サイマス・イル・アサクレス100『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『マニーヤとサーマーンが描く『世界征服』』と『第三次総攻撃6』と『タルキュア擾乱part296』の物語
カムサ「イルブルス通史でさらっと書かれていた『カラミスヤ3世がアルディアーナ遠征を計画したがオリシア人の反対にあって頓挫した』という話、『コロコス帝国歴史物語』では『同盟を結んだ』とだけかかれていて一見矛盾しているように見えるわ。でもこれは本当は矛盾ではないのよ。クノム人たちが『カラミスヤ三世がアルディアーナを征服出来たのにしなかった』ことを悪意的に解釈してこう述べているだけらしいわね」
イスティ「まあでも、アルディアーナ征服は狙おうと思えば狙えたことも事実ですね」
ハッシュ「『コロコス戦争』の時もコロコス人に命令されてたしもう征服されてるのと同じようなもんじゃんって思うけどな。所詮、異民族は全員『奴隷根性』だからな」
ニムル『書き手が誰かで歴史記述が変わるから注意が必要だね……(資料批判の重要性)』
『……ハッシュってもしかして、『戦いを徹底的に避けて和平を探るべき』って考え方嫌い?』とニムル。
「ああ、『お花畑』はすげー嫌いだな。所詮『戦争が増えると公共奉仕が増えるからヤダ!』って金持ちどもの我儘でしかねーからな。あ、ニムルだけは例外だぜ? お前のことは大好きだよぜ♡」とハッシュ。
『だ、大好きって……(赤面)』とニムル。
(『大好き』だなんて簡単に言えてうらやましいです……)とイスティ(つられて赤面)。
「そもそもニムルは『お花畑』じゃないわよね? 普段気弱に見せて心身ともに強いじゃない?」とカムサ。
『い、いや、強いなんて……(照れ)』とニムル。
「あーたしかにそうだな。ニムルは『殺るときは殺る』やつだしな〜。『タデクス吸血鬼戦争』マジで現場でみたかったな……(うっとり)」とハッシュ。
「あれは本当に楽しかったわ……ハッシュにも見せたかったわね私達の活躍を……(紅潮)」とカムサ。
「……確かにあの戦いは作戦が完璧に『嵌まった』ので気分良かったですね(ちょっと得意げ)」とイスティ。
『ごめん……そういうのは褒められても全然嬉しくないんだ……(顔ひきつり)』とニムル。
『コロコス帝国歴史物語』、サーマーン候の『なぜ戦争を避けて和平の道を模索しなかった!?』という問いにマニーヤはこう答えていた。
『あなたの言葉は『カイバーン二世陛下』が創建した『インディーン・フェイダーン王国』を否定している。『四英雄国』同士の争いに終止符を打つために『救世主』が『世界征服』を仕掛けたことをお忘れになられたか?』とマニーヤ。
『いいえ違いますな! それは『嘘』ですマニーヤ候! 『カイバーン二世陛下』が目指されたいたことは『ムルディアナ王国』を打倒することでした! あのおぞましい『大魔王』にそそのかされていた兄王『ギーラーン三世』を討つためだったではないですか!? 『新サルザリア王国』や『ビカルニア王国』との抗争の原因も同じ! すべては降りかかる火の粉を払うためでしかなかった! 最初から『世界征服』を望まれてはいなかったではないですか!』とサーマーン候。
「……前にも出てたなこんな話。『大魔王』がどうのこうのって話と、『カイバーン二世』は別に『世界帝国』を作る気はなかったって」とハッシュ。
「『歴史の父』は『カイバーン二世とその部下たちは貧しい『コロクシア』の土地に住んで居た故に常に飢えていて、目の前にある富はすべて手に入れないと気が済まなかった』っていってたけどね」とカムサ。
『『歴史の父』さんの言葉悪意ありすぎるでしょ……(呆れ)』とニムル。
「まあでも、実際なぜ『カイバーン二世』は『世界征服』を途中で投げ出さず死ぬまで戦い続けたのかはインディーン人たちもわかっていなかったようです。以前私が述べた『インディーン人同士の内訌を避けるために外征しなければならなかった』も未来の者たちが唱えた『仮説』でしかありません。『カイバーン二世』自身もよく分からないまま戦ってたんじゃないかという話もあったそうですよ」とイスティ。
『そんないい加減な話ある……??』とニムル。
サーマーン候の言葉にさらにマニーヤ候がこう返した。
『いいえ、サーマーン候こそ『嘘』をついておられる。『カイバーン二世』陛下は最初から『世界征服』を成し遂げるつもりでいたではありませんか。もし『降りかかる火の粉を払っていた』のなら、あなたが私に述べた通り『粘り強く四英雄国と交渉して戦いを避けていた』はずです。ですが『カイバーン二世』はそんなことは一切しておりません。彼は最初から『四英雄国』と戦い征服する気でおられました。そうでないのならなぜあれほどの『大事業』を途中でやめなかったのでしょうか? やめる機会はいくらでもあったはずですし、『世界征服』はそんな消極的な理由で成し遂げられるものであるはずがない。困難が多く多大な犠牲を伴うからこそ貴公は『世界征服』に反対し続けたのではなかったのですか?』とマニーヤ。
