彼方へと消え去ってしまった……』とダイモーヤ王。
ここで『諸王の王』は声を震わせ怒りと悲しみで目をうるませた。『エルレイアー教徒』は皆この伝説を語るときかつて父祖が受けた苦しみと無念を思い起こし信仰心を高めるのだ。
『……ゆえに、弟子たちは彼の教えが邪神の子孫どもに『改変』されることのないよう『ウルスアルマ神』のお言葉を『聖典』としてまとめたのだ。それが『ハリータ』である。我ら『同族』が『正直』を重視し『嘘』を憎む理由もこのためだ。だから『エルレイアー教』の教えに変更を加えて『新しい伝統を作る』などということが許されるはずがない。それを認めてしまえば『エルレイヤー教』の『根本教義』が否定され、『善神』たちが人間の援軍を求めるほど苦しい戦いを強いられていることを忘れ、『邪神を倒し『正義の世界』を実現する』望みを自ら捨て去り、『エルレイヤー教』である意味がなくなるからだ。この程度は『神官』でなくても私だって知っている。認めるわけにはいかん(全否定)』とダイモーヤ王。
ここでイスティが注釈する。
「実は『預言者』本人が率いた『エルレイヤー教原始教団』は暴力的な妨害だけでなく、『言葉』を用いての『攻撃』も激しく受けていたようです。『エルレイヤー教』は『暴力』を一切禁止していたので『そんなお花畑でどうやって氏族の者たちを守るのだ』とか、『異民族が同族を奴隷にしているのにそんなことをいうのはさては貴様スパイだな?』などと非難されてたそうですね。恐らくそれを受けて『エルレイヤー教も信仰を守るためなら暴力を限定的に許可する』と主張する弟子が現れ、それを他の弟子が非難して結果『原始教団(エルレイヤーの直弟子の集まり)』が分裂した……というのが後世の解釈です。事実かどうかはわかりませんが」とイスティ。
『うーん、『カミス』でも聞いたことあるセリフ(白目)。でも『預言者エルレイアー』さんが住んでた土地の人たちにとっての『異民族』って誰?? どこにいたかもわかってないんでしょ?』とニムル。
「さぁ、それもわかりません。『聖典』にはただ『悪魔』とか『異民族』としか書かれていないので……恐らく自分たち以外の『部族』をそう呼んでいた可能性はありますね」とイスティ。
「『アルレイアノス(エルレイアー)は『ホスポーサ』か『エルディーナ』に住んでたっていうのなら、前者なら『フェイダーン人』か『ムルディアナ人』かしら? 後者なら確かに『タンギラ人』になるわよね」とカムサ。
「『コロクシア』なら『カルシャーナ帝国』なんじゃねーの? 『アマネリス女王』が『エルディーナ』まで遠征したっていうじゃねーか。知らねーけど(適当)」とハッシュ。
「実はその神話は『コロコス帝国』の時代に作られたものじゃないかと私は思ってます。『聖典』にかかれる『悪魔』が『被支配民族』だと体裁が悪いので、東方人(ギルミーナ人以外)が憎んでいる『聖戦の大魔帝国』にすればいいわけですから」とイスティ。
『それギルミーナ人の人たちにとってはいい話じゃないし、そもそも新しい神話作ってるよね……』とニムル。
「『聖典』は改変してないから問題ないでしょ」とカムサ。
そして話は歴史物語に戻る。『エルレイヤー教の根本教義』を聞いてアンダゼブが言う。
『……では『新しい伝統』を造れないではないですか。結局『諸王の王』を正当化する手段がないということですか?』とアンダゼブ。
『……お前が思いつかないなら無いな(投げっぱなし)』とダイモーヤ王。
『えぇ……なんで私に長々と話をさせたんですか……(がっかり)』とアンダゼブ。
確かにその通りだった。次回へ続く。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
ダーマス候とモストルスは道中の敵を撃破し、また『狼男』などのよく分からない話は記録するだけして放置し、そのまま『イーダ川』を遡上する。
かくして彼らは無事に『バスタイ』の街の前にたどり着く。すぐにカルッパタが馬を出して門番のもとに近づき、声を張り上げた。
「私は『カルッパタ・バルナーマトゥ』! 『バスタイ』の同胞たちよ! 『双角王』の家臣のお歴々をお連れした! 早々に門を開けてくれ!」
この呼びかけに城門の上にいた衛兵たちが慌てて引っ込み、アラマン兵たちはその衛兵たちが冒険者であることに気づいた。すぐに木材と青銅で作られた門が重々しい音ともに開かれる。
中から出てきたカルッパタの親戚で『バスタイ』の市長『トゥッシラタ』がダーマス候とモストルスに向かって両手を広げて出迎えた。
「おお! よくぞおいでなされました! 我ら『バスタイ』の市民たちは今も変わらぬ『双角王』の忠実な家臣でございます! ダーマス候こそがそのことを最もご理解頂けているでしょう!? その心は今も変わっておりません!」とトゥッシラタ市長。
歓迎を受けてダーマス候がホッとする。もしここで『裏切り』が起こっていたらそれこそ自分の立つ瀬がなかったからだ。
(……まあ、そうなったら『エデュミン』と同じ処置をして『汚辱を雪ぐ』ことになるがな……いやそれにしても、向かい風が吹かなくよかった。ただでさえ『危険な行動』をしているのだからこれ以上心配事が増えてはかなわんからな……)とダーマス候。
彼はまだこれから『独自にエダイラ人に譲歩した』ことを責められるかもしれないので、すぐに気を引き締めたのだった。
(……その通り、気を抜かない方がいいですよダーマス候……)とモストルス。
