マストカ・タルクス⑫『サリバン族』と『戦士バルビヌス』と『彼女の秘密』の話
『雷光の呪文』は相手を麻痺させる魔法です。殺傷能力はありません。
逆に『火槍の呪文』は炎のビームをぶつけて相手を爆殺する魔法です。殺意バリバリです。
実を言うと、僕は女子が苦手だ。
昔色々あって、正直良い思い出がない。
だから恋なんてしたことがなかった。女子は僕にとって『敵』だった、いや『天敵』か。
そのせいか全然女の子に免疫がないのは自覚してる……美人に迫られただけですぐ期待しちゃんだよ、単純だな自分……へへ。
『サリバン族』の村の中心部、急ごしらえで作られた『闘技場』に俺とシュナが登った。
『GUOOOOOOOOOOO!』
観客の鬼達が雄叫びを上げる。どうやらブーイングらしい。
「我らが英雄『バルビヌス』殿と麗しき国王陛下のおな~り~!」と審判らしき鬼。
さっきの通訳鬼と国王(族長)が俺達と向かい合った。
え、もしかして対戦相手ってあんたらなの?
『GUAOOOOOOOOOOOOOOO!』
またもや観客からコール、こっちは応援してるらしい。
違いが分かんねーよ。
通訳鬼が俺に言った。
「我が名はバルビヌス・アッバブブス・グスターレー。『サリバン族』最高の戦士にして栄誉ある『グスターレー』の名を継ぐ者だ!」
よく分からなかったのでシュナに聞いた。
「『グスターレー』とは鬼族の伝説に登場する古代の勇者ですわ。あの鬼はその子孫だと言っているのです。鬼の名門ですね」
そうなんだ……知らんがな。
「そしてこの御方は我が部族の長にして王者、サリバーン様だ! 覇王であると同時に我が部族最高の魔法使いでもあるのだ! ひれ伏すがいい人間!」
鬼族は族長の名前がそのまま部族名になるらしい。サリバーン王が鬼語でなんか言った。
「国王陛下は『小僧、お前が殺した我らの同胞は商人だ。商人は戦闘訓練を受けていない素人よ。だがこのバルビヌスは戦士階級だ。同じように倒せるとは思うな』とおっしゃられた」
確かにバルビヌスの身体は市場で倒した鬼の1.5倍くらいデカい。
……だからなんだってんだ!
俺は最強の武器『星空の剣』を抜いた。
「前置きが長いな、さっさと始めろよ」
「グググ……よかろう! 試合開始だ! GUOOOOOOOAAAA!」
俺とバルブヌスが向かい合い、双方の後ろにシュナとサリバーン王が立った。
審判らしき鬼がラッパみたいな楽器を吹き、試合が始まった。
「くたばれ人間!!」
バルビヌスが猛然と突進してきた。5メートルはありそうな巨体とかまるで戦車だ。
ていうか闘技場が狭くて逃げ場がないじゃねーか! 俺は仕方なく懐に飛びこんで戦いを仕掛ける。
「GUOOO!」
だけどバルビヌスはデカい斧をまるでナイフのように振り回してくる!
なんじゃこりゃ!? うわわ! 避け切れない……!
ガキィンッ!
斧に触れて俺の剣が手から離れた。一瞬頭が真っ白になるが、すぐに斧を避けて股下から背後へ回り込む。俺はバルビヌスとサリバーン王の間に入った。
丸腰だからって怯えるな俺!
「『GUOO↑UWA! GOUUVW!』」
「『唸れ焔よ! 燃やし貫け!』」
サリバーン王とシュナが同時に『火槍の呪文』を撃ち、バルビヌスが振り返って俺に蹴りを放つ!
バヂィッ!
『火槍の呪文』が打ち消し合い、俺は蹴りを避けてついでに地面の砂を掴んでバルビヌスの眼にぶつけた。
「GURRROOOOOOO!? 小癪なぁっ!」
驚くべきことに目を潰したはずなのにバルビヌスは怯まずに斧を打ち下ろす。それを捻って避けると、
「『GUUUUOOOA↑! GUUUOOWA!』」
「『光は鎖! 撃てよ雷霆!』」
シュナとサリバーンが同時に『雷光の呪文』を唱えて、また俺の目の前で打ち消し合う。
「戻れ! 『星空の剣』!」
一瞬発生した電光に隠れて魔法剣を呼び戻す。すると電光を突き破ってバルビヌスに腕の腕が伸びてきた!
「うお!?」
咄嗟に剣で斬るが構わずそのまま右腕を掴まれ持ち上げられる!
「ガァッ!」
ドガンッ!
背中から力いっぱい地面に叩きつけられて俺が動けなくなる。
「あ……がはっ!?」
「若殿!?」とシュナ。
「もらった! 死ねぇ!」
バルビヌスが斧を俺の頭に振り下ろした!
