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9.ランタンとついでの提案

「おい、利春。騒いでないで先に進まないか?」

 いつまでも坂上と篠津君が掛け合いを続けてるのを見て、春日井先輩がそう言った。

 あまりにぽんぽんとリズムよく続く会話に私が目を奪われている間、先輩は暇を持て余していたらしい。

 体格のいい先輩が行儀悪くしゃがみ込んで二人をにらみあげると、かなりの迫力がある。

「あー、そうそうそう。もうおやつの時間が過ぎちゃったね」

「あと二時間もすれば暗くなるぞ」

「暗くなるくらいがちょうどいいと思うけどねー。よし、じゃあかぼちゃをほじくり返そうか」

 坂上は張り切って腕まくりをした。

「かぼちゃは見てくれがいいのを十個乗せてきたから。えーっと、いちにいさん……はち、八人だね。一人一個ランタン作ろうねー。道具は五つあるから順番で」

 とりあえず下ろす? そう坂上が声をかけると、男性陣がかぼちゃを一輪車から降ろして並べる。

 大きさも、色合いもどれも微妙に違う。

「好きなの選んでねー」

 坂上は言い残して次は家の中から作業道具を持ってくると、袋をひっくり返して地面に落とした。

 アメリカっぽいパッケージのセットが五つ。

「準備万端だね」

「中央通りからちょっと奥に入ったところの輸入雑貨で買い占めたよ」

 私が感心して目を丸くすると、ふふんと自慢げに坂上は胸を張る。

「そんなお店があるのね」

 小坂さんがパッケージの一つを手に取った。私も一つ持って、裏の説明書きを見た。

「イラスト入りでわかりやすいね」

 説明文はあるけど、残念ながら英語。ぽつぽつと単語しかわからない。

 かぼちゃの頭を切って、中をくりぬいて、中にろうそくを立てようって感じの内容だってイラストとあわせるとわかるけど。

 坂上は今度は家の中に入っていった。しばらくして、原口君と一緒に戻ってくる。

「じゃあじゃんけんで先組決めるよー」

「里中さんは?」

 ずっと静かだった羽黒君がぽつっと口にすると、坂上は家の中を見て肩を上げた。

「まだ準備があるんだって」

「あ、じゃあ手伝おうかな私」

「えーっ。未夏ちゃん何でええ?」

 私が言うと大げさに坂上は騒いだ。でも何でって事もないじゃない。

「一人だけ準備って悪いでしょ?」

 その言葉に、はっとしたように坂上もうなずいた。

「そうね、それがよさそう。道具の数もちょうどいいし、先に挑戦してて」

 小坂さんは言うなり早速家の方に向かった。

「あ、よろしくお願いします?」

「正直あんまり役立つ自信もないけどね」

 私も小坂さんの後を追って、家の中に駆け込んだ。




 台所はすっかり麻衣子のお城と化していた。

 たくさんのボウルとか、まな板や包丁、スポンジケーキやクッキーが所狭しとテーブルに並んでいる。

「里中さん、何をすればいいかしら」

「あー、えーっと」

 エプロンを身につけて、腕まくりをした麻衣子は小坂さんの問いかけに手を止めた。

「じゃあ、生クリームを泡立ててもらっていい?」

「ええ」

 麻衣子は持っていたボウルを小坂さんに押しつけて、ハンドミキサーを渡した。

「未夏は使い終わった道具を洗って」

 入り口でたたずむ私にも指示を飛ばして、麻衣子はコンロに向かう。流し台に立つとちょうど隣に麻衣子がいて、今はぐつぐつとかぼちゃを煮付けているようだった。

「どれだけ作ってるの?」

「しこたま」

 聞いてみると答えになってるんだかなっていないんだかわからない答え。コンロは三つ、その二つのどちらにもかぼちゃがいっぱい入っている。

 流しの三角コーナーには皮の残がいがたくさん。それもオレンジのヤツじゃなくて、よく見る緑のかぼちゃの皮。一体何個のかぼちゃを使ったんだろうってくらいにあふれそうに入ってる。

