アルキオス・イル・ムカリオン&モストルス・イル・シシュマス110『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『ダイモーヤ王と神話論争と『寛容令』』と『タルキュア擾乱part348』の物語
『コロコス帝国歴史物語』、脱線した話が『ダイモーヤ一世とアンダゼブの問答』に戻る。アンダゼブは『神々とは自分のために感情を発露させる存在ではなく、純粋に人間族のために感情を発露させるお方々なのです。『現人神』とは人の身でありながら『自己保身』を捨て去り、『神』と同じように人間族のために働くということ。『エルレイアー教』の神々『人間のために怒る神』なのではないですか?』と確認した。
だがダイモーヤ王が難しい顔になって、
『……それはどうであろうか? 私も『神官』ではないし若輩者だが、すでにそのことについては父の時代に『議論』があったぞ。結果から申せば『ウルスアルマ神は民のために怒る神ではない』ということだ……』
だがここでダイモーヤ王は一旦『議論中止』を宣言した。
『……が、『神話』に関する議論はこれ以上は行わない。こういった話はすでに父王『カイバーン二世』の時代に行われていたことだし、『異民族』と『神話』について議論しても『無意味』なうえに『要らぬ争いを生む』ことが分かり切っている。だから父上は『異民族の信仰には一切介入しない』と宣言して『救世主』の名を贈られたのだ。私もこの方針を受け継ぐつもりでいる』とダイモーヤ王。
ここでイスティがいう。
「実は『カイバーン二世』の時代にすでに『エルレイアー教神官』たちと『ハリスコ神話を崇拝するムルディアナ人神官』の間で『神話論争(宗教論争)』が行われていたらしくて、双方が『自分たちの『古の法』の方が優れている!』と一歩も譲らず諍いの原因になっていたそうです。なので『カイバーン二世』は『異民族(異教徒)の信仰は温存し介入しない』と自身も誓言し、部下たちにも厳守させたとか。これが彼の『寛容令』始まりだそうですね」とイスティ。
『そんなにインディーン人とムルディアナ人の間で喧嘩が起こったの? ムルディアナ人たちってインディーン騎士の部下になってたんじゃ?』とニムル。
「すでに『ハルバーン・ディーラーフ』のように『もともとムルディアナ王国の人間だったがカイバーン二世に重用されてインディーン騎士に認定された人たち』がいっぱいたので。そういう人たちと『エルレイアー教徒』との間で『我々の神話の方が優れている!』といいあらそいになっていたそうなんですよ」とイスティ。
「『ハルバコス(ハルバーン)』って『エルレイアー教徒』になってたわけじゃないのか?」とハッシュ。
「一応『改宗』はしてたそうですが、恐らく『形だけ』で『ハリスコ神話』への信仰心も捨ててなかったらしいですよ。そういう人たちは『ダイモーヤ一世』の時代にもまだまだ残ってますね。インディーン人とムルディアナ人たちが全員『エルレイアー教徒』になるのはもうちょっと後らしいです」とイスティ。
「そういえば『儀式用短剣を与えられた者』」って『エルレイアー教徒』扱いになるのかしら? 『短剣持ち』ってどんな特典があったのか私知らないわね」とカムサ。
「『儀式用短剣を与えられた異民族』はまた違う話でして……(汗)。ですがその話も『ダイモーヤ一世』が完成させた『コロコス帝国の統治制度』に絡む話ではあるのですが……これも今はちょっと脇に置いておきましょう。『コロコス帝国』の背景には『東方諸国』のそれぞれの国の複雑に絡んだ伝統と歴史が数千年積み重なっているので、順を追って説明しないとこんがらがるだけですので(苦心)」とイスティ。
「もうあたしは既にこんがらがってるよ(匙パン投げ)」とハッシュ。
『とにかく『文化が全然違う者同士だから喧嘩が絶えなくて、だからカイバーン二世が『寛容令』を出した』ってことは理解したよ(目グルグル)』とニムル。
「『ダイモーヤ一世』が生み出した『統治政策』はとにかく複雑で難解だとは聞いてたけど予想以上ね……そうやって複雑にして誰も全体を把握できないようにしてるんだわ。把握できなければ反抗できないんだもの(疑心暗鬼)」とカムサ。