この話を聞いてハッシュが混乱気味に、
「……で? 結局どっちの話が本当なんだイスティ??」
「二人とも『カイバーン二世』と一緒に『世界征服』したんでしょ? 全然言ってることが違うわね」とカムサ。
『なんで二人ともカイバーン二世に仕えていたのにこんなに話が違うの?』とニムル。
「不思議ですよね。でもどうやら二人とも間違ったことは言ってなかったそうなんです……まあ私も『また聞き』の話なので二人のうちどちらがより『真実』に近いのかは分からないんですけどね(肩すくめ)」とイスティ。
『えぇ……どういうこと??』とニムル&ハッシュ。
次回へ続く。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
タバサとサレアスの元から去った後、移動途中にサイマス将軍に部下たちが尋ねた。彼の指揮下にいる『王の友』の一人が言う。
「……サイマス将軍、さっきの会話はいったい何ですか?」と『王の友』
彼等はサレアスとの会話の意味を掴みかね混乱している。サイマス将軍も弟(妹)同様よどみなく答えてみせた。
「敵を油断させるための会話ですよ。あのまま討ち取れるかと思ったんですが、敵の対応が思ったより早かったので『補給線復興』に切り替えただけです」
「切り替えが早いのはさすがです……さすがは『剽悍』で知られた『アサクレス族』のお方だ……ではサレアス殿を処罰することに変わりはないのですね?」と『王の友』
「変わりません。それが出来ないのなら私自身も自決する覚悟です。『仲間』を信じてください」とサイマス将軍。
結局現在『第三次総攻撃』真っ最中ということもあり、将校たちは内紛を避ける方を選んだ。
「……そうですね。ここであなたを疑っても魔族どもの思うつぼ、信じましょう『仲間』を」と『王の友』
「感謝します」とサイマス将軍。
サイマス将軍は『まるで槍衾を自分に向けられているようだ』と思っていたのだった。
ここで場面はタバサとサレアスに移る。タバサは最初『サレアスを使ってサイマス将軍の部隊を惹きつけ、その間に自分の部隊を他所に援軍させる』算段だったが、サレアスとサイマス将軍の『話術』でいつの間にか『自分たちがサレアスに惹きつけられてる間にサイマス将軍が他所に援軍する』展開になりかけていることに焦っていた。
だがサレアスはタバサに『アラマン軍との和睦』についての話を突き付けてきているので無視もできない。結果そのジレンマが彼を猶更苛立たせていた。
平然とするサレアスの胸ぐらをつかみ上げてタバサが恫喝する。
『貴様は自分が助かりたいから適当なことを言っているだけだろうが! 『屁理屈』を並べおって! それが『雄弁(弁論術)』を誇るクノム人のやり方か!?』
「尻尾を刺されても別に問題なさそうじゃないですか? 右腕を失ことに比べたら大したことじゃないですよ(なくなった右腕アピール)」とサレアス。
『貴様ぁ!? 私は貴様が『仲介者』の役割を果たせていないといっているんだ!』
「果たせますよ。兄上は私がアラマン軍に戻っても『死刑にされないように守ってやる』と約束なされたからです……」
サレアスが一語一語を強調して『アンフィスバエナ』たちに言い聞かせるように続けた。
「……今まで私は自軍に戻っても『利敵行為』のために問答無用で『死刑』になるはずでした。ですが兄上は私がただの『捕虜』としてではなく『アラマン軍のために』あなた方との『和平』を画策していることを理解されたのです。つまり今私が戻れば殺されずに堂々とあなた方との『和平』を推進できるというわけです。攻撃はまだ戦闘中の友軍の手前そうせざるを得ないというだけ。だから見ての通り兄上はすぐに部隊を退かせたのですよ。私たちの考えがまだ理解できませんか?」
異様な自信(サレアスが無表情で淡々と話すために余計にそう見える)にタバサが思わず気圧されて、
『……さっきの会話を聞いてる限りそこまで打ち合わせてるようには見えなかったが?』
「普通ならそうでしょうが、アラマン軍の兵士は上から下まで数限りない戦いを共にして『青銅(鉄)の絆』で結ばれています。特に私と兄上は兄弟(妹)なのですから完璧に思考が通じあってますよ(自信)」
実際の所サイマス将軍はサレアスの思考回路をよく理解しているがサレアスは兄の思考を読めなかった(補足)。