「『GUUUUOOOA↑! GUUUOOWA!』」
サリバン王が『雷光の呪文』を唱え、
「『我は汝、汝は我! 世界よ回れ!』」
シュナが『入れ替えの呪文』で俺と入れ替わり、俺にサリバーン王の『雷光の呪文』に当たって動けなくなる。
ん? ちょっと待って!? 入れ替えの呪文!? てことは斧はシュナの頭に打ち込まれ……、
グシャッ!
バルビヌスの斧がシュナの頭を割った。
俺は茫然として、何が起こったか理解できなかった。
この世界は夢か? ああそうか、夢だった。寝てたら転生したんだった。
なんだ、夢か……ならもう一回寝よう、寝ればまたいつもの部屋で目を覚ます。きっと決まった時間になるとシュナがやってきて魔法の勉強だ、うん、そうに違いない……。
遠くからアルヘイムの声が聞こえた。
「久々ですな、魔女の本性を見るのは」
……なんだって?
バルビヌスが悲鳴を上げて後退った。
「き、貴様は!? 貴様はもしや……!」
シュナの頭には深々と斧が刺さっている。しかし彼女はいつもの微笑みを浮かべて、
「……私? 私の名はシュナーヘルですわ。それが何か?」
「『シュナーヘル』だと? それは古代マムール語で『秘密』の意味だ。お前は一体何者なんだ!?」
斧が地面に落下した。傷も塞がり、まるで何事もなかったかのようにシュナが言う。
「サリバーン王はご存知のはずでは? 私ほど魔術師らしい魔術師はいないと思いますが?」
サリバーン王が真っ青になって震えている。バルビヌスが鬼語で何か言うと、口を震わせながら何か叫んだ。
「中止だ! 『神聖試合』は中止だ! 国王陛下はご気分が優れない! 今日は中止だ!」
バルビヌスがアラトア語と鬼語で叫ぶと、鬼達が足早に立ち去り始めた。
「人間ども! 『神聖試合』が中止になった以上、小僧と奴隷を引き渡すか戦争するかの2択だ! 今すぐ選べ!」
バルビヌスが他の鬼と一緒にサリバーン王を抱えながら叫んだ。
父上がすぐに剣を抜いて、
「なら戦争だ」
「よかろう! シュナーヘルとか言ったな!? 次あった時は必ず浄化してくれるわ!」
「浄化されるのは魔族であるあなた方ですわ」
サリバン村の門をくぐってすぐ、シュナが俺の治療を済ませてから皆に謝った。
「申し訳ありません、私のせいで戦争になってしまって……」
「そんな、シュナは俺をかばって……」
父上が言った。
「シュナーヘルが謝る必要はない。お前たちは不利な条件で戦わされていたんだ。鬼族は人間を家畜としか思ってないから公平な勝負なんて絶対せん。二人とも生きて帰って来たなら上出来だ、帰ったら褒美をやろう」
俺はシュナの肩に手を置くと、彼女は一瞬驚いた顔で俺を見てから、すぐにほほ笑んで手に触れた。
けどその表情は暗かった。
数日後、一旦帝都に帰って早速皇帝に報告すると、30歳の若きアラトア皇帝:サンマルテール3世が宣言した。
「それではこれよりサリバン族遠征を開始する! オルバースに5000の兵を与える、必ずサリバーン王の首を私の前に持ってくるのだ!」
「ははー!」
皇城の謁見の間で父上に宝石がいっぱい付いた剣が与えられた。これは軍隊の指揮権を与えられたという意味だ。
「父上が軍隊の総司令官に任命されるなんて驚きなんですけど……」
色々と儀式を済ませてから家に帰って俺が父上に言った。
「鬼族と戦争する以上当然だ。 それに『タルクス』は古い言葉で『青銅の剣』という意味だ。祖先が『英雄イヒルナス』から褒美として与えられた由緒ある苗字なんだぞ?」
そんな意味があったのか……知らなかった。
「マストカ、今回はお前は副指令官だ。気合を入れて行けよ」と父上。
「いぃ!? 副司令官!? 俺戦争なんてしたことないですよ!」
父上は残念そうな顔になって、
「なんだその反応は……普通は『活躍のチャンスだ!』と喜ぶものだ。戦争経験がないなんて知っとるわ。シュナーヘルとアルヘイムが補佐するから問題ない、あの2人は経験豊富だからな」
「だったらアルヘイムかシュナに任せてくださいよ……」
「アホかお前は。外国人に任せられるわけないだろ。これは貴族の仕事だ」
そうなんだ……貴族って罰ゲームじゃんか……。
はぁ、まあいいか。それよりも……シュナは今日来てるのだろうか?
俺が屋敷の中を歩き回っていると、庭にある細長い塔の上にシュナを見つけた。
この塔は遠くにある『中つ海』を見ながら食事を出来るようにと作られた場所だ。入り口かららせん状の階段を上ると一番上のテーブルが置かれた屋上に出る。
シュナ1人でこちらに背を向けて海を眺めていた。
俺の脳内に、頭を割られても平然としていたシュナの顔が蘇る。
うーん……なんていうか……、
なんて声をかければいいんだろう?
