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第2話

賑わうクリスマスパーティー会場の中、桜子は藍を伴いステージに上がった。

ステージ上には、ローズと皐月により既にピアノがセッティングされ、会場の誰ともなく拍手で二人を迎える。

片や桜子の手には、先程こころが寮の部屋から走って取ってきたバイオリンが握られていた。


少しほろ酔いの理事長・JJが、近くにいた桜子達の担任教師・緒川を捕まえ、

「ねー、ねー、智ちゃん先生。今からあの二人演奏()るノ?確か、藍ちゃんは、この後ステージの予定だったケド・・・」

「ええ、理事長。どうしても演奏()りたいって言うんで、オーケストラ部の植村先生相談して、特別に許可しました」

「あー、それでネ」

JJは桜子の演奏が聴けるので、嬉しそうだ。


会場が薄暗くなり、ステージの上の桜子にのみスポット・ライトが当たる。

ベスが一人で数箇所ある照明を操っていた。

桜子はペコリと頭を下げ、

「メリークリスマス、会場の皆さん。生徒会会長、鷲尾です。本当は今から、ここにいる藍のステージでしたが、無理を言って2曲を演奏()らせてもらう事になりました。まず最初に、今はここにいない親友に捧ぐ曲、クロード・ドビュッシーの“月の光”」

桜子は藍と目を合わせると、曲を奏でだした。

柔らかく優しく、そして、少し哀しい旋律が会場を染める。

会場の人々は語るのを止め、じっと曲に聴き入り、中には瑠奈を思い出し涙ぐむ生徒達もいた。

桜子はバイオリンを操りながら、瑠奈を思い出す。

涙が一筋頬を伝う。

《瑠奈・・・》

また、藍は目を閉じたまま曲を奏で、

《今日の桜子ちゃんの演奏は感情的どすなぁ・・・?小督(おづつ)ちゃん?》

《ほんに・・・》

桜子はよりいっそう“熱”を、“思い”を込め、演奏を続けた。


桜子と藍が“月の光”を奏で終わると、真っ先にこころが号泣しながら、拍手した。

《なんか泣けるとよ・・・》

会場の生徒達、教師達も続き拍手を送る。

桜子はペコリと一礼し、

「ご静聴ありがとうございました。次は、少し明るい曲を・・・、ピョートル・チャイコフスキーのバレエ組曲“くるみ割り人形”より“クリスマス・ツリー”」

明るく楽しげなメロディーが会場に溢れだす。


こころは、安心したのか空腹を覚え、周りを見渡した。

《美味そーな料理が、先生達のテーブルに沢山まだ残っているとよ・・・》

こころの目が怪しくキランと光り、そろりと料理に近付く。

教師達は桜子達の演奏に夢中で、こころに気付かない。

こころは七面鳥の丸焼きの足をバキっと取り、そのままかぶりつく。

肉汁が口の中に広がる。

《ん~~~》

桜子と藍が演奏を終えた丁度その時、緊張の切れたこころは思わず口にする。

「美味か~~!」

ステージ上から桜子が、弦でこころを指差し、

「こころ、ちょっとアナタ、何やってるの?」

騒然とした会場の視線が、桜子達ではなくこころに集まる。

こころは赤面し、

「ちゃー、やらかしたとよー。桜子、大丈夫、アンタの分もあると」

無邪気に笑い、もう一つの手に持った七面鳥の足を桜子に見せた。

桜子は赤面し、

「ち、違うわよ、アタシは取っておいてなんて言ってないから・・・」

どっと笑いが会場を埋め、和やかな雰囲気が漂う。


そんな中、パーティー会場に向かう一機のヘリコプターが在った。

機体にはクインシア王国の赤地にアゲハ蝶の紋章が・・・。

「ガブリィ、今から行くのが、来年からウチが世話になる学校?」

ガブリィと呼ばれた外国人の女の子は、プラチナブロンドの髪を揺らし、

「そうよ、ハルナ。何か思い出した?もう少ししたら見えてくるのが、あなたと私の通う聖クリストファー学園国際高校。姫さまに感謝するのよ」

ハルナは眼下の街並みをを見下ろし、

「はいはい、ガブリィ。姫さまにありがとー言うといて。ウチは、ローゼンヌの学校でも良かったのに」

ガブリィは、クスッと笑い、

「あら、いきなりローゼンヌの騎士学校は、ハルナには無理だわ。もっと一般教養や基礎学力を付けないと・・・。その為の日本留学なんだから」

「え~、そんなにウチ、学力足りてない?」

ガブリィは、ため息を()くと、

「全く残念ながらね・・・。クインシア王国の学校は、容赦無く落第させるし・・・。その為に高校は日本でって、姫さまの考えなんだから・・・。それに、あなたはまだクインシーズを話せないでしょ?いくらヨシュア王のお口添えで、我がタイラー家の養女となったとしても、それなりにしてもらわないとね」

「うぐっ・・・」

そんな二人のやり取りを聞いていた黒髪の青年は、操縦桿を握りったまま、

「くっくっく。ハルナと姉上との会話は、面白いなぁ」

「ちょっと、ミハエル。笑ってる暇あったら、もっと飛ばしなさい」

命令口調でガブリィは、ミハエルに命じる。

姉上と呼ばれたにも関わらず、ガブリィは10代後半に、ミハエルよりも若く見えた。

《姉上は、若返えられてから、気がより強くなった気がする。ハルナもそうなのかな?やはり、“エーヴィヒ・ブルート”の持ち主である姫さまの影響か・・・・》

ミハエルがそんな考えを巡らせているなか、ハルナが不思議そうに、

「そう言えば、姫さまは?なんで一緒に来日しなかったん?」

ガブリィが口惜しい面持ちで、

「姫さまは、今日はバチカンに行っておられるわ。王さまと向こうで落ち合われて、ローマ法王直々のクリスマス・ミサにご出席の予定。私も本来ならば、お供でバチカンに行くはずだった・・・」

ハルナは珍しく素直に謝り、

「そーなんや、ガブリィ。堪忍な、ゴメンやで」

ガブリィはため息を一つ()くと、

「とは言え、これも姫さま直々の依頼だから、ハルナ、気にしなくていいわ」

ハルナは破顔し、

「そー言うてくれると、ウチは嬉しい。おおきに、ガブリエラお義姉(ねぇ)ーちゃん」

ガブリエラはお義姉ちゃんと言われ、照れた。

ヘリコプターは速度を上げ、聖クリストファー国際学園を目指す。


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