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それいけ! メイドレス・スリー  作者: みやしん
■第三章 ミカ
11/32

■■ 「先生、すいません教科書忘れました」

 翌日の朝、華子は公太郎の家に訪れていた。

 普段起こしに来る時刻よりずっと早いが投稿するための支度は済んでおり、もしもを考えて彼用の弁当箱とついでの自分の弁当箱を入れた巾着袋もぶら下げている。

 そして玄関先で念仏を唱えるように何回もうなずきながら、

「……これは公太郎のおばさんに頼まれたからしかたなく来ているのしょうがないの」

 そう自分に向かって語りかけていた。イメージトレーニングのようなものなのだろう。

 心の生理がつくとポケットから預かった合鍵を取り出し、扉を開け一応「おじゃまします」と小さな声をかけると中に入った。

 靴を脱ぐ段階になって土間を見てみると二七センチのバスケットシューズは公太郎のもの、深緑色のパンプスはフタバのものだが、新たに追加されている見慣れない濃いブルーのピンヒールはなんだろうと首をひねった。

 それを見ているとなぜか悪寒を感じたのだが気にしないように首を振って家の中にあがりこみ、いつものように彼女用のスリッパを履いた。

 ちなみに桜庭家にも公太郎用のスリッパがある。家中でそれを使う習慣が無い彼のものは綺麗なままだった。

 華子はおそるおそる廊下を進む。彼の部屋は二階の奥だ、玄関先で声を上げても聞こえることはまれなのだが、今はフタバがいるしどこで鉢合わせになるか判らない。

 公太郎の両親から公式に頼まれているのだしそれほど後ろめたく無いのだが、足音殺し階段に向かっていると目の前に人影が現れ立ちふさがった。

 出会い頭である。華子が悲鳴を上げなかったのは目の前の女性が自分だったからだ。

〈こんなところに鏡?〉

 それにしては様子がおかしい。鏡の中の自分は左右反対の画像になって同じように驚いているのだが、相手は長髪を両耳の上でサイドテイルにまとめており、自分より少しだけ派手目な化粧をしていた。