そこでサレアスが『ズイッ』とタバサに迫って告げる。
「……兄上はこれからあなた方と戦いつつも私を『助命』するためにオルトロス候やアルキオス将軍を説得する準備を始めたでしょう。私もこれから仲間たちに殺されないようにしながらなんかして『仲介者』の役割を果たすべく命を賭けなければなりません……だからあなた方も命を賭けてください。これから全力で戦ってアラマン軍に認められるんです。そうなれば私たちも『和睦』の雰囲気作りがしやすくなります。強力な敵ほど信頼できる仲間になるわけですからね」
言われた『アンフィスバエナ』たちが『ごくり』とつばを飲み込む。サレアスの言葉でも結局今までと方針は変わらないし、それどころか確実な和平の実現までの道筋が今ついたといえるだろう。これまでは『戦ってアラマン軍に自分たちの実力を認めさせる』といっても具体的にどうやって認めさせるかの中身は『ふわふわ』していて特に決まっていなかったのだから。
「……といっても別に今までと変わらないでしょう? あなた方は最初から我々と和睦するために戦いを挑んできたとあなたが私に話したんですからね」とサレアス。
『……だから私は貴様ら兄弟の会話がそんな話をしていたようには聞こえなかったと言ってるんだ……貴様が兄と謀って我らに降伏させた後皆殺しにすることも十分か考えられ……』とタバサ。
「そこまで私たちへの不信感がぬぐえないのであれば最初から『和睦』は考えない方がいいですよ。敵と手を組むということはそう言うことですよ」とサレアス。
これはサレアスが苛立って言ったことではない。命を賭けてタバサを試したのだ。『もし自分たちが心底アラマン軍への不信感を拭えないと自覚したのならどうぞ殺してください。そこまで信じられないのでしたら私にできることはありませんから』という宣言である。
そう、実はタバサにはまだここで『サレアスがダメそうなのでこの場で始末し、また別のアラマン軍将校を捕らえて再度降伏を迫る』という方法もあった。サレアスの死体を使ってサイマス将軍を挑発して怒りを誘ってうまく捕らえれば今度は『王の友』である。心理的ダメージは比較にならないくらい大きいだろう。
それにアピルからの報告でアラマン軍全体の飢餓も限界に近そうとのことなので『もう一押し』すれば今度こそ向こうから『和平』を言い出すかもしれない……実際アラマン軍の考え方に精通していればオルトロス候が捕虜になっても『報復』を叫んで攻撃し続けそうに思えるが……と思ってサレアスを『斬る』ことも出来た。
だがタバサは『いくら信じられないからといってこれ以上はこっちにも余裕がない』と判断し、サレアスの『気迫』を評価したのだった。タバサもやっと折れたのだ。
『……命を賭けろ、か……果たして信じられるか分からない貴様を信じるのもまた勇気……いいだろう、さらに貴様に掛け金を積み増してやる。だがまだ『戦闘中』なのなら私も参戦せねばならん。『エデュミン』に向かわせてもらうぞ。魔王様にご説明をせねばならんからな』
『アンフィスバエナ』たちは今まで『ガムルが何も考えずにサレアスを連れてきた挙句、サレアスが『和睦の使者』になりましょうとか変なこと言って来たからどうしようか、こいつ嘘ついてないか? というか本当にそんなことできる能力があるのか?』と困惑しつつ、元々あった『戦ってアラマン軍に自分たちの力を認めさせて和睦に持ち込む』の方針を続けていた。
だがここでやっと『サレアスを仲介者にアラマン軍と戦いつつ和睦の道を探る』にまとまったのだった。
そこで改めてタバサがサイマス将軍の部隊を探したが、すでに視界からは消えたようだった。使い魔たちの報告だと『埋め立て地』に向かったとのことだったので部下たちに命令を発した。
『……我々は先ほど申した通り『エデュミン』の魔王様のもとへと急ぐ。アピルは『盗賊ギルド』どもが暴れているようだからなんとかなるかもしれんが、心配だから報告を済ませたらまたもどってくるつもりだ』
『『エデュミン』に向かう傍らアラマン人たちの動きを出来る限り調べるおつもりで?』と部下の一人。
『そうだ。折角私は戦線にまだ参加していないのだから、しっかり全体を把握してから適所に援軍するつもりだ』
『は! 了解いたしました『四天王』殿!』と部下たち。
(……知性があって思考も柔らかい魔族で助かりましたね……)とサレアス。
タバサは『遊撃隊』の本領を発揮すべく、独自に戦場全体の把握をしつつ『エデュミン』へと向かったのだった。
彼らがそうやって話し合いを行っていた一方で『埋め立て地』周辺から東は『帯状地帯』、西は『エデュミン』まで広がる戦場で争われる『第三次総攻撃』はまだまだ続くのだった。