するとそこでトゥッシラタがおずおずと聞いてきた。
「……あの、我らはこれまで独自に『盗賊ギルド』達を雇用して町を守っておりました……もその件でお咎めなされるのなら、どうかこのトゥッシラタだけを罰し下され……! 町の他の者たちはただ私の命令を聞いていただけなのでございます!」
この場にいる者たちは全員『サイマス将軍』が『州都タルキュア』から『埋め立て地』へと補給をおくる『輜重隊』にエダイラ人貴族たちを割り当て冒険者の雇用も認めたことを知らない。トゥッシラタは彼の独自判断で『盗賊ギルド』のスパイが紛れ込んでいるかもしれない冒険者たちの雇用に踏み切っていたのだった。
カルッパタもすぐに親戚を庇う。
「おお! ダーマス候! モストルス将軍! 市長の判断は英断でした! 見事町を守り抜いたのですからどうか私からもお咎めになられないように請願いたします! ご容赦くだされ!」
そのことについてもダーマス候は許すことにした。
「……顔を上げてくだされトゥッシラタ殿にカルッパタ殿。この件に関しては我らが咎める権利なぞどこにもありません」
横でモストルスが告げた。
「……ただ雇われていた冒険者たちは解雇していただかないといけません。彼らに『タルキュア州』からの退去を命じましょう」
「そうだな。俸給を払って退去させるべきだな」とダーマス候。
『俸給』は王国が財政破綻なので出せるはずもないのだが、ここは『双角王の度量』を見せることを優先して支払うことにした。エダイラ人たちにお金を借りて銀貨を支払った。
だがこの時実は最初ダーマス候とモストルスはエダイラ人たちから『借りる』のではなく、『戦争臨時税』を課して供出させようとした。しかし将校たちが一斉に反対したので結局借金になったのであった。
「ここで『戦争臨時税』を使うと東夷どもに『財政破綻は本当』だったと舐められます! 『双角王』の御尊顔に傷をつけるようなことをしてはなりません!(クノム語)」と将校たち。
彼らの意見はかつてベアン&アレイ隊が『モルバタエ』で地元民の食料を根こそぎ奪って回ったことと矛盾するようにも思えるが、彼らの時は『スファルト隊』が現れて間がなく『モルバタエ人全体がスファルトに与するかも』と心配して『恐怖をばらまく』ことも兼ねていたが、今は特にそういう心配がなかったので、むしろ自分たちを大きく見せることを選んでいたのだった。
ダーマス候の方はちょっと困って諭して聞かせた。
「いや、だが、わが軍の財政状況は『危険水域』に達しているんだ……『帳簿』が不正確なせいでもうどんな状態かはだれにも分からないが……」
「…………オクソス書記官長のご命令で『一日に計上する歳出に上限額を設けてそれを超えた分は記入しない』ことになっているので……(計画的不正)」と書記官。
従軍書記官はちゃんとダーマス候たちにも随行していて必要な食料や物資の管理をしている。だが以前オクソス書記官長が『もう破綻状態なのでちゃんと帳簿はつけてません』といった後『不正会計』が横行していて誰にも財政の実情が分からなくなっていた。
だがそれでも部下たちは『見栄』を重視していた。
「いいえ! そうであってもせめて『借金』にすべきです! エダイラ人たちから借りましょう! もうこれ以上舐められてしまっては鎮圧できる反乱も鎮圧できなくなります!」
まさに『名誉』のために命を賭ける彼ららしい話だった。そこでモストルスがダーマス候に、
「…………ここは借金としましょう。『戦友』たちがここまで言うのでしたら採用してやるべきですよ」
「むぅ……このままでは本当に先が思いやられるな……」とダーマス候。
そういう経緯で『借金』になったのだが、今度は冒険者たちが『俸給』を受け取ろうとせず、全員が平伏するか跪いて懇願してきた。
「どうか俺たちも軍団に加えてください! 俺らはもう行き場がありません! 『盗賊ギルド』を裏切った時点でコロコス人たちは俺らを裏切り者とみなします! どうか『双角王』様のもとで働かせてください!」
冒険者たちはめいっぱい『哀れなふり』をして同情を買おうとしていた。アラマンの将校たちが途端に『軍議』を開いて検討を始める。
「冒険者どもを皆殺しにしますか?」とモストルス。
速攻でこんなことを言い出す若きエルディオス人に老将軍はさすがに苦笑して、
「いやいや、仮にも町を守ってくれた相手にそんな不義理なことはできんだろ……」とダーマス候。
(……ですがこいつらを解き放っても害になるだけでしょう)とラレース(小声)。
「『名誉』を重視するのならなおさら冒険者どもは殺せん……いや、しかし……」とダーマス候。
結局候は『自分たちだけでこれは決められん』と思って保留することにした。
「冒険者たちは保留だ。だが『バスタイ』に居続けさせることはできんから連れて行く。貴様らも出発準備をしろ」とダーマス候。
「は、はい! よろしくお願いいたします!」と冒険者たち。
以上から『サイマス将軍』は独自判断を行ったが『ダーマス候』はそれを避けたことになる。
その後彼らはしばらく休息をとった。本当は一晩寝てさっさと『エデュミン』に向かいたかったのだが兵馬の疲労が溜まり溜まっていたので休ませざるを得なかった。その代わり情報収集する。すぐに『モルバタエ』で『ベアン・ギナフ(バリーネス・イル・キナン)』が現地民の反乱をつぶしつつ周辺地域をけん制していることを知ったのだった。
次回へ続く。