俺がマゴマゴしていると、シュナが振り向いた。
「……どうしました若殿? 私に何か御用ですか?」
「い、いや、その……シュナの様子がいつもと違うから……気になって……」
「? 私は今日若殿に会わずにまっすぐここに来ました。ここに来るまで若殿は私の様子を知らないはずですが?」
おおう、さすがだ。全部お見通しか……。
シュナがクスクス笑って、
「ふふ、相変わらず分かりやすいお方ですわ。それで? 何か御用ですか?」
「い、いや、それは……」
滅茶苦茶やりにくい! わざとやってるなシュナめ……
シュナが海を眺めていたのは、サリバン村で自分の化け物みたいな姿を見せてしまって、俺が怖がってないかと心配したからだろう。
でも俺は全然気にしてないんだ。そのことを伝えたかったのだけど、完全に言うタイミングを逃した感がある。言い出しづらいは!
なんかこう、良い感じに言い出せる振りはないだろうか? 違和感なく、できれば格好良く、シュナのハートにキューピットの矢どころかキューピットごとブッ刺せるようないい感じの奴!
「若殿は私が怖くないんですか?」
シュナが控えめに聞いてきた。
よし、これはびしっと決める。これは助け船って奴だ。すぐに脳内にカッコイイ口説き文句が錬成される。
『そんなの、こんなにも可憐で美しい君が怖いわけないだろ?』
これだ! 行け俺!
「えっと、可憐でニャ……じゃなくて、ちょっと待って! その、う、その……怖くない、です……はい」
……噛んだ。
シュナが変な顔して、
「可憐でにゃ? なんて言いました?」
「え゛ あ、あの……そのカッコイイこと言おうと思って、それでちょっと可憐な君は~とか言おうとしたら噛みました、はい……あ、怖くないです、あ、さっきも言ったか……まあ、そんな感じ、うん」
もう誰か俺を殺せ。
しばらく沈黙の後シュナが噴き出した。
「ぶっ! あはははは! 無理してカッコつけようとするから! 若殿ったら、あはははは!」
しばらく腹を抱えて笑った後、目に浮かんだ涙を拭って、
「ふう、若殿は空気を和ませたくてそんなこと言ったんですよね? ふふ、おかげで色々悩むのが馬鹿馬鹿しくなってきましたわ」
「そ、そそ! 俺辛気臭い雰囲気苦手でさ!」
俺はそこで頭を掻いてから続けた。
「そのなんていうか、シュナがそういう身体になったのは色々理由があったと思うんだ。もしかしたら望んでなったんじゃないかも知れない、だから俺は『そんな君でも素敵だよ』なんて無責任なことは言わない。でも斧で頭を割られても死なないからって、君を怖がったりもしない。第一シュナは800歳なんだろ? その時点で普通の人間じゃないくらい分かってるよ。だから驚いたりしないさ。それどころか、その……俺はシュナの事が……」
シュナが俺の顔に自分の顔を近づきてきて、唇を指で塞いだ。
彼女の目はキラキラ輝いていた。まるで海に浮かぶ夕日を見ているようで、俺は茫然と見つめることしか出来なかった。
「……それ以上は言ってはいけません。でも、若殿が何を言おうとしたのかは分かります。心が通じ合っていたことが私はとても嬉しいですわ……だから、それまでです」
俺が意識を取り戻して、
「……『古の法』? 『貴族は異民族と結婚してはならない』って……」
「若殿にはいずれ、御両親が相応しい女性を見つけなさるでしょう。誰かは分かりませんが、私ではないのは確かです」
シュナーヘルはアラトア人特有の赤毛じゃない、真っ白な髪だ。つまり彼女は異民族なのだ。
俺はキッと眉に力を入れて、
「……じゃあこれはどうだ」
俺はシュナを強引に抱き寄せてキスした。
『魔女』と呼ばれた女性は驚きで目を丸くしたが、強く抵抗はせず、ゆっくりと唇を離した。
眼には涙が浮かんでいた。俺が手で拭おうとすると、その手を彼女が握った。
「……私は若殿が羨ましい、800年も生きて私はすっかりお婆ちゃんになってしまいましたわ……今日の事は2人の秘密にしましょう、良いですか?」
「……俺は諦めないよ」
彼女は困ったような顔になった。
「……そうですか。そうならそれでもいいのですよ。想うことは自由ですわ。神々でも人の心までは干渉できませんから……」
俺はシュナ言葉にとても納得することはできなかった。
けど黙った。彼女を困らせたくなかったから。
俺はまだ、シュナの態度の理由を知らなかったのだ。
そう、この時は、まだ……。
アラトア帝国はかなり身分制が強固な国で、貴族の子弟は最初から軍団の指揮官とか任されます。軍隊は皇帝直属の近衛兵団と貴族が所有している私兵で構成されてまして、オルバースが引き連れてるのはタルクス家の私兵です。ですが形式上は『帝国軍』なので、皇帝から『指揮権』を移譲される儀式はやります。私兵の規模は貴族の家ごとに決められていて、兵士の数で貴族の家柄の格が分かるようになっています(裏設定)




