サイマス・イル・アサクレス95『東方大遠征:レーム北部攻略編』と『四人のスパイとダーマーン王の『冒涜』』と『第三次総攻撃1』と『タルキュア擾乱part290』の物語
本編とは関係ない余談です。最近知って驚いたことですが、古代ローマ時代には『マヨネーズ』に相当する、卵黄と酢を混ぜておこる乳化を利用したソースがあったそうで(マヨネーズ自体はもともとスペイン料理に使われるソースの一種だったそうです)、高級ソースとして貴族たちが親しんでいたそうです。勝手に調味料だと思いこんでましたが、言われてみればソースだなぁ……と勉強になりました(古代料理もしっかり調べたいです))。
『コロコス帝国歴史物語』、『サアールク』にいた『モルバタエ人魔術師アバランジ・クーン』の使い魔が『アスターン要塞』にいた『ダーマーン・グシュナスプ王』と『ムシャン・ナークシュバンディーヤ候』が派遣した伝令の会話を『盗み聞き』して『ダーマーン軍がディルタインに向いそこでナークシュバンディーヤ軍と合流する』との情報を手に入れて報告していた。
その話を横で『剣神』とスネシュとともに聞いていた『サルザリア総督ハズミシュ』が不思議そうに聞いた。
『……先ほど『マニーヤ候は神殿の中で軍議を行っていたので会話は聞けなかったけど、ダーマ―ン候の会話は聞けたんですか? なぜ? 彼らは聞かれる可能性を考えずに外で会話していた?』
ハズミシュ総督と『剣神』は相変わらず地図をにらみ合っていて、スネシュは横でずっと腕を組んで明後日の方向を向いて座っている。『剣神』がスネシュに『飲み物要りますか?』と『乳清』の入った『フィアラ盃』を差し出すと、目が見えないはずなのにスネシュは受け取って口に運ぶ。
『……うわ、本当に見えてないんですかスネシュさん? なんで盃の位置が分かったんです?』とハズミシュ。
『『剣神』が盃を差し出した時に指で『コツコツ』と叩いたからな』とスネシュ。
『音出さなくてもわかりますよねスネシュさんは。その状態でも農作業を一通りこなせそうですね』と剣神』
『なんだと貴様失礼だぞ(怒)』とスネシュ。
するとクーンが振り返って答えた。
『理由は簡単ですよハズミシュ総督殿。ダーマーン王が『罪の穢れ』にまみれていて『エルレイアー教』の加護が弱まっているからですよ。『エルレイアー教』風に言えば『邪心マルマンサに魅入られている』というべきですかね?』
『……もしかしてマニーヤ候に翻弄されてるからですか??』とハズミシュ。
すると盲目のスネシュが言う。
『違う。アスターン要塞で『粛清』を行ったからだろう。裏切り者の血でダーマ―ン候の手が血で汚れているからな。『エルレイアー教』は特に血の穢れを忌むと聞く』
『スネシュ殿の言う通りですハズミシュ総督。ダーマーン候は捕らえた『フワネ氏族』や『マニーヤ候』に手を貸した遊牧民たちを処刑したからですよ』とクーン。
ダーマーン王は一度マニーヤ候に寝返った『アスターン』の土地に『制裁』を加えなければならなかったために、逃げようとした『フワネ氏族』の農民や遊牧民、そして彼の輜重隊を襲っていた周辺の砂漠遊牧民を可能な限り捕まえて処刑していた。これはダーマーン王の意思というよりかは配下のディルタイン軍兵士たちの『要望』だったわけだが、別にダーマーン王自身もいやではなかったので100人単位で殺していた。
だが彼の輜重隊を襲っていた者たちはもっと広範囲の地域から集まっていたわけだが、ダーマーン軍が『報復』したのはあくまでアスターン地方周辺にいた者たちだけだった。わざわざ遠くまで遠征して報復して回る時間も労力も惜しかったためである(補足)。
またそれだけではなく、逃げてしまった『アスターン人』たちが自軍が去った後『帰国』しようとすることも考えて、可能な限りインフラや農地を破壊することも行った。川の水を農地に流す水路をすべて埋め立て、堰を壊し、畑に大量の塩をまき、神殿の周りにある『鎮守の森』や『狩猟林』(これらの森は神殿や貴族たちが木材資源を管理する森でもあり、また木の実や薬草の大事な供給源にもなっていた)の木々をすべてきり倒してしまう。
『鎮守の森を切り倒した』と聞いて『剣神』が笑って、
『あらあら、聖なる森の木を切ったらそりゃあ神々も怒るでしょう。愚かなことをしましたね』と『剣神』
