1 ……あなたはちゃんと、幸せになってね。
君の抜け殻
登場人物
恩田鶴 ツインテールのお嬢様女学生 十八歳
竹内菫 鶴の憧れているお嬢様女学生 十八歳
清宮桃子 菫専属のメイドさん 二十歳
藤原薫 菫の思い人 二十歳(本編に直接は登場しない?)
本編
……あなたはちゃんと、幸せになってね。
お嬢様たちが集まる京都にある名門私立秋桜女学園に通う高校三年生の生徒、恩田鶴は一人の同級生に憧れていた。
その相手の名前は、鶴と同じ教室にいる竹内菫という名前の生徒だった。
菫はお嬢様たちが集まるこの名門私立秋桜女学園においても、抜きん出た清楚で可憐なお嬢様だった。
実家の竹内家も元華族という名家であり、菫を慕ってる生徒は鶴だけではなくて、ほかにもたくさん、大勢いた。
だから一年生のときには、鶴は菫のことをただ、遠くから見ていることしかできなかった。
そんな鶴に奇跡が起きたのは二年生の教室替えのときだった。
なんと鶴は憧れの菫と同じ教室になり、それだけではなくて、くじ引きの結果、菫の隣の席に座ることになったのだ。
「よろしくね、恩田さん」と美しい一輪の花のような笑顔で、菫は鶴に言った。
そのとき、自分がなんて菫に返事をしたのか、鶴は緊張のあまり忘れてしまって、今は覚えてはいなかった。
それからの一年間は本当に鶴にとって幸せな時間が続いた。
周囲の目は少しだけ痛かったけど、いつまでも、いつまでも、こんな風に菫と一緒に過ごすことのできる時間が続けばいいと思っていた。
高校二年生の一年の時間を通じて、いつの間にか、鶴はもっとも菫と親しい友達になっていた。
でも、なかなかに人生は厳しいようだ。
なにごともずっと幸せなまま、とは行かないようで、鶴の幸せな時間にも終わりが訪れた。
高校三年生になってすぐの四月ごろ、菫は学園にこなくなった。
理由は実家の竹内家の都合ということで、詳しいことはわからなかったが、そのまま菫は五月に学園をやめて、違う学校に転校することになった。
それらの情報を鶴は担任の笹岡先生から聞いただけで、菫は結局、高校三年生になってからは、転校までの間、席だけは置いて、一度も学園には通学してこなかった。
菫がもうこの学園には通学してこないということや、五月ごろには転校をすると言った情報は最初の報告のときに、笹岡先生がみんなに伝えた。
鶴は本当にとても大きなショックを受けた。
そんなことは鶴は当の本人である菫から一言も話を聞いてはいなかった。
実家の竹内家に電話をしても、菫に取り次いではもらえなかった。
鶴は菫と会えなくなった。
これが永遠の菫とのお別れになるのだと考えて、鶴はその日の夜に、自分の部屋の中にあるベットに潜り込んで、ずっと一人で泣いていた。