 スポンジに洗剤を垂らして泡立てながら辺りを見ると、かぼちゃのイラストの缶詰までいくつかあった。

「料理用は普通のかぼちゃなの?」

「そ」

「これも学校で?」

「そうよー」

 鍋の様子を確認する麻衣子はどこか上の空。

「かぼちゃの缶詰まであるとは知らなかったわ」

「それは坂上が面白がって買ってきたヤツ。スープにしようかと思うけど、どんな味なのかしらね?」

「かぼちゃの缶詰って、ペースト?」

 小坂さんも物珍しそうに缶詰を見た。

「みたいよー」

「味は付いてないように思うけど」

「まあ、多少クセがあってもコンソメ入れたらおいしくなるでしょ」

 麻衣子の動きも手慣れたものだったし、小坂さんの動きも同様。

 麻衣子主導で二人はてきぱき動いている。こういうときに普段何もやってないってわかるんだよなあと思いながら私は洗い物をしたり、かぼちゃをつぶしたりする。その間に二人は次々に料理を仕上げていった。

「ふーっ」

 作業を終えると満足げに麻衣子は息を吐いて、エプロンを取り去った。

 テーブルに並ぶ完成品の中から冷やしておいた方が良さそうなものを冷蔵庫に詰めた小坂さんはあまりのかぼちゃづくしに苦笑した。

「残ったら大変そうね」

「野郎どもが処分するでしょ。残ったら持って帰ってもいいし。さ、ランタン作りに行きますか」

 麻衣子は楽観的に言い放つと、一番先に台所から出ていった。




「うっわー。やらかしちゃったわねえ」

 先に行った麻衣子が呆れた声を出すのがわかった。

 何だろうって小坂さんを顔を見合わせて、庭に出る。

 確かにやらかしちゃったと言いたくなる惨状だった。庭にたくさんオレンジが散っている。

 そのオレンジの正体はかぼちゃの中身だ。しかもなんだか微妙に生臭くって嫌になる。

 そんな中、男性陣は作業をしていた。

 端っこで几帳面に手を動かす羽黒君はもう仕上げの段階のようでかぼちゃの顔を整えてるところ。春日井先輩はその少し横で道具を片手にかぼちゃをじっと見て確認は慎重にかぼちゃの口を作っている。

