どうか私を王(おとこ)にしてください!!
私の名前は伊藤まこと。その名前は父が人に嘘をつくような人にならないようにとつけてくれた名前だ。でも、ゴメンね。お父さん、私は嘘を吐きます。愛する人のために…
閑散とした空港の待合室で搭乗が可能になったことを告げる客室乗務員。私は彼女たちが待ち構えている航空機の搭乗口に繋がっている通路に前の受付に進む。
「ハァ、ハァ、マコト!! マコト! ま、間に合った!!」
突然の呼びかけに私は驚く。あの人にはわからないように黙って出てきたのに。そして、そんな気持ちと同時に嬉しさが込み上げてきた。
あの人は白いワンピースに肩まで伸ばした亜麻色の髪を振り乱しながら、私のもとまで駆け寄ってきた。その姿はまるで子犬のようで実に愛らしい。いえ、愛らしいのではなくって、私はこの人のことを…
「メル、来てくれたのね。今日、母国に帰るわ」
この人にそんな私の気持ちをできる限りわからないように。絶対にバレないように。でも、できれば気付いて欲しいと願いながら、できるだけ感情が出ないように押し隠して話をする私。本当に捻くれてるわ。自分でもイヤになっちゃうくらいに。
「任せて、これからのことは一人でも大丈夫。今まで、わがままを聞いてくれてありがとう」
ああ、可愛いあなたの願いなら何だって聞いてあげたい。そんな衝動を抑えながらこの人に手を振った後、私は搭乗口に向けて歩を進めた。
「本当にありがとう。今まで迷惑をかけていてゴメンなさい。マコトがいなければ僕は…」
そんな責任を感じないでよ。父と間違えられてこの国に無理やり連れらえて来られたとはいえ、あなたに会えたことは人生の中で最高だったのだからね。
搭乗口の通路からまだ私を見送るためにメルが窓から手を振っている。なんて可愛らしいのかしら。でも、今はその可愛らしい行為が邪魔なのよね。
「そのまま、まっすぐ、お進みください。ちょ、お客様!? いったい、何をやっているのですか?」
私はメルから見えない位置まで移動すると客室乗務員の制止を振り切って、搭乗口へ続く通路から非常用の扉を使って飛行場へと出る。そして、私は空港を抜け出したのであった。ある人物との待ち合わせがある場所へ行くために…
★☆☆
「待ちくたびれたのじゃ。って、何じゃ? なぜ、そちは王の候補であるわっちのメルを連れておらぬのじゃ? ぬしはわっちを愚弄しておるのかのう!」
私は彼女の問に答える代わりに笑ってあげたわ。だって、バカらしいもの。彼女の問に答えるのが…
「な、何がおかしい。ええい、いったいぬしはなにを笑っておるのじゃ!!」
ああ、なんか狼狽している姿はメルに似ているわ。おバカな所もそっくりね。さすが姉妹として育てられただけはあるわ。
「いいわ。答えてあげる。私は親切だから。あなたがメルに会うことはもうないのよ。この私に消されるのだからね!!」
「愚かな。想像の力も持っていない外国人の分際で、創造主たるわっちに勝てると思っておるのか!!」
「さぁ、やってみないとわからないわよ? 王殺しの大罪人マリア・グリム・カーズ王女殿下!」
「気付いておったのか。それで今まで黙っておったのか。中々に主は策士のようじゃのう」
「策士? 私は科学者よ。しかも助教になる予定だった…」
ふ、古傷が痛いわ。助教に就任する日に母国に戻る航空機内で誘拐されるだなんて誰が想像できたかしら。ああ、誘拐されてから大学に戻っていないからもしかしたら助手もクビになってるかも。そう思うと嫌だわ。国に帰りたくなくなってきたわね。
「フフフ…」
「な、なんじゃ。その笑いは不気味な奴じゃのう。まぁ、良い。主はなぜ、フォース・オブ・ウィルと言うカードは未熟な子供、感受性の強い女性のみが生み出せると思う?」
私の自虐的な笑みを見て不気味とは失礼な。これも全てあなたの妹の所為なんですからね。まぁ、29歳独身で研究一筋の人生から恋多き乙女に変えてくれたことを今なら感謝してるけどね。
