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移住計画。  作者: 山狩楚歌
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第3話「モンメタリ実習計画」

誰かが押したオルタネイト制御ボタンで僕の街は雨が降った。


僕はそのボタンを探し押し、止ませられるか戸惑っていた。


それで僕はしょうがないから、探す宛もなく傘を差し大学に向かうんだ。


 昨日家に帰ってから3段式ペットボトルロケットの図を描いてみて、

その下にでっかく「目標:2段目に350mlのブースターを2本つける!」と書いたが、

それ以降絵は一向に進んで居なかった。


 ただ、ベットに寝そべりながら書いたペットボトル内圧のタイムチャートは

寝相と同期され途中から弱々しく圧力がなくなっていた。


寝相に反して「文化」とも書いてあったがそれは文化のイメージとは真逆な規律が無い造形文字だった。


 僕は立ち止まると弱々しい文化の後ろに「=前の段階を継続すること」

と書きノートを閉じてまた水たまりに足を踏み込む。


雨は道路の地形を浮き彫りにする。毎日見ている真っ直ぐなレールの様な一本道の道路も

雨により小さい山あり谷あり水溜まりを作りながら真っ直ぐを目指しているんだ。


僕は正門をくぐり抜け、雨に濡れた掲示板を見た。

生物物理学の研究員募集の掲示物はインクがにじみ文章が途切れていたんだ。

僕はPCラボから同じ掲示物をちぎり取って来ると教務に駆け込み、

ラミネートしてもらいまた同じ日焼け跡の所に掲載した。


そうすると、他の掲示物とは違うにじみの無い

掲示物の出来上がりだ。大きな教授のデータ印のハンコは半分ちぎれているが、

他には到底及ばない程輝いて見えたんだ。



何でだろうね。まだ僕は教授の所には入ると言った訳でも申請した訳でも無いのに。

でも、この研究室には輝いてて欲しかったのかもしれない。

僕の中で衰退し終わって欲しくないただ一つの”文化”だった。


講義の教室に入ると僕がそれほど大事にしている文化の匂いがした。

白衣に身をまとい黒板を消しながら準備をしている助教授だった。


助教授が”授業を始めます”と言わなくてもその講義室には規律があり、みんな助教授の事を横目に気にして

すぐに席につける準備は出来ていた。それほど慕われている助教授は「機器振動学概論」の授業を静かに始めた。


「機器振動学の参考書128ページ、いいですか。

第1回の講義でいきなりここを開いてもらったのには理由があります。


君たちは物質が環境の振動でどのような影響を与えるか、どのような振動の固有値なのかを線形代数を使い求め、

モード解析をすることによってどんな振動でもマトリクス振動解析出来るようにこれから勉強していきます。


モード座標が求められる様になれば、どんな解析も証明でき無くせます、また、どんな振動も起こせダッフィング系振動をも排除出来ます。

そのためにまずは退屈かもしれないが、線形代数と強制振動の解析の基礎を学ぶ為に

バイクのサスペンションのような簡単な自由振動の解析から勉強して行こうと思います。それでは3ページ…」


 128ページには第6章マトリクス振動解析と題字があり、

自然にページが起き上がり189ページがめくれると後ろの方には非線型振動のカオス応答波形や

サーキットのコースのような位相平面上の軌道の応答波形があった。

その日の助教授の講義は概要の話と練習問題を少し解き僕の頭を悩ませた。


 その他の講義は基礎の物理や数学や英語だったので窓際の席で外を眺め雲が消え去りそれでもまだ雨が降っていた記憶しか無かったが、

電気制御実習の有接点配線は実際に配線をやらせられたので覚えている。

ボタンはスパークが飛ぶものと、ガスを流すボタン、空気を流すボタンがあった、

配線の後にテストでカチカチしながら炎が付いたり消えたり、酸素を絞ると付きが良かったり悪かったり。


 燃焼工学実習では液体燃料のビーカーの重さから3種類の比重の違うモノの各重さの割り出しをしてみる実習だったが、

大体が食塩水の問題と何ら変わらずに何不自由無く退屈な実習を終えた。


 今日の講義はここまで。後は何も取ってなかったので原動機概論の教室がどこか聞かれたが

僕は晴雨の虹にあっけに取られて知っていても知らない事にした。

あの学生には申し訳なかったがこれほど見続けたい虹が今まであっただろうか。

雨の一粒一粒に虹がかかっているんだ。ほんとうさ。

虹の流星群を浴びたいと窓から外に出てみたが、ただ雨だけを浴びた。

それは虹に向かって走っても感じ取れないものだろう。

向こうの植木の人は虹の流星群に打たれているのに。


 右の芝生では、今日も教授が3段式ペットボトルロケットを虹に向かって打ち上げていた。

今日は何かブースターが付いているが、ブースターは作動していない。

雨で髪の毛がぴったりしているこの人には諦めるという事を知らないのだろうか。

僕は傘を差し歩き出すと足元のブースターが付いたペットボトルロケットの残骸を拾い上げ教授に差し出した。


「教授、雨なんで条件が良くないですよ。風邪ひきますよ。」


「条件が悪い時に実験をして何が悪いんだ。条件が悪い時なのは条件が揃っている平凡な日だ。

条件が悪いから自分の実力が分かり工夫の種が見えてくるもんだ。

君には分かるかい?私が昨日言った文化って意味が。

文化とは足踏みをすることだ。しかし、文化の中で維持する事はまた違う文化を生み出すための準備期間に過ぎない。

自分の可能性を信じて文化の中で、空中で、足踏みをすればまた違う文化が自分の中で育つ。枯れるモノもあるだろう。

しかし、すぐに変えられる文化は文化ではない。今日実習があったろう?」


「電気制御の実習があってボタンに配線して電球を光らせたり炎をつけたり消したリしましたが。」


「ボタンには3種類あったろう?」


「ボタンの制御が違いました。」


「そう、同じように見えても違うもの。

この私のブースター付きの制御はなぜ間違っている?」


渡されたペットボトルロケットには2段目に350mlのブースターとなるペットボトルが2つ付いており、

ブースターの出口バルブは1段目と2段目の切り離しのカプラに長めの釣り糸で繋がれて

釣り糸はすぐに解ける様に束ねられていた。


教授は2段目の容量を計算して排出距離と1段目の落下のスピードで距離を割り出し、

釣り糸の長さとしていたのだが悪天候では思うような距離が出ずタイミングが

バラバラとなっていてブースターが作動していなかった。


黙っていると教授が頭を掻いて静かに話しだした。

今となっては内容など覚えていないが、僕は何かブースターのアイデアの種を思い付き想いを巡らせて聞いていなかった。


僕はその晩柴犬の散歩がてら僕が作りたいペットボトルロケットの材料の買い出しに行き、

柴犬をそれは退屈にさせただろう。首を足で掻いて道路に酔っ払ったおじさんみたいに寝っ転がっていたからね。


買ったモノは、大コーラを4本に小コーラを2本サラダ油を1本に水道カプラを5つに自電車のパンクセット…パーティでも始まりそうだね。

足踏みをする僕の3段式ペットボトルロケットのパーティは始まった。

カッターナイフで加工し養生テープでぐるぐる巻きにすると居てもたっても居られなくなり玄関の柴犬に見せに行った。


「柴犬、これ分かるか?偉いぞ偉いぞ!ワクワクするなぁ!そうだろ?凄いだろ」


と小一時間黙々と作業してた僕はきょとんとした柴犬に見せ頭をめいいっぱい撫でると柴犬は喜んだ。


この工作とメモ用紙が物語る今日一日かかる実習だったのかも知れない。

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