 原口君はもう完成したランタンを様々な角度から検証しているようだった。篠津君はごりごりとかぼちゃをほじくり返している。

 坂上は一人、かぼちゃを真剣な顔で見つめていた。坂上の周りだけはやけにきれいで、まだ全然作業をしていないことがわかる。

「やらかしたって何をだよ」

 麻衣子の言葉に顔を上げたのは原口君だ。

「散らかしたねーってことよ。後かたづけが大変ねえ、祐司?」

「人数いるからすぐ終わるだろ。そっちはもういいのか?」

「腕をふるったわよー」

 力こぶを作る時みたいに麻衣子が腕を持ち上げる。

「じゃあ、お前らも作業するか?」

「汚れそうで嫌ねー」

 口ではそんなことを言いながらも麻衣子は実はやる気満々だ。

「ほら、二人も」

 小走りで庭に降りて原口君に近付いた麻衣子が手招きする。言ってることとやってることが違うねって小坂さんとこっそり言い合ってから、私たちは庭に出た。

 原口君は残りのかぼちゃから好きなものを選ぶように私たちに指示して、選んだあとにそれぞれにペンを配った。

 麻衣子はやる気の大きさを示すように大きなかぼちゃ。小坂さんはそれよりやや小さいの。私は一番小さいのを選んだ。

 だって、あんまり大きすぎるとくりぬくのが大変そうだし。

「ペンでかぼちゃの顔の型をかいて、そのあとで上の部分をふたのように切り取る。中をきれいにかきだしたあとで、顔のところを切り抜く」

 原口君の説明は簡潔でよどみなくて、自信満々だ。

 できあがった彼のかぼちゃランタンは初めて作ったとは思えないくらいきれいな出来のようだからそれも当たり前かもしれない。

「ま、わからなかったら俺なり羽黒なり春日井さんに聞くといいから。新はまだ作業中だし、利春は論外だな」

「ほんとねえ。なにかぼちゃにらんでんの、坂上?」

 庭を見回して続けた原口君に麻衣子は大きくうなずく。坂上は麻衣子の呼びかけにも気付かずにかぼちゃと見つめ合ったままだ。

「ま、ほっときましょ」

「大事に育てたかぼちゃだから、手をかけるのがもったいないって思ってるんじゃないかしら」

 冷たく言い放つ麻衣子をフォローするように小坂さん。

「坂上の場合、あり得るかもそれ」

「どうだろうな」

 そう言う原口君は事情をわかってそうににやりと笑う。小坂さんの言葉にうなずいた私を見て、その判断は間違ってるぞって言いたげな顔。

 あんまり感じがよくない笑顔だったので、私は彼から顔をそらしてかぼちゃと向き合った。

 そりゃ、私は今年の春からの坂上しか知らないから、あんまりわかってないですとも。でも小坂さんが最初に言ったのに、私を馬鹿にしたように見ることないじゃない。

 麻衣子の彼氏さんだから、悪い人とは思いたくないけど何か感じが悪い。

 言い出した小坂さんには馬鹿にしたような視線を向けないんだから原口君も「魔女」には弱いのかなって思っちゃうと、なーんか複雑な気持ちになる。

 しゃがみ込んできゅっきゅとかぼちゃに顔を書き込むと、気持ちを反映してかどこか悲しそうな顔に見えた。あとで修正は効くよねって自分に言い聞かせながら、こっそり麻衣子を確認すると原口君とささやきあいながら作業中だ。

 麻衣子は、小坂さんの取り巻きだった原口君の言動が気にならないのかな。二人がつきあいはじめた時期はわからないけど、春に私に忠告してきたときはきっと気にしてたんだろうってふっと思いついた。

 今は気にならなくなったから私を応援する気にもなったのかな。

 ぐるぐる考えを巡らせながら、ナイフのような道具でかぼちゃのてっぺんを切り抜いた。

 かぼちゃというと固い皮を持っているイメージだけど、意外と簡単。このかぼちゃが柔らかいからか、道具がいいのかわからないけど。

「はい」

 私の作業が進んだのを見てか、原口君がスコップのような道具を持ってきてくれた。

「ありがとう」

 素直にお礼を言って、私はかぼちゃに向き直った。服を汚さないように慎重にスコップをかぼちゃに突き刺す。

 中もさっくりと柔らかくて、かきだすのも思いの外簡単だ。

 しばらく一心不乱にかぼちゃをくりぬいて、固い皮の部分しか感じ取れなくなったのでふうと息を吐く。

 作業中は感じ取れなかったけど、一つ落ち着くとやっぱり生臭い。試しに手のにおいをかいでみて、すぐに後悔した。

 くらりとする。

「だいぶ進んだんだな」

 その時声をかけてくれたのは、作業を終えたらしい春日井先輩だ。

「えっと、どうも」

 ナイフをざくっとさっき描いた顔を切り出すように差し込む。勢い余って失敗しそうで怖いけど、ためらっていても作業は進まない。

「意外と思い切りがあるんだ」

 どういう意味ですか。

 初対面の、しかも先輩にそんなことを言えなくてとりあえず首を傾げてみる。

 何だってこの人は私のところに来たんだろうと思って周りを見ると、坂上はようやく作業に入ったところみたいで、麻衣子と原口君は二人の世界に入っている。小坂さんの横には作業を終えたらしい篠津君と、羽黒君。