 着ている洋服も異なるのだが、試しに右手を挙げてみると鏡の中の自分も同じように手を挙げる。今度は左手で窓ふきするときちんと同じ動きで窓ふきしていた。

 うーんと思って右手を顎に当てると相手も同じポーズを取っている。

〈やっぱり鏡? それともあたしが寝ぼけてるの? こんな髪型一〇年もしてないはず〉

 華子は左側に首を傾けたのに対して、鏡の中の自分は逆方向に動いていた。

「なるほどこれはよーく似ているわね、フタバが間違えるはずだわ」

 続いて鏡の中から聞こえてきた声に華子は目を見開いた。

「あ、あなたは誰?」

 とっさにそこから逃げだそうとした華子だが、それよりも素早く動いた鏡の中の自分……ヒトミは右腕を差し出すと華子の盆の窪に人差し指を伸ばした。

 指先から小さな火花が飛ぶと華子は身体を大きく震わせその場に倒れそうになる。

「おっと」

 ヒトミは彼女を抱きかかえ、

「いい夢、見ていてね」

 そう呟くと怪しくほほえんだ。


  §


「おはようございます、ご主人様」

 その朝、公太郎は実に爽やかな声で目覚めていた。

 布団を少しめくって声の方向に顔を向けるとそこに、まん丸メガネの天使の笑顔がある。

「おはようフタバ……もう動いて大丈夫なのか」

「はい、まだ本調子でありませんが、お世話に差し支えありません。ご心配おかけして申し訳ありませんでした」

 そして深々とお辞儀をする彼女の頭にはあのフリル付きカチューシャが乗っていた。

 時計を見ると午前七時、朝食の時刻である。

「台所、大変なことになってなかったか?」

「もう片付いてますので、お食事には問題ありません」

 あの状態が元に戻ると思えないのだがフタバの表情と言葉から、食事の支度ができる程度に落ち着いたのだろうと想像した。

 きっと大変だったのだろう、元々はヒトミのせいなのに……そこで彼は昨日の浴室での会話を思い出した。

〈フタバも命令すれば何でもしてくれる〉

「それではお支度が済みましたらダイニングにお越し下さい」

「あのさフタバ。お願いがあるんだけど」

 お辞儀をし部屋から出ていこうとする彼女に声をかけた。

「なんでしょう?」

「ええと、その、お目覚めの、キ、キスをしてくれないかな?」

 自分で言っていても恥ずかしいのだが、これを聞いた彼女はどう反応するだろうか。怪訝な表情を見せるだろうか、恥ずかしがって顔を伏せるだろうか?

 ところがフタバの返事はどちらでも無かった。

「はい、かしこまりました」

〈なんだって?〉

 よどみも迷いも無い、実に彼女らしいはっきりとした声に公太郎はあっけにとられ口をぽかんと開いてしまった。

 静かにベットに近づいたフタバはまだ寝ている公太郎に覆い被さるように身を乗り出した。

「お口でよろしいですか?」

「え、その、ハイ……」

「それでは失礼します」

 にっこりと笑顔を浮かべたあと目を閉じ唇を寄せた。彼女との口づけは初めてでは無い。一昨日のDNA採取でも目的は異なるが手段は同じだったし、その時は舌先まで口内に入っている。

 それに今度は自分のリクエストだ、それなのに彼の身体は布団の中で完全に硬直していた。

〈……これは命令だからしかたないのか〉

 目の前にまん丸メガネが迫り石けんのほのかな香りが鼻孔に満たされる……あとほんの少しで唇が重なるその瞬間に彼はフタバの顔をよけていた。

「ご、ごめん、もういいよ」

 彼女の動きがまるで機械のようにぴたりと止まった。ややあって少しずつ顔が離れ、まぶたを開いたフタバはとてもすまなそうな表情を公太郎に向けている。

「あの……どこか作法を間違えましたでしょうか」

「い、いや、目を覚まそうと思っただけなんだよ、フタバは悪くないから。着替えたらすぐにダイニングにいくからね」

「はい、ではお待ちしております」

 苦し紛れの言い訳に彼女は明るくうなずくと部屋を出ていった。

 滝のように流れる冷たい汗に、シャワーを浴びたい気分になった公太郎は、

〈これが悪魔になるってことなのかな〉

 そう思い深いため息をついていた。


  §


 昨日のヒトミの言葉通りなら、食材はほとんど無かったはずだ。

 そこをフタバにたずねてみると今朝近所のコンビニエンスストアに買い物に出かけたそうだ。値段を考慮すると駅前のスーパーマーケットを利用したかったのだがそこが開くのは午前一一時、今回は選択の余地が無かった、昨日のうちに買い物を済ませるべきだったと彼女は頭を下げた。

 メイド服のまま出かけたのかと思ったが、周りへの配慮のためコートを着用したらしい。それでも頭のフリルはいつも通りなのだろう。

 お金については手持ちが不足しており丈太郎から渡されていたキャッシュカードから備え付けのATMを使用し必要な額だけ降ろしたそうだ。おそらく四桁の金額だろうがヒトミに九桁の残高を見せられているのでそこまで細かくしなくても良いのにと思った。

 そもそも祖父の口座を使用することは無いのだ。生活資金については両親からの振り込み先である華子と相談しないといけないだろう。

 不安に駆られて台所を見ると、昨日の騒ぎが何事も無かったかのように綺麗に片付いていた。むしろあの凄まじい状況の方が嘘のように思えてくる。これは着替え同様フタバの掃除風景も見ておけば良かったと後悔した。