「仮にその考えがあたっていたとしても、『ダイモーヤ一世』が反抗を抑止したかったのは『被支配民族』ではなく同胞の『総督(封建騎士)』たちなんですよね。結局この『九頭竜王の乱』の戦後処理が『ダイモーヤ一世』にとって最大の課題であり続けましたので……」とイスティ。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
引き続き『埋め立て地』に合流したダーマス候&モストルス隊がオルトロス候、アルキオス、サイマス将軍に『バスタイ』回復までの経緯を話している。彼らは『バスタイ』の街に到着する前に『イーダ川』の東岸の土地で『盗賊ギルド』の残党と『帝国正規軍ベレト人従卒』の軍団に遭遇していた。
敵である冒険者たちとベレト人たち双方の兵力はエリアイデス軍800&エンニル隊が2000である。だがエリアイデスのもととにはアラマン王国に恨みを抱く地元『タルキュア州』の住民や流れてきたガラニア人なども加わっているので数は多いが質はかなり低い。かたやベレト人『従卒』たちは正規兵としての訓練を受けていて、一応冒険者との『協働』の経験もあった(帝国軍がよく補助兵として冒険者を使うため)。
そしてモストルス&ダーマス隊は合計約2000強である。最初モストルスもダーマス候も2000ずつの部隊を委ねらえていたことを考えれば半減と呼べるほど減っていた。このまま本国から兵士を持ってくるか東方人たちを使わないと軍隊を維持できないレベルに達しつつある。だが『王の友』たちはそれをわかっていてもなかなか異民族への不信感をぬぐえていない。
アラマン軍の編成は『右翼』がモストルス率いる騎兵部隊、『中央』がダーマス候の副官が率いる重装歩兵部隊、『左翼』もダーマス候自身が指揮する同じく『低地貴族』の軽重騎兵と重装歩兵部隊だった。本来右翼の指揮官が『総司令官』になるのでそこにダーマス候がいるべきなのだが、彼は『エルディオス騎兵部隊』を右翼に置くために自分は左翼に移っていた。
最初モストルスは遠慮して、
「候、右翼はあなたが位置すべきです。左翼を俺が受け持ちましょう」
「いや、今回はエルディオス騎兵を右翼に置きたい。私の騎兵部隊は先の戦闘(ナビス隊との戦闘)でかなりすり減っている。その点モストルス殿の騎兵はそうではないから、私の作戦通りに動いてほしい」
ダーマス候がさらに『作戦』を説明する。モストルスとラレース、さらにはダーマス候に副官や他の将校たちもそれを聞いてから、
「…………なるほど。理解しました」とモストルス。
「でしたら『それっぽく』見せる必要があるでしょう。演技すべきかと」と副官。
「敵は負け続けの冒険者どもとコロコス軍です(ベレト人たちを『不死軍団』と思っている)。やつらは恐れを払しょくするために前のめりになるはずです」と低地貴族将校。
「すでにわれわれは敵軍を補足してから前進してません。よい演技になるはずです」とエルディオス人将校。
「……騎兵部隊の指揮はお任せを」とラレース。
「む、お前が今回は行きたいのか? いいだろうラレース。お前に任せた」とモストルス。
「は!」
そこで兵士から報告を受けてダーマス候が見るとエリアイデス&エンニル軍が『鍛冶師たちの太陽神殿』から離れて前進し始めていた
だがダーマス候は事前に告げていた通りに命じた。
「兵士たちは動くな! そのまま方陣を維持してその場に待機! 敵が襲ってきてもすぐに戦えるようにはしておけ!」
『は!』と将兵たち。
よってアラマン軍は動かない。さらにダーマス候が馬に乗って前に出て、エンニルとエリアイデスの軍隊に向かって叫んだ。
「我が名は『ノックス・イル・ダーマス』! お前たちは『不死軍団』だな!? 将軍は名を名乗れ!」
これを通訳(クノム人冒険者)を通して聴いたエリアイデスが驚いた顔でエンニルに言った。
「…………連中あんたらを『不死軍団』だと勘違いしてるぞ。そういえば軍旗が一緒で装備も帝国軍式で統一されているからそう見えても仕方ないか……」