 小坂さんの彼氏さんは篠津君って話だけど、羽黒君はまだ諦めていないようなそんな感じで二人の間に割って入っている印象。

 先輩は私が一人なのを見かねてくれたらしかった。

「切りすぎないようにね」

 それとも私よりは確実に大人に近い分、小坂さんのことはもうすっかりと諦めているのかも。

 幼なじみだって麻衣子とつきあいはじめた原口君以外、坂上も羽黒君も学年一の美人さんを諦めきれないんだろう。

 それだけ美人だし。噂と違ってとってもいい人だし。しかも、料理だっててきぱきこなすくらい女らしい。考えれば考えるほどうらやましい人だ。

「ご忠告ありがとうございます」

 そうとだけ応じて作業に集中することにした。ぐだぐだ考えていても事実は変わらない。

 そのうち完成したランタンの片目は下書き通りに悲しげで、もう一方は何故かちょっと怒り気味だった。




 全員が作業を終えた頃には夕闇が迫りかけていた。五時半ともなるともう太陽が西の空に消えていこうとしている。

 最初からランタン作りに参加したにもかかわらず一番最後に作業を終えた坂上が、みんなのランタンを適当に庭に並べていった。

 壁際にずらり。そうすると結構見栄えがいい。大きさも顔ももちろんそれぞれ違っていて、その不格好さがちょっと可愛い。

 暗くなる前に携帯で記念写真を撮っていると、坂上が何か言いたげな顔をした。

 いいじゃない、にーちゃんに結局ハロウィンパーティに参加しちゃったって自慢メール送るんだから。坂上も一緒だよって、あの人と知り合っちゃって予想外にいい人みたいで勝てる気がしないって――そうすると自慢になるかわからないけどさ。

「未夏ちゃん、火を灯してからの方が壮観だと思うよ?」

 坂上は思ったことは飲み込んだみたいに、そうアドバイスしてくれた。

「そうかもね。でも、暗い中綺麗に撮れるかな」

「最近の携帯カメラには夜景モードもあると思うけど」

 貸してみてって手を出す坂上に思わず携帯を差し出す。坂上は私の隣に来て、画面が見えるようにちょっと斜めにしてから携帯を操作し始めた。

「うわ、手慣れてるね。坂上も同じ機種?」

「違うけどー」

 作業に集中しているらしい坂上は半分上の空。間延びした声を出しながら、カメラの設定を言ったとおりに変えてしまう。同じのを使ってますと言っても信じそうなくらい簡単に。

「すごいね坂上。男の子はやっぱり違うなあ。にーちゃんも携帯を買ってくれたときにすぐに自分の番号登録して、操作方法を教えてくれたもんなあ」

 坂上は目を見開いた。

「お兄さんが携帯買ってくれたの?」

「うん。高校生になった記念にって。通話料金はさすがに親持ちだけど」

「仲、いいねえほんとに」

 ため息混じりに坂上は言って、私の携帯に目を落とす。

「にーちゃんは収入があったときは気前がいいの」

「へえ」

 坂上はうなずいてから、カメラの設定方法を丁寧に教えてくれた。

「ちょっとさわっただけでそれがわかるなんて、本当にすごいね」

「機械いじるの、好きだしねー。ボタン位置が違ってたりするけど、基本的には似た動作でしょ」

「そんなに軽く言い切れるのがすごいわ」

「そーお?」

 私の賞賛に坂上は目に見えてうれしそうな顔。

「あ、ついでだし俺の番号も入れといていい?」

「え」

「や、駄目ならいいんだけど」

「そんなことないけど」

 というかその申し出はうれしいけど。

「わーい、じゃあ入れとくね」

 坂上は私の困惑なんて気にしない顔でまた携帯を操作し始める。ちょっと操作に迷った節があるけど、すぐに電話帳の画面を開いて自分の名前を打ち込んで、携帯の番号を入れ込む。

「アドレスは覚えきれないんだよねえ」

 坂上はつぶやきながら自分の携帯を取りだして、かちかちと呆れるほどの長さのアドレスを打ち込む。

「それって、迷惑メール対策?」

「おかげで一度も来たことないよ。よし、登録っと」

 坂上はくるっと携帯を回して私に返してくれた。

「ありがと?」

「何で疑問形かなあ」

「今更アドレスの交換ってのも遅いよね」

「うはは、その通りだ。タイミングを逃したら聞きにくいしねー」

 坂上の言うとおりだ。仲良くはなったけど、アドレス交換をする機会はなかった。変に聞くのも恥ずかしかったし、坂上に何でそんなこと聞くんだって思われるのも嫌だったし。

 だからついでのように坂上が聞いてくれたのはうれしいけど、坂上の情報を手に入れたって気軽に電話したりメールしたりはできないと思う。

「ねえねえ未夏ちゃん、俺のところにメール入れて?」

 と思ったら、坂上がうきうきした調子で言った。

「俺も未夏ちゃんの名前登録するから」

「あ、そっか」

 言われて気付いて、新規メールの画面を開く。登録されたばかりの坂上のアドレスを設定して、コピペで携帯の番号を本文に記入。それだけじゃあ寂しいから「改めてよろしくね」と面白みのない言葉を入れてみる。