 朝の献立は昨日と同じくトーストとサラダに目玉焼きとカップスープだが、泥水以下のラーメンと比べものにならない。

 食事らしい食事を終えて公太郎が「ごちそうさま」を言ったあと、フタバは食器を片付けながらすぐれない表情を見せた。

「実はまだ本調子では無いので、今日はわたしが学校まで付きそえないのです」

 もしかしたら朝のご挨拶の一件を気にしているのかと思った公太郎は、どこかほっとしながら笑顔を返した。

「無理しないで今日は一日休んでいなよ」

「そうは参りません。そこで本日は姉さんに付き添ってもらうことになりました」

 彼の背中がぞぞっと震えていた。食事中に聞いていたら一気に食欲が萎えるところだった。

「ヒトミが来るの?」

「はい……それについて打ち合わせも済んでいるのですけど、まだ支度を終えていないようなのです」

 時計を見ると七時半。ぎりぎりまで待っても良いのだが何となく嫌な予感があった。

「俺、とりあえず先にいくよ。遅刻してもまずいし」

「申し訳ありません」

「フタバが謝ることでは無いけど、ヒトミには学校の住所を教えてあとで来てもらって」

「はい、そう伝えます」

 彼はカバンを肩にかけそそくさと立ち上がった。そのまま玄関に向かうと当然のようにフタバが付いてきて見送ってくれる。

「それじゃ、いってくるね」

「いってらっしゃいませ」

 公太郎は彼女の声を背に受け玄関を出ていった。

 その時はスリッパ入れに華子用のそれが無くなっていることに気がつかなかったのだ。

 

 

 ぱたんと閉じた扉にフタバが鍵をかけて台所に戻ろうとすると、物陰から顔を出してにっこりとほほえんでいるのはヒトミだった。

「姉さん、ご主人様は今学校にいかれましたよ。まだ間に合うからすぐに……」

「フタバ、ちょーっと頼みがあるんだけどな」

「……頼み?」

 何かを企んでいるのが明白な姉の顔に、フタバのメガネの奥の瞳が曇っていた。


  §


「あっれぇー、今日フタバちゃんお休みなのぉー」

 公太郎が教室に入り自分の席に着くなり平蔵がそんな声を上げた。視線は公太郎の後ろにある空席を見ている。

 ただ残念そうな声を上げたのは平蔵一人だが、それはクラスのほとんどの男子が思っていたようだ。

「昨日だって見学してただけなんだし、まだ正式に転入が決まったわけじゃないぞ」

 教室全体から聞こえてきそうなため息を聞き流し隣の席を見た。まだ華子は来ていないようだ。

 今日の問題はヒトミがここまでやって来た時のことだろう。

 メイドが二人に増えさらに華子とそっくりだなんてこれ以上混乱を増やしたく無いのだが、どうすれば良いかを思案していると、廊下側の席が何やら騒がしくなった。

 なんだろうと思ってそちらを向くと、華子が少し遅れて教室に入っただけだった……そのように見えただけだったのだが。

 いつもの服装とカバン、それに弁当が入った巾着袋を持った華子は、昨日までの彼女と違う雰囲気をまといこちらに近づいて来る。

 普段の華子はほとんど化粧をしていない。せいぜい唇にリップを塗る程度だがそれも冬場の乾燥でかさかさになるのを防ぐためだ。

 今の彼女は鮮やかなルージュをひいていた。特に目立つのは唇だが顔全体にどこか大人びた化粧を施しており、高校二年生と思えない色気を振りまいている。

 さらに判りやすい違いは髪だろう。伸ばすと癖毛でお手入れが大変と入学以来ショートに切りそろえていた髪は、緩やかなウエーブのかかったロングヘアとなりそれを両耳の少し上でサイドテイルにまとめ細いリボンを着けていた。それらが歩くごとに美しく揺れている。

