料理下手が異世界居酒屋を開く
最近のって美味しいよね
「大将、取り敢えず生ビールと唐揚げ」
俺は席に着くなりカウンターの向こうで料理している料理人……英吉利大将に注文を叫んだ
ここは変わった料理を出すことで有名な『ディスカウントショップ ヒデ』と言う店だ、初めて来た時は余りに風変わりな料理に度肝を抜かれたが、今では常連と言っていい程通ってる
チーン
軽快な鈴の音と共に大将が料理を運んで来た
どういう魔法か知らないが、ここはメニューが豊富な癖に、出来上がるのがしこたま早いんだ
「おまちどう…」
相変わらずな無愛想な大将だ、だが腕は良い
生ビールと唐揚げがテーブルに置かれる
先ずは生ビールからだ
プシュッ
俺は缶の蓋を開けると、生ぬるいビールを一気に煽った
「くはーっ!このシュワシュワと果物の風味がたまらねーっ!」
この生ビールってやつは色々な種類があって、来る度に変わるが、どれも街で飲むエールなんかより断然ウマイ!
今日はレモンだな、缶にも絵が描いてあって、一目瞭然なのも憎い
さてと、次はメインの唐揚げだ
俺は皿に引っ付いた唐揚げをひとつ摘まみ……噛み締める!
あーーーーーっ!口の中が油で一杯だーーー!
高級品の油を惜しみもなく使い、更に肉は信じられない位に柔らかい!
噛む度に油が口の中に広がって行くのを感じる、どれだけの手間を掛けてるか想像もできねー!
そして、そこに生ビールだ!
グビグビグビグビ……プファッー!?
このシュワシュワが喉を押し出す感じがたまらねーっ!
「やっぱり大将の料理は最高だ!」
「ははっ、ありがとうよ……」
まったく、この大将は職人と言うか拘り派と言うか、俺らがいくら料理を誉めても微妙な笑顔しかしねー
まだまだ自分の料理に満足してないんだろーな、志が高いねー
「大将、次は刺身と丸鳥くれ」
「あいよ…」
パカッ、トン
この音も堪らねーんだよな
皿に出した丸鳥と刺身を大将が俺の前に置いた
先ずは刺身……の前に生ビールのお代わりを貰う
今度はグレープフルーツか、流石大将、分かってるー
刺身は毎回、見たこともない素材の軽い皿に入っている
その皿を覆うような透明な蓋を開けて食べるんだが
「よしっ!今日は太陽マーク付きだ」
透明な蓋に、赤丸に黄色い太陽みたいなマークが張って在るときは当たりだ
黄色い部分には、知らない文字で《半額》と書いてあるが
これは大将の故郷の言葉で『買わなきゃ損』という意味らしい
要するに、食べなきゃ人生を損するって意味だ
俺は先ず、醤油ってソースをドバドバと刺身にかける
次にワサビという磨り下ろした香草を目一杯付ける!
一切れ食べると……
んまぁーーーーーーーいっ!テーレッテレー
初めて見たときは、生の魚なんか食えるか!と思ったけど、慣れたら、うめーーーー!!
イカっていう白いのは、ヌルヌルチュポンっとして最高だし
マグロってやつは、この生臭さが病み付きになる……所謂ツウってやつだ、この前大将に教えて貰った
だが一番はこの白くて細切りにしたやつだな
シャキシャキした歯応えが堪らない!
大将に聞いたら、ツマって言ってたな
ここら辺にも居るらしいから、今度買いに行こう
この魚は生臭さが全く無くて、すげーうめーんだよ
「くはーっ!大将の作る刺身は堪らねーなー!」
俺がツマを食べながら言ったら、大将が苦笑いしながら「お、おう…」とか苦悶の表情で言いやがる
おっと、料理の邪魔だったかな?悪い悪い
粗方食べたら次は、俺がこの店に来たら絶対に頼む丸鳥だ!
何でも『海の鶏』って名前らしいが、調理方法は決まってて、毎回ほぐした身を油で漬け込んである
うん?違うのか
どうやら大将曰く、この料理の名前が『海の鶏』ってやつらしい
まーどっちでもいいや、ウマイなら
ただ俺達常連は、皿の上に円柱状に盛られて出されるから、丸鳥と呼んでいるがな
最初は何も調味料を付けずに食うのが、俺のジャスティスだ
一口分をゆっくりと口に運ぶと、舌の上でじっくりと味わう……
濃厚な油ーーーーーーーーっ!!