クーンが言う。
『そうは言うが、ダーマーン軍の敵は『インディーン軍』なので別に『私』のことを警戒する必要はないんだよこれが。『ファラール龍族』も今回の戦争では『中立』を通しているしな。だから『魔法防御』はそんなに考えなくてもいい。それより『攻城兵器』を作るための木材を奪われたことが心底腹に据えかねていたんだろうさ。『意趣返し』ですな』
それから彼は報告した使い魔を休ませ、別の使い魔に命じた。
『『ダーマーン王』を追いかけろ。彼と『ナークシュバンディーヤ候』の会話を盗み聞きできたら聞け。一週間後にここに帰ってこい。いけ』
『は!』と使い魔。
新たな使い魔が宿から飛び出して空に彼方へと消えていったのだった。
『東方大遠征:レーム北部戦役』、『アラマン中央軍:タルキュア防衛隊』
『第三次総攻撃』の始まり、オルトロス候の部隊が『関所』を出て目の前にある『要塞』へとやってきた。彼が『アピル将軍と話がしたい!』と呼び掛けたがアピルがなかなか出てこないことにちょっと驚いていた。
老将軍がハグニアスたち部下と小声で話す。
(……反応が嫌に遅い。何かしているのだろうな……)とオルトロス候。
(はい。今までならすぐに出てくるどころか、近づいただけで向こうから声をかけてきていたのにおかしいですね)とハグニアス。
(『要塞』の中で何か作っているらしいのは確かです。まああの網(血状網)かもしれませんが……)と将校A。
(『アンフィスバエナ』達が何らかの作戦を準備していた線はありえるでしょう。我らが『埋めたて工事』に集中すると高をくくっていた所に我々がきたので驚いているのではないでしょうか?)と将校B。
(……真実がどうなのかは分からんが、敵の動きが鈍いということはミュシアスの動きに気づいていない可能性が高まってくるな……)とオルトロス候。
もしミュシアスとアピルの間に結ばれた『和平』がまだ有効であると仮定すると、ここでミュシアス隊の『エデュミン奇襲』に気づいているのならアピルはすぐにオルトロス候に『抗議』してくるはずである。それをして来ないということは『アンフィスバエナ』達は何か別のことに意識が向いていてこっちの動きに気づいていない……というオルトロス候の読みだった。
だがある将校が首を振って、
(いえ、候。もしかしたら今まさにミュシアス殿の動きを察知して詳細を確かめ、その後我らに対して抗議か戦闘を仕掛けてくるのかもしれません。今敵が動いていないというだけで判断は早計でしょう。そっちだって十分にありえます)
(そうだな……やはりミュシアスから援軍要請がない限りは動けんな……)とオルトロス候。
そして『要塞』の中では『戦う理由』を問われたアザランカが言った。
「……もちろん俺らは『復讐』のためだぜ~? あいつらには散々俺の部下を殺されたし俺自身もコケにされてっからなぁ~? 俺の『奥の手』だった『巨人の鎧』が『破られた』なんてことになったら俺は冒険者稼業を終いにしなきゃいけねぇ~。だから次こそ勝って『破られてなかった』ってことにしねぇといけね~からな~。俺らに『逃げる』って選択肢はねーぜ~?」
アザランカは『まじめな口調』になってないが言ってることは本心である。確かに生き残らないと『貴族』には成れないが、かといってここまで粘って今更逃げたら『コロコス帝国に賭け続けた』今までの自分が間抜けになってしまう。それに『西の野蛮人に負けっぱなし』になるのは心底癪だ。
だから彼も『ウロボロス団』もここで死んでも悔いはない気分だった。
そしてアンダニも口角を釣りあげながら、
「私も逃げる気はない。なんたって私は今回のアラマン人との戦いが『成り上がれる』絶好のチャンスだと思ってるからね。私の見立てだと『コロクシア帝国』はさらに苦境に立たされる、だってコロコス人は長年支配者として君臨してて『東方人』から恨みを買ってるからねぇ? それに戦いは常に『防御側』が不利になるもんさ。だからこそ私がここで大活躍すれば皆が私を引き抜きたくなるはずさ。今回はこの『最強の妖精使いアンダニと光輝あるシリウス団』の『デビュー戦』ってわけさ」
『つまり最終的にはアラマン人に降伏する前提ということか?』とアピル。