 冬着でありながら身体の曲線を十分喚起させる歩き方も漂う色気の原因かもしれない。

 昨日までのどこか可愛い女の子から、目が離せない美女に変化している、教室はそんな彼女の変貌に驚いたものだった。

 もともとクラスの男子に人気があった華子である。それがこのように変わったとなると見過ごすことができないのだろう。

 その彼女が席に腰掛ける前に公太郎を見ると笑を浮かべた。

「おはよー、公太郎くん」

 語尾にハートマークが付きそうな発音で挨拶した。

 声は華子そのものだが公太郎はその正体にすぐに気がついていた。

「おい、何やってるんだヒト……」

 皆まで言う前に華子≒[ほとんど等しい]ヒトミの右手の人差し指が彼の唇を塞ぐ。さらに彼にしか見えない小さな火花が指先から出ていた。

〈こ、こいつ本気でヤル気だな……〉

 明らかな殺気に声が出ない。彼女はそれを見届けるともう一度にっこりほほえんで自分の席に腰掛けた。

 その後斜め前でぽかんとしている平蔵にも「おはよー」と挨拶する。当然空気を読まないことで有名な男である。

「……桜庭、なんか雰囲気変わったよな」

「そーかしら、どこか変に見えて?」

「だってさ、髪も急に伸びたし」

「これはヴィックよ。一度伸ばしてみるとどうなるか試してみたくて」

「へえ、そこまで自然にできるなんて最近のは地毛とほとんど変わらないんだな」

 さすがヒトミである。すっかり平蔵を丸め込んでいた。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴りすかさず担任の碧が入って来た。いつものように教室内をくるりと見回し出席確認は終了のはずなのだが、当然のように華子の席でいったんぴたりと止まった。

 それから少し考え込んだあと出席簿にチェックを付ける。

「今日はフタバくんの見学は無しと……ところで桜庭」

「ハーイ」

 碧に名前を呼ばれたヒトミは元気良く返事をする。

「イメージチェンジか?」

「はい、ちょっとだけ試してみました」

 その返事に納得したらしい緑は朝の諸注意を述べ教室から出ていった。

 例によってこの学校の校則では化粧について何も規制されていない。今のヒトミ程度であれば関心を引くほどでも無いのだろうが、普段の華子の装いとそれなりに異なっていたため確認したのだろう。

 そのあと一時間目の現代国語の教師が入ってきても特に注目されず授業を開始した。

 そこで公太郎はおもむろに手を上げた。

「先生、すいません教科書忘れました」

「なんだ萌葱、たまに起きていたと思ったらだらしないぞ」

「桜庭さんに見せてもらっていいですか?」

「しかたない、桜庭、みせてやれ」

 教師に指示されるまでもなく公太郎とヒトミは机を寄せ合い真ん中に教科書を開いた。

 さらに肩を寄せ合う二人、いつの間にそんなに仲が深まったのかとざわめく男子、あのイメチェンはフタバへの対抗心かと想像する女子、そんな思いを全部はねのけ公太郎は自分のノートをヒトミに近づけると彼女に見えるように殴り書きしていた。

