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移住計画。  作者: 山狩楚歌
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第4話「マジックアワー計画」

 夜明けと共に芝が濡れている。僕はホットの缶コーヒーとベンチに座り飲み自分を焦らしている。

まだだ。ダメだ。辺りが暗くて空がよく見えない。


 太陽が少しずつ登り始めるとそれは綺麗な紫と黄色の空に青とオレンジの朝日が混ざり合うマジックアワーが見れるんだ。

それをみることが出来れば上手く飛べる気がするし、こういう時こそ願掛けに頼るのも良いじゃないか。


 焦らす僕は芝で手を濡らし、お手製の発射台のレバーを引くと勢い良く飛び立ち、

マジックアワーのコントラストの中、僕は全身全霊びしょびしょになった。

それがとても気持ちよかった。若干教授は嫌そうだと思っていたが、

思いの外プール開きの感覚の様な背筋と頭がもぞもぞするような心地よさがあった。


顔の水を拭い空を見上げるとみるみる小さくなる3段式ペッドボトルロケットが淡い色の空を突き破る。

1段目が切り離されると2段目で再噴射し、ますます小さくなる。


 僕はレバーを引いた所で空を見上げてペットボトルロケットから目を離さぬ様に

5歩後ろに大股で下がると、それはとても良く切り離しの構造が見えたんだ。

ブーストが掛かる前に僕はもう5歩大股で後ろに下がろうとすると

柔らかい感触とぶつかり、何かを踏みつけ背中からふんわり転げてしまって。


 その切り離しの先のペットボトルロケットを見失って空を見上げてしまった。


「キャー!痛い~い!」


 慌てて叫び声が聞こえると僕は「あ、ゴメンなさい!!!」と言いながらその声と共に芝生に倒れ込み、

グレープフルーツが頭にコツンと優しく転がって来て、

「あいたたた」と言葉にならない甲高い声は僕の耳元で鼓膜を揺らした。


「大丈夫?立てる?」


「うん。大丈夫。」


「なら良かった。危ないじゃないか!もう少しで見失う所だった。」


僕は安心して雨に濡れた芝生に頭の上で腕を組み横たわる。

ブラウスにスカートのいい匂いをする女の子もころんだ体勢から寝返りを打ち横になる。


「とても、綺麗だったので……」


 ブースターが作動し高く飛行したのを確認出来るととてつもない舞い上がる嬉しさがこみ上げた。

僕達はペットボトルの残骸が落ちて来るのを眺め自分達に残骸が落ちてこない事を願った。

ぼとぼと落ちたペットボトルの残骸は風も何も吹いてないため、発射台のすぐ近くに落ち、乱雑に散らばる。

隣の子はペットボトルが落ちる音で身体が反応していたから、僕はそっと口を開いた。


「あと、2つ来るよ。」


「2つ?」


ボス…ボス


「ほらね?よし安全だ。起き上がって。」


 僕は飛び起き手を差し伸べる。

起き上がるとお互い芝生を身に纏い目線は合わせず遠い電柱を見る。


「ありがと。いつもここでロケットやってるの?」


「いや、今日が始めてだよ?」


「嘘つき。毎日この辺で打ち上がってるでしょ?」


「僕じゃないよ。そのペットボトルロケットは教授のでね……」


 彼女に僕はこれまでの事を話す。全く信じてくれやしなかった。

朝も昼も夕方も毎日ここでペットボトルロケットを打ち上げてるのを見ていたらしい。

彼女はバイオマス学科で隣の棟の壁の向こう側から見ていて今日通りがかったら僕が打ち上げている。

ということだった。


「今度うちの教授を紹介するよ。」


「嘘つき。今度ね。」


 彼女は僕のペットボトルロケットを凄いとも言わず、

転んでビショビショになったにもかかわらず酷いとも言わず、

マジックアワーが終わった校内を1人歩いて行った。


「背中!まだ芝生…ついてる!」


2人しか居ない校内で彼女に背中の遠く後ろの方で大声を響かす。


「嘘つき!知ってるん!」


2人だけの木霊は二人がギリギリ届く距離で聞こえ、一瞬振り返りまた歩いた。



 片付けをして講義の無い僕は、今日も教授の部屋でホットココアを片手にケプラー186fの資料を漁っていた。

ケプラー186fは本当に住める環境なのであろうか。太陽系が出来てからあるってことは地球と同じ様に地球外生命体が居るかもしれない。

しかし地球外生命体が居たとしてもそれは進化の過程で人間の形をしているのだろうか。

地球よりも酸素が濃かったら。恐竜みたいな巨大陸上生物が居るのだろうか。


もし地球で隕石や火山の噴火が起こらずに酸素の量が減少しなかったら、人間に匹敵する進化後の恐竜はまだ大きく人間が出てきて無いかもしれない。

氷河期という生物にとっての半減期はあったものの酸素の減少は地球外的要因が重なり偶然が必然を呼んだ。


 ケプラー186fで考えてみると、地球と同じ境遇ではあるものの地球よりも周りに惑星が無いためか惑星間の衝突は起こりにくいと考えられるが、

地球と衝突し地球を削り取り飛ばされた星がベースになりケプラー186fを形成したと考えると、

何も出来ないが高鳴る鼓動を止める方法を僕はまだ知らなかった。

地球よりも寒暖の差が激しかったら、衰退の一途を辿り早くに生命は絶滅しもの家のカラだろう。とかは全く考えられない程感動していた。


教授は朝からコーヒーを入れ僕と話をするなり目と心を踊らせ、

自分のペットボトルロケットの構造の見直しをひたすらしている。


「まさか学生君がブースターの構造を1発で成功させるなんて…

それに第2ドレインは水と油を入れ油との比重で間に浮く浮きを作りそれで作動させるなんて…

ダメだダメだ…もうノートを見せてくれ。知識を分かち合おうじゃないか。君の文化の人生を僕も歩みたい。」


「ダメです。このノートは僕の知的財産です。でも難問の交換条件ならいいですよ?」


「よしこい。どんなだ?」


「ケプラー186fに行くのにどのくらいの燃料を積むんですか?

それと燃料が無くなったらどうやって動かすんですか?」


「簡単だな。打ち上げだけの燃料だよ。

大気圏だけ突破しちゃえば後は等速運動だからね。

打ち上げた後はソーラーを並列で噛ませてその電源で方向を変える。

後は作物の茎からバイオマスで固形燃料も確保できるよ。」


「へー。あ、やっぱりダメです。このノートは見せられないです。」


「私が教えたじゃないか!難問に答えたらそのノートを一瞬だけ一瞬でいいから……」


僕はノートを抱きかかえるように握りしめた。

教授はとても普通そうな答え方をした。僕が常識的に知って居なかった問題はとても小さな答えだった。


ただ、僕は小さい子供が嬉しそうにダンゴムシを持っているのと同じ様に

普通の人には理解されないノートの宝物を持っていた。


それがなんとも嬉しくて手放したく無かっただけなのかもしれない。



校正:H29.08.30

誤記訂正しました。

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