「違う。別にアラマン人に降伏する気はない。ただ私が今回の戦いで大活躍すればその名が全世界に轟くだろ? ってこと。そうなったら『ミンサムワ』に帰ってもいいし、なんなら『クノミア(クノムティオン)』にわたってもいいし(クノム人世界にも『バンドゥーラ』というアラマン軍の敵がいることを言っている)、『タンギラ(タジール)』に行ったっていいってことさ。私は絶対に『世界一の勇者』になるんだ。『勇者』を歓迎しない連中はこの世界にはいないよ……」
それから彼女が部下たちを見てから、
「……もちろんアラマン人には与しないし『双角王』とやらに忠誠を誓う気も毛ほどもない。仲間を殺した奴と手なんか組めるかってーの。頼まれたって御免だね」とアンダニ。
彼女たちもまた殺された団員たちの『復讐』、そしてあくなき『名誉』への渇望があった。
アピルが目を閉じて、
『……そうか。どうやら私の取り越し苦労だったようだな。では今から私はアラマン人と『交渉』とやらに臨むのでいつでも戦闘に入れるようにしておいてくれ』
「だーから俺らに命令すんじゃねぇって言ってんだろうがよ~!? てめぇの合図なんか知らねぇよ! 俺が好きなタイミングで襲い掛かるんだよぉ!」とアザランカ。
『貴様も何度でも反抗する奴だな……(呆れ)。我々はアラマン人が今何を考えているのか分からん。特に今回我々は今まで通りこちらから先に仕掛けることになると思っていた。だが今回こうやって敵が先に動いてきているではないか。ゆえに何を考えているか探りたいのだ』とアピル。
アピルたち『四天王』と魔王フェルゾは今回の戦いを『第三次総攻撃』と銘打った通り、自分たちから先に仕掛けることになると思っていた。アラマン軍が『埋め立て工事』を優先してくるだろうと踏んだからである。だがオルトロス候が予想に反して先に動いてきたのでアピルはその意図を知りたいと思っていた。
するとアンダニがいう。
「……あんたらちょっとぬるくないか? 『自分たちから動くはず』って別にアラマン人と話し合って決めたわけでもないんだろ? 今まで散々攻撃を受ける側だったから連中が今度は攻める側になったってだけじゃないか?」
「あるいは、この『要塞』を何とか排除したくて本気になってきたってことだろうな~?」とアザランカ。
アピルはよどみなく返した。
『それは言われなくても分かってる。我々が『アラマン人から動かない』というのは『連中に打てる手がない』ということだ。奴らはすでに『州都タルキュア』との『補給線』を斬らたままで他の補給線が復活しているわけでもない。ただ『バスタイ』方面に向かったらしい別動隊(ダーマス候&モストルス隊)だけが気になるが、奴らが『埋め立て地』と連絡を取り合っている形跡もない。となるとアラマン人は多方面から援軍のあてがあるわけでもなく、飢餓と損耗でどんどん弱っているのだ。『前の時より弱くなったのに同じ戦法で攻撃してくる』なんてことがありえるか? 普通攻撃してくるのなら最低限『勝てる見込み』があるから来るはずだ。そうではないか?』
確かに以前より疲労や消耗で弱くなっているのに全く同じ戦法で戦いを挑む奴はいないだろう。となるとアピルはオルトロス候との会話からそれを探りたいということである。だがアンダニとアザランカは納得いってなさそうな顔で、
「……だったら俺は『威力偵察』が良いと思うけどな~? その方が敵さんももっと色々見せてくれるだろう~?」とアザランカ。
『私はそうは思わん。『威力偵察』なんてもうそれは『戦闘』だ。我々だって兵力でも物資でも余裕がないのだから無駄な消耗を避けることを優先する』とアピル。
「それが『ぬるい』っていってんだよ。アラマン人の『凶暴性』がとんでもない連中だ。その性根じゃあ後手に回るだけだ。あんた本当に『知将』なのか? ただの臆病者にしかみえないね。本当にアラマン人に勝つためなら死もいとわない覚悟があるのかい?」とアンダニ。
『アンフィスバエナ』達が一斉に思った。
(そりゃあ我々にはそんな覚悟ないからな。『双角王』に帰順した時に自前の戦力が激減してて『以後の戦闘に参加できません』とかになるのが一番まずいことだし……)
人に『戦うのなら命かけろよ?』といいながら自分たちはその気がさらさらない『高等種族』達だった。
次回へ続く。




