26 ……実は、君の絵を描きたんだ。
……実は、君の絵を描きたいんだ。
「三上さん。実は三上さんにお願いがあるんだけどいいかな?」
「え? なんですか?」
少し雑談を交えて会話をしたことで、やっと緊張がとけて、普段通りの声で未来は言った。
「僕はこの場所で自分の絵のリハビリをしているんだけど、それで……、実は一つ、試したいと思っていたことがあるんだ」
「うん。試したいこと」
缶コーヒーを飲んでから、未来は言う。
「きっかけを探している。そのきっかけっているのが、実は三上さん。君なんだ」
「え? 私?」
自分の顔を指差して未来は言う。
「うん。三上さん。もしよかったら、僕の絵のモデルになってくれないかな?」
そんなことを川原涙くんは、三上未来にそう言った。
そんなことを急に言われて、未来はすっごくびっくりしてしまった。……絵のモデルって、私を涙くんが描くってこと? え? えっと……。(未来はそんなことあるはずもないのに、自分がヌードになるようなイメージを一瞬思い浮かべてしまった。……恥ずかしい)
「さっきのスケッチブック。風景画ばかりで、人物画が一つもなかったでしょ?」涙くんは言う。
「うん。確かに」未来はうなずく。(確かに人を(あるいは誰かの顔を)描いた絵は一枚もなかった。全部風景の絵ばかりだった)
うーんと言いながら、人差し指を口元に当てながら、未来はそんなことを思い出した。