 ぴっとボタンを押して送信すると、少し時間をおいて坂上の携帯がピリピリと鳴り始めた。

「おー! きたきたきた」

 今か今かとメールを待ちかねていた坂上の喜びようはいつものようにオーバーで、携帯を掲げるようにしてくるくる回った。

「目が回るよ」

「喜びの舞いなので仕方ないのです」

「それわけわかんないし」

 五回転くらいすると飽きたのか坂上はぴたりと動きを止めた。適当に止まったのか、かぼちゃを見る方向。そのままこっちを向くことなくぴっぴと電子音が聞こえてくる。

「よしオッケー、登録かんりょ! ばんばんメールしてね? 俺もするー」

 くるっと振り返った坂上は夢みたいな事を言う。

「坂上はメール好きなの?」

「そこそこ」

 けろりと坂上は言うけど、坂上とメール交換なんて緊張しすぎてできないよ。

 私がメール好きだと思ったからそんなことを言ったのかな。私がメールするのなんて、麻衣子かにーちゃんくらいなのに。

 携帯を持ってはいてもほとんどアドレスの登録なんてしてない。友達になったって事をアピールするように出会ってすぐに情報を聞き出す事なんてできないし、そうしているうちに親しくなりすぎて改めて聞けなくなる。

 休みの日に遊ぶ子のは知ってるけど、気軽にメールや電話をするなんて私には無理なんだ。妙に気負っちゃうから。

 まして坂上になんて、緊張しすぎてできないよ。

「未夏ちゃんからのメールなら、二十四時間オールオッケー。すぐに返信しちゃうよ」

「また大げさな。そんなにメール好きなんだ?」

「うん、好き」

 その意味はわかっていても、真っ正面から好きだなんて言われたらどきどきする。顔が赤くなってないか心配だけど、屋外はだいぶ寒くなってるからすぐ冷えるはず。

「何を愛の告白してんの坂上。いい、ウチの未夏は恥ずかしがり屋さんなんだから、衆人環視の元でそれはやめなさい」

「何言ってるの麻衣子!」

 私は慌てて振り返った。

 麻衣子はにやにやしてるし、周りも私たちの様子に注目していたようで恥ずかしくなる。

 愛の告白とか、そんな恥ずかしいこと何でしらっと言えるの! それが麻衣子らしいと言えばらしいところだけど、でもだからってそんなこと言って坂上が変に私を避けるようになっても嫌なのに。

「んー、初々しくってよろしくってよー」

「どこのお嬢様なのよ」

「里中家の」

「普通に答えられてもなあ」

 顔がまだ赤そうな気がするけど、麻衣子がとんでもないこと言ったからだって今なら言い訳は聞くだろう。それが麻衣子の狙いだったのかもしれないけどさあ。

 麻衣子は私をからかうのはやめて、坂上を見た。

「てか、今更何でアドレス交換なのよ坂上」

「もちろん知らなかったからだけど」

「くあー。あんた達知り合って何ヶ月経ってると思ってるのよ」

「なかなか機会がなくってさー」

「機会なんて作るもんよ? いやいいんだけどさ」

「だってしかたないじゃない、ねー?」

 坂上に同意を求められて馬鹿みたいに私がうなずくと麻衣子は呆れた顔をする。

「未夏はその辺り遠慮がちだから仕方ないけどねー。ついでに他のメンバーともアドレス交換しとく?」

「えー、駄目駄目駄目。俺でさえ今日知ったのになんかそれずるい」

「ずるいとかそんな問題?」

「もちろん」

 坂上が迷いなくうなずいたので麻衣子はますます呆れかえったようだった。

「言いたいことはよくわかったわ。でも坂上には未夏の人付き合いに口を出す権利はこれっぽっちもないわけよ。おわかり?」

 挑発するような口ぶりで言い放つ。

「ま、そんな話はおいといて、そろそろ始めるわよ。未夏、料理運ぶの手伝って」

 ちらりと坂上を見たあとは鮮やかに態度を変える。麻衣子は腕を組むように私を引っ張った。

「メアド交換なんて、一歩前進じゃないのよ」

 そして耳元に素早くささやいてくれた。

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