最終話
クリスマス・パーティー会場になっている体育館の前に、学園のヌシ“リュウノスケ”が箱座りをして、ガブリエラとハルナを待ち構える。
二人の姿を確認するやいなや、スックと立ち上がり二人に駆け寄ると頭を擦り付けた。
ガブリエラは、リュウノスケの巨体を持ち上げ、
「メリークリスマス、リュウノスケ。相変わらず、元気そうね」
そう言うとリュウノスケにキスをする。
リュウノスケは『ナーゴ』と鳴き、グルルと喉を鳴らした。
ハルナは、恐る恐るリュウノスケの頭を撫でる。
「自分、リュウノスケ言うんや。よろしくな。ウチ、ハルナや」
リュウノスケはハルナをちらりと見て、再び『ナーゴ』と鳴いた。
歓迎すると言ってるみたいた。
リュウノスケはガブリエラから飛び降りると、会場入口に歩き出しドアを頭で開け、二人を誘った。
ガブリエラは、目を細め微笑む。
「まぁ、なんてジェントルマンな猫なんでしょ。私達をエスコートしてるわ」
ハルナも笑う。
「ホンマや、ガブリィ」
二人はリュウノスケの頭を撫で、パーティー会場に入った。
会場内では、丁度、こころがみなみからの電話を切り、桜子がレーイチからの報告メールを見て、笑い合っていた。
そんななかハルナは、
「ちょっと挨拶してくる」
そうガブリエラに言い放つと、ステージに駆け上がった。
驚いたのは桜子や“はねくみ”、いや正確には、会場にいたガブリエラ以外の全員であろうか。
髪の毛の長さや色こそ違え、ハルナのルックスがあまりにも瑠奈そっくりなのだ。
桜子は驚き、ステージのハルナに問い掛ける。
「瑠奈?ううん違う・・・。貴女は誰?ハルナ?会った事有る気がするけど・・・」
藍が冷静に桜子に囁く、
「桜子ちゃん、あの娘は、瑠奈ちゃんやウチらの知ってるハルナちゃんやおへん。全くの別人どす」
ハルナはニヤリと不敵に笑い、
「人に尋ねる前に、自分から名乗るのが筋違うん?アンタ?」
桜子はハルナの挑発的な態度にムッとするが、気を落ち着け、
「アタシは鷲尾桜子。この学園の生徒会会長。アナタは?」
「ウチか?ウチはアンタのライバルになる為に、遠路遥々クインシアからやって来たハルナ=スッツワルブムーア・フォン・タイラーや。よろしくな」
そう言い放つとステージから飛び降り、桜子に右手を差し出した。
桜子はクインシアと聞きかなり驚くが、何かを悟ったのかハルナの差し出した手を握り、
「ようこそ、アタシ達の聖クリストファー学園国際高等学校へ。ハルナ=スッツワルブムーア・フォン・タイラーさん。歓迎します」
刹那、ポロリと桜子の目から涙が一滴頬を伝う。
《この手の感じ、ぬくもりはまさしく・・・・、瑠奈!》
ハルナの手を引き寄せ、抱きしめた。
自然と口から出た台詞は、
「お帰り、瑠奈・・・」
ハルナは数秒抱きしめられたままでいたが、桜子から身体を離すと、
「ち、ちょっと勘違いせんといて、ウチはハルナや瑠奈って子とは違うで、生徒会長さん」
桜子が驚き現実を受け止めれずにいると、ガブリエラが近付きと声をかけた。
「メリークリスマス、桜子。そういう事だから、このハルナと仲良くしてやってね」
桜子は不思議な面持ちでガブリエラを見詰め、
「アナタはガブリエラさん・・・?にしては若いような・・・?」
ガブリエラはクスッと笑い、
「そうよ。あなたの知ってるそのガブリエラ。ある事情によりこの姿になってしまったの。ハルナもそう。詳しくはまた後で・・・」
ガブリエラは桜子を抱き寄せると、頬にキスをした。
耳元で囁く。
「私も四月からここに来るから、よろしく」
“はねくみ”のメンバーはハルナの事にも驚いているのに、ガブリエラが学園に来ると聞いてさらに驚きを隠せない。
こころは思わず、
「あちゃー、これはまた何か起こる気がするとよ」
ローズは楽しそうに、
「ワクワクスルねー、そう思わナイ?ベス」
ベスはニヤリと笑い、
「フォローがまた大変になりそうね」
皐月は深くため息を吐くと、
「ちょっとベス、そのフォローするの大概、アタシなんだから・・・」
藍は、にぱぁと天使の微笑みで、
「ふふふ。ホンマどすなぁー、嵐の予感どす。でも、よろしいやおへんか。仲間が増えるのは、最高のクリスマスプレゼントどす」
同時刻、大阪府大阪市中央区平野町、豹崎モータース2階にある豹崎法律事務所。
事務所の主である真こと真矢が書類を片しているなか、2メートルを越す大男の虎谷鉄矢と真の姉の雪が応接テーブルに料理を広げやシャンパンを楽しんでいた。
雪はかなり酔っ払っており、
「真、早くこっち来て、アンタも料理食べ~」
鉄は両手に焼いたトリモモ肉を持ち、豪快にかぶりつくと、
「んまー!雪姉ーの料理、最高やわ。真、美味いぞ~。んぐっ、うっ。水、水ぅ~」
喉を詰まらせた鉄の前に、事務員の小泉彩香が、グラスに水をついで置き、
「慌てて食べるからですよ、鉄さん。奥さんはまた演奏旅行?」
鉄は、ゴクゴク水を一気に飲み、
「ぷはぁー、死ぬかと思たわ、彩香ちゃん、おおきに。そやねん、奈々は、涼太郎を連れてニューヨーク・フィルと演奏旅行。今日は確かワシントンD.C.やったはずや」
彩香は驚き、
「淋しくないんですか?鉄さん」
真が書類を片しながら、
「彩香ちゃん、鉄は奈々にベタ惚れだから、何も言えないのさ」
鉄はため息を吐くと、
「確かにな・・・。まぁ、刑事なんて因果な商売やってたら余計や。家で帰りを待ってるより、演奏旅行であちこち廻ってもらってる方がええ。せやけどな、真。今日の昼過ぎ、嬉しい報告があったんや。奈々がまた妊娠したって!」
雪と彩香は祝杯をあげ、『うぉ~、おめでと~』と叫ぶ。
真は書類を放り出し、
「止めだ、止め。めでたい仕事なんかやってられるか!鉄。最高のクリスマス・プレゼントじゃないか。今日は徹底的に飲むぞ。そうだ、後でJJも呼びだそう」
皆んなが盛り上がるなか、事務所の扉をノックする音が、
「真、鉄、俺だ、龍之介だ。メリークリスマス、頼まれたワインとシャンパン持ってきたぞ」
様々な謎を残しクリスマスの夜は更けていく。
完