ちなみに『コロコス帝国の装備は統一されている』は本当にすべての兵士が同じ格好をしているわけではなく、出身民族ごとに武装が統一されているという意味である(補足)。
エンニルの方は特に驚いた風でもない顔で、
「……お前は少々勘違いしてるかもしれんが、我々は有事になると『不死軍団』の『補助軍団』として戦う規定になっているから一応は『不死軍団』の一員だ。まあ私自身は一度も『不死軍団』として戦ったことはないがな」
『不死軍団』は通常『コロクシア』出身の兵士で構成されており、ベレト人たちは法制上は『ギルミーナ人』なので『不死軍団』には入れない。だが『ハリスキーナ』の『従卒』たちは『緊急事態条項』が発動すると『不死軍団補助部隊』として参戦することが義務付けられているのだ(これは『ハリスキーナ』のみの決まり)。この規定はまごうこと無き『九頭竜王の乱』時に定められた決まりで、実際に過去に発動された事例も存在していた(補足)。
エンニルが続けて言う。
「……だが素直に我らを『不死軍団』と思うとは思わなかった……まあそれでもやつらには関係ないだろうな。本物の『不死軍団』と戦ってしかも勝ってるから我々に怖気づかんだろうし」
一瞬『敵がビビってくれてたらしめたもんだ』と思ったエリアイデスだったが、確かに『シェルファス湾』で勝った彼らがビビる理由もないことを思い出して、
「…………そうかい。だけど、だ。もしここでアラマン人の前であんたらが戦わずに『ギルミーナ』に撤退していったらそれこそ『不死軍団が怖気づいてしまっている』と連中に宣伝されるんじゃないのか? 猶更戦わないといけないだろ」
「エダイラ人どもに今更宣伝して何だというんだ。『不死軍団』が実際に建て直せばすぐに覆る。再建された大軍勢を見れば連中もすぐに怖気づくだろうさ。お前の言ったことが今我らが奮戦しなければならない理由にはならない」とエンニル。
「なんだよ! さっき了承したのにやっぱ戦いたくないとか言うきかよ!?」
エンニルが心底ウザそうな様子を隠さずに、
「…………だから『戦う』といってるだろ。だが『名乗り』を求められたのなら名乗らんのは『帝国騎士』の恥だ。貴様らは大人しくしていろ。私がアラマン人と話す」
エンニルも馬に乗って前に進み出て名乗りで答えた。
「私は『エンニル・ウドナ・シュルナピテム』! 『カラミスヤ王朝コロクシア帝国』の『不死軍団将校』を務めるものだ! 祖先は『英雄アラルトゥ』の血を引く『ベレティア』の誇り高き『山の騎士』である! アラマン人どもよ! 我らと戦え! これは『シェルファス湾』の復讐であるぞ!」
彼はどうやらベレト人の英雄を『名祖』とする名門一族の者のようだった。すかさずダーマス候が聞き返す。
「ベレト人といったか!? なぜ『コロコス人』でないものが『不死軍団』』を率いている!?」
エンニルが答えた。
「『不死軍団』には多くの『従卒』たちも参加している! 私はその部隊のもので今はナバーハン総帥から指揮権を与えられているのだ! 私自身『シュミルネ戦争』や『ムンディ・アクナ戦役』で多くの武功を上げた将! その武功に貴様らも加えてやる!」
「は! 『シェルファス湾』にベレト人は参加していなかった! うそをつけうそを! 貴様らはどうせ『偽物』だろう! すでにエダイラ人たちが『不死軍団』に変装していたのを経験済みだ! 二度も同じ手はくわんわ!」とダーマス候。
「『シェルファス湾』に帝国軍の総力が結集していたと思ったのか愚か者どもめ! 帝国軍は大半が帝国全域に散らばって存在している! すでに『不死軍団』は大軍を置いて監視を続けていた『シュミルネ族』を討ち果たし、その軍勢を率いて『タルキュア州』にやってきているぞ! 我らは『先遣隊』だ! だが今更貴様らが降伏してももう遅い! 全員処刑せよと『諸王の王』のご命令だ!」
エリアイデスたちが『こいつ嘘うまいな』と感心する。だが別にエンニルが特別頭が回るわけではなく、アラマン軍がつかめているであろう情報が大体わかっているのでそれにそって『検証しようのない嘘』をついているだけだった。
次回へ続く。