『ハナはどうした!』

 それに対してヒトミは彼のノートに滑らかにシャープペンシルを走らせる。

『あたし、桜庭華子よ』

 その上最後に可愛らしくハートマークを付けたのである。

 それを皮切りにノートの上で口論が始まった。

『ふざけんな、本物のハナはどうしたんだよ』

『おうちのあんたの部屋のベットで寝ているわ』

『なんだと』

『今はいい夢見てるんじゃないかしら?』

『何をやった!』

『朝、あんたを迎えに来たからその時にちょっとね』

「ちょっとねじゃないだろう!」

 そこは思わず声になったが公太郎は慌ててうつむいた。

『ばーか』

『なんだとこの味覚オンチ』

『何よその言い方! せっかく苦手なの我慢して料理作ったのに』

『あれを料理と言いたいのならハナの弁当でも食ってからにしろ!』

『どういう意味よ!』

『あれは食べ物じゃない、毒だ!』

「何ですって!」

 今度はヒトミが声に出していた。彼女は照れ笑いを浮かべてごまかしている。

『バーカ』

『ばかと言った方がばかなのよ!』

『なら最初にバカって言ったのはヒトミだろう』

『何度言わせれば判るの、あたしは華子だって言っているでしょう、ばーか』

『また言ったな、このバーカ』

『ばーか』『バーカ』

『ばーか』『バーカ』

『ふん、アンドロイド一つおもちゃにできなくて、何がマスターよ!』

『なんだと?』

『今朝だってフタバにキスを迫っておいて、最後の最後で笑ってごまかすなんてサイテー』

『何でおまえが知ってるんだよ』

『だからー、あたしたちは繋がっているって言ってるじゃない、何にも覚えてないの? このばかマスター』

『うるさい、このバカメイド』

『ばーか』『バーカ』

『ばーか』『バーカ』

「ばーか」

「バーカ」

「そこ、桜庭に萌葱!」

 二人は同時に教壇を見た。ヒートアップしたのだろう、いつの間にか筆談で無く口に出していたのだ。

「夫婦ゲンカは廊下でやれ!」

 結局二人は級友たちの失笑と嫉妬と羨望に送られ廊下に仲良く立つことになった。

 その原因をめぐり廊下でも罵りあいを続け、休み時間に職員室でこってりと絞られることになったのは言うまでも無い。


  §


 同時刻。

〈姉さん、楽しそうだな〉

 公太郎の自室でフタバはそんなことを考えていた。

ヒトミが言うとおり、この姉妹は繋がっているため相手の感覚器官をいつでもモニターできる。

 フタバとしては公太郎の様子と姉がきちんと仕事をしているか不安で聞き耳をたてていた。

〈やっぱり、わたしがいけば良かったかも……〉

 そしてそんな風に後悔していた。後悔と言えばヒトミも言っていた朝のご挨拶である。

 どうせならあのまま動作を中断しなければ良かった、あの時姉さんならどうするだろう、またその時ご主人様は中断しただろうか……そうシミュレートして小さく肩を落とす。

 彼女の目の前には本物の桜庭華子が公太郎のベットに寝かされていた。ヒトミの頼みとは彼女の監視役である。

 どうやらショックを受けた状態が良くないのか、姉にそっくりの綺麗な顔立ちは眉間にしわがより少し苦しそうにゆがんでいた。

「……違う違う、靴下は……三段目の引き出しの……奥だってば」

 寝言である。試しに洋服ダンスに近づいたフタバは三段目の奥を見てみると、確かに靴下が入っている。

 末禅高校で初めて彼女を見た時、姉が変装していると思っていた。今は目を閉じているが見れば見るほどそっくりだ。

 行動パターンに若干の差分があるが声を模写し昨日得た学校の情報を元に派手に動かなければヒトミの正体がばれる確率はとても低い。数値にするとヒトミの計算で二.一三パーセント、ただしフタバの計算で一八.九パーセントである。

 フタバはベットに乗って華子の鼻を人差し指で少し上向きに押さえてみる。それでも目覚めないが悪夢が上乗せされたのか、眉間に刻まれたしわがより深くなった。

「ふが、ふが、止めなさいよ……公太郎!」

 フタバはメガネを直して肩の力を抜くと、まだ身体の調子も良くないし二人が帰ってくるまですることも無いので、華子の隣に横になる。

《姉さん、わたし夕方まで待機状態になるから》

《大丈夫?》

 すぐに返事があった。フタバにつまらない役を押しつけたのを気にしているのか心配そうである。

《わたしは平気だから、ご主人様のお相手はきちんとおこなってね》

《判ってるわよ! それじゃ、お休み。何かあったら緊急ルートで起こすから》

 そこで接続は切れた。

 フタバは横になったままちらりと華子の様子を見て大きなため息をついていた。

〈わたしって、損な性格なのかな〉

 その直後彼女は待機状態となり、エネルギー消費が高い対人間疑似モードを停止していた。

 体温が下がり呼吸と鼓動を止め、身体は全く動かなくなる。体内のメンテナンスをおこなうミリ単位の超小型ロボット、ミリマシンにエネルギーを優先供給し姉妹からの緊急通信を受け付けるブロックのみを定期稼働させた。

 その外見は、ほとんど死体と同じであった。


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