唐揚げとは違う油を使ってるんだろうな、もうそのまま飲んでも間違いなくウマイ油の味が口一杯に広がって
一言で表すなら…………パラダイスっ!
そしてそこにまた生ビールだ!
グビグビグビグビ……プファッー!?
あ~~、シュワシュワがシュワシュワが堪らんのです!
丸鳥→生ビール→丸鳥→生ビールの永久機関がここに誕生した
だが、俺の進撃はまだ終わらないぜ
半分くらい丸鳥を食べたら、味変だ!
魅惑のソース、マヨネーズを丸鳥に思いっきり掛けて……混ぜる!
混ぜ終わったら、醤油と七味を掛ける
ここで七味か一味かは常連の中でも意見が別れる所だが、俺は七味だ!
───一応言っておくが、一味と七味がどっちがウマイとか言うなよ
戦争になるからな
味変した丸鳥を喰らう……食うじゃないぞ、喰らうだ!貪り喰らうの喰らうだ!
口の中に溢れる、丸鳥とマヨネーズのハーモニー♪
醤油と七味がそれをシンフォニーへと押し上げ
気分はまさにウォークライ
フォォォォォォォォォーーーーーーーー!!ダダダッダダダッダンダダンッ!!
おっと、うっかりウォークライを他の常連と踊ってしまった
こんないい店で騒いじゃいけねーよな
「大将すまねー、余りにウマかったから踊っちまった」
「大丈夫だ……ううっ」
「おいおい、何で泣いてるんだよ、また誰かが大将の料理をべた褒めしたのか?」
「ううっ……すまん、本当にすまん……ううっ、良心の呵責が……」
この大将、誉められると最後には泣きながら謝る癖があるんだよな
誉められて泣くのは分かるが、何で謝るんだろ?
不思議だ
「大将が何で謝ってるか分からないけど、大将の料理はみんなが絶賛するくらいウマイんだ……だから、もっと堂々としてくれよ」
「堂々と出来るかーーーー!もうこうなったらヤケだ、Co◯壱から出前取ってやる!」
この日伝説が生まれた、大将が本気を出した料理『Co◯壱から出前取ってやる』は、大陸至高の七品の一つに認定されたのだ
─────────────────────────────
「ウマイ料理ってのは、こういうのを言うんだ!トッピングはほうれん草と豚カツだ、食ってみろ」
ガツガツガツガツ
「すごいわ!すごいわ大将!」
ガツガツガツガツ
「こんなウマイの食ったことねー」
ガツガツガツガツ
「ああ~、わし……長生きして本当に良かった」
ガツガツガツガツ
「大将が謝ってた理由も分かる!これが大将の本気なんだな」
ガツガツガツガツ
「なるほどね、今までの料理は大将にとっては、手軽に作れる簡単な物だったのね」
ガツガツガツガツ
「だから料理を誉められても、こんなの全然本気の料理じゃない、と謝ってたのか」
「待って、違うから、それ俺が作ったのじゃないから」
ガツガツガツガツ
「大将……この近くに大将以上の料理人なんていないぞ」
「いや、それは裏口から……あーーもーーーっ!?」
ペロペロペロペロ
「大将、お代わりは無いか?金ならあるぞ」
ペロペロペロペロ
「待って、私もお代わり」
「……俺用に、あと一人前だけある……」
「国王として命ずる、それを献上せよ!」
「あっ、ズルい、こんな時だけ国王ぶるなんて!いつもは、街に居るときは身分とか関係ないって言ってる癖に!」
「え?国王さま?」
「大将は気にしないでいいよ、因みに俺は騎士団長な」
「ワシは宮廷魔術師じゃ」
「私は王妃よ、それよりお代わりはまだ?」
「国の重鎮が下町の居酒屋の常連になってんじゃねーよ!あーもー!ちょっと待ってろ、Co◯壱から出前取ってやんよ!!」
「「「「わーーーーーい」」」」
初日にテンパってビールとチューハイを間違えて出したら、こっちの方が好まれて、訂正出来なかったという、緻密な設定