表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第3話

同時刻、福岡県福岡市中央区西公園近くの孤児保護施設“博多ちびっ子園”。

施設には、大阪にいるこころ、そして、“はねくみ”メンバーからから山のようにプレゼントが届けられていた。

子供達は既に料理を食べ終え、クリスマスケーキを食べていた。

そんななか、身長150cmそこそこの日焼けをし元気を絵に描いたような女の子が、携帯を取り出し、ある番号を回す。

すぐ相手は出た。

「姉っちゃ、メリークリスマス!みなみ、とよ。プレゼントありがとー、みんな喜んでると~。桜子おねーちゃん達にも、礼ば言っといてって、園長先生が。うん、うん、分かっとると。ほんで、今日は、も一つ嬉しい事が有ったと、え?早く言えって?姉っちゃは相変わらずせっかちたいねー。はい、はい、言うと。ウチね、バレーでの特待生で、姉っちゃの学校に行く事になったと。また一緒にバレーが出来るとよ~、バリ嬉しか~。詳しくは、お正月に帰ってきた時に。うん、うん、じゃ、また連絡すると」

携帯を切ると、弟や妹達に笑いかけ、

「みんな、正月にこころお姉ーちゃん帰ってくるとよ、楽しみやねー」


同時刻、愛知県名古屋市千種区星が丘。

日本屈指の自動車メーカー、鶴咲自動車工業社長宅では、主人不在のまま妻の美紅(みく)、長女の紅葉(くれは)、弟の紅一郎(こういちろう)がクリスマスディナーを楽しんでいた。

どうやら、主人は海外出張中らしい。

義母の美紅が、ナプキンで口を拭き、

「紅葉さん、あなた、名古屋の高校じゃなく大阪の高校に進学するって、本当?」

紅葉と呼ばれたすらりとした身長を持ち髪の毛を縦ロールに巻いたの女の子は、フォークとナイフを置くと、

「ええ、今日、ピアノの特待生での合格通知が届きましたわ、お義母様」

「パパから、紅葉は自由にさせろとは言われてるとはいえ、大阪は遠いんじゃ・・・」

紅一郎が言葉を遮る。

「母さん、違うよ。姉さんは尊敬する桜子さんが居るから、大阪の学校に行きたいのさ」

「桜子さんって、あの鷲尾さん所の?」

紅葉は頷く。

初夏にあった事件以降、紅葉と義母の関係は、かなり修復されていた。

「まぁ、それなら安心ね。そうでなかったら・・・、私、若葉(わかば)さんにどう顔向けしていいか。了解(わか)りました。お父様には、私からも大阪の学校へ行けるよう口添えしておきますから。安心してね、紅葉さん」

紅葉は微笑むと、

《少し前なら、こんな風に義母(はは)の事、信用してなかったんだろうな・・・》

紅一郎が紅葉に笑いかけ、

「とは言っても、姉さんもたまには帰って来るんだろ?名古屋?」

紅葉は二人に微笑み、

「ええ。新幹線で1時間、アーバンライナーでも2時間あれば帰ってこれるもの。お義母様の手料理もたまには食べたいし・・・」

美紅は涙ぐみ、

「あら、それじゃもっとお料理上手にならないと・・・」

紅一郎が少し呆れ気味に、

「母さん、でも姉さんの為に特訓だと言って、毎日同じ料理を僕に食べさせるのはやめてくれよ」

紅葉はクスッと笑い、

「あら、紅一郎、そこは我慢しないと。男の子なんだから」

笑顔がこぼれ、笑い声が部屋に響く。

紅葉は、安心して春から進学出来るみたいだ。

紅葉はまた、初夏にあった出来事を思い出し、

《あの娘も来るのかな・・・、仲良くなれると思うんだけど・・・》


同時刻、滋賀県甲賀市。

郊外にある鷺宮(さぎみや)家を、睦月や皐月の父である烏丸(からすま)玄馬(げんば)が訪れていた。

鷺宮家は玄馬の妹が嫁いでおり、言うまでもなく“忍び”の一族である。

クリスマスではあるが、玄馬が(しし)肉を土産に持ってきたので、七面鳥やチキンではなくぼたん鍋を食べていた。

玄馬は熱燗を口にし、

「いやぁ、さすがにこっちは冷えるなぁ。僕は寒いの苦手やわ」

「そんなに冷えますか?義兄さん」

そう言いながら、家長の鷺宮(さぎみや)風太郎(ふうたろう)は玄馬に酌をする。

「ああ、多摩も寒いけど、こっちの寒さはこたえるなぁ」

「兄さんはいつも大袈裟なのよ」

二人のぼたん鍋をよそりながら、玄馬の妹、つまり、風太郎の嫁に当たる鷺宮(さぎみや)桔梗(ききょう)が意地悪く答えた。

玄関が開き、元気な声が飛び込んでくる。

鷺宮家の一人娘、(かえで)だ。

「お父ちゃん、お母ちゃん、ただいま~」

楓はダイニングの扉を開け、両親と玄馬を確認すると、

「あっ、烏丸のおっちゃん、いらっしゃい」

玄馬は楓に笑いかけ、

「えらい遅いなあ、楓ちゃん。塾かい?」

「ええ。受験生ですから」

玄馬は、ため息を一つ()くと、

「残念やなぁ、その受験勉強無駄になったかも・・・」

楓は困った顔をし、

「え~、マジで?おっちゃん」

風太郎と桔梗は顔を見合わせると、クスクス笑い、

「楓、座りなさい。話がある」

楓は、素直に椅子を引き座ると、

「何?お父ちゃん」

風太郎は聖クリストファー学園国際高等学校と印刷された大きい封筒を、楓に差し出し、

「中を見てご覧」

恐る恐る楓が封筒を開けてみると、

「えー、何々?合格通知書!?嘘っー!ウチ、受けてないのに何で?」

玄馬がニヤリと笑い、

「学校の名前に見覚えはないかい?楓ちゃん?」

楓は同封されている学校パンフレットの表紙を見て、

「聖クリストファー・・・、聖クリ?聞いた事があるような・・・」

ページをめくり、見知った誰かを見つけ思わず声を出す。

「あ”ー、これ、桜子さん!って事は・・・、思い出した!睦月兄ぃや皐月姉ぇのいてる学校やん!」

玄馬は、意地悪にため息を()き、

「進学する気が無ければしょうがない・・・、この話は無かった事に・・・」

封筒を取り上げようとすると、楓はぎゅっと封筒を抱きしめ、

「嫌ーや、嫌やや!ウチ、この高校行く!絶対行く!ここしか行きたくない!」

玄馬、風太郎、そして、桔梗は顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。

「素直な子に育てたなぁ、風太郎くん、桔梗」

玄馬が妹夫婦を褒めた。

「いやぁ、跳ねっ返りのじゃじゃ馬で・・・」

「手がかかるのよ、兄さん」

楓は、ぽかんとして、

「ねぇ、烏丸のおっちゃん。ウチ、褒められてるん?けなされてるん?」

玄馬は楓の頭をクシャッとして、破顔する。

「褒めてんだよ、楓ちゃん」

風太郎が、楓を諭す様に、

「楓、お前にとって、この学園での三年間が組織での初めての仕事になる。心してかかれ。しかし、最高のクリスマスプレゼントだな」

楓は大きく頷き、

「うん。ウチ、頑張る。烏丸のおっちゃん、ありがとう!」

ちなみに、睦月と皐月は、従姉妹の楓が入学するのを、未だ知らなかったりするのだが・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