「それは初代の王妃が女性ゆえに王になれずに愚かな弟を王にしたことに対する人々の呪いなのじゃよ」
何か勝手に語り出してるわ。ここは黙って聞いてた方が良いわよね。今のマリアは上司のうるさいバカ教授と同じ瞳をしているわ。そう新しいことに気付いたと言って目を輝かせて、何でもいいから話を聞いて欲しそうにしているように…
「ゆえに女性は…」
ハッ、いけない。いけないわ。徹夜続きで興味ない話をされて眠ってしまったわ。私はどうも世界史とか嫌いなのよね。ナンチャラかんチャラ三世がうんぬカンヌって言われても興味がわかないのよね。イケメンの剣士の話ならきっと眠らずに頑張って聞けると思うのよ。うん、そうよね。
「聞いておったかのう?」
「え? 何のことかしら?」
トボけた私をそんな涙目で見ないでよ。ただでさえメルに似て綺麗な顔立ちをしている女性にそんな目で見られていると私がイジメているみたいじゃない。
「コホン、まぁ、良い。そう男性はその駒となる。このゲームで王位を決める。男は王になれぬこの国では必然的に女性の立場が高くなることは想像に難くないじゃろう?」
自虐的に微笑みながらそんなことを言うマリアはどこか悲しげであった。
「こんな馬鹿げたゲームで王を決める。なんという愚かな。こんな馬鹿げたことは終わらせるのじゃ。もう、私の代でこのゲームを終わらせる。そう、全ての王位継承者を殺して!!」
きっと、彼女の悲しそうな顔から私にはわからない事情があるとは思うの。でもね。私は彼女に告げなければならいないのよ。
「あなたのその考えは間違っているわ!」
「ハッ、この呪われたゲームを終わらすには全ての王家の血を引く王位継承者を殺すしかあるまい」
「だから、その考え方が間違いなのよ!!」
なんでわからないのかしら、王位を決めるこのゲームは王位継承者を全て殺しても終わらないと言うことが…
「何じゃ? わっちが間違って居ると? ふざけるな! わっちはカイルのために…。グッ、口を滑らせてしまったのじゃ。そ、創造主でないお主に何がわかるというのじゃ!!」
創造主ね。自らが体験した思いを理の欠片記憶させることができる。それ故に人格が崩壊するものもいる。
また、想いが強ければ強いほどそのカードの効果は絶大になる。
「わかるわ。私も大好きな人を守りたい。この想いはまだ伝えてないけど。それでも守りたいのよ! ウィル!!」
腰にしまってあったカードを取り出し、私は思いを閉じ込める言葉を放つ。すると、無地のカードは光を放ち、一振りの刀を作り出した。
「ぬ、主は外国人ではないのか!? な、なぜじゃ!」
「私の父も、きっと母もこんな辺境の国の血なんて入ってないわよ。ましてや、王家の血なんてね。そう正真正銘の私はここの国の人にとっては外国人よ」
マリアはバカなそんなと何かをブツブツと呟いているけど。そんなの関係ないわよね。これは攻撃のチャンス。
「王家の血なんて関係ないのよ。想いが強ければ誰でも創造主になれるのよ!
! だから、もう王の候補を殺すのはやめて!!」
「認めぬ。ぬしに王の血がないなど誰も証明などできぬ。わっちは、わっちは…」
目をつむり頭を振るマリアはそう叫んだ後に爆裂のカードの効果を発動したのだろう。辺り一面を包み込むように爆発が起こった。って、やばいわね。
「共鳴的な意思!!」
私は自ら生み出した刀のカードを具現化し、爆風を切り裂く。そして、説得ができなかったマリア目掛けて斬りつける。
「マリア様を傷つけるものは許さない」
「カイル!」
私の攻撃を突然に具現化してきた騎士がそう言って微笑む。クッ、私も背が高い方だけど、この人は2メートルくらいないかしら。巨体だわ。でも、ここで負ける訳にはいかないわ。
「邪魔よ。そこを退いて!!」
おかしいわ。創造主でしかないマリアはカードの効果を引き出す共鳴的な意思が行えないはずなのに…
「させん、マリア様を守るのが我が勤め」
私のビデオ動画で見て学んだ剣道の鋭い突きは簡単に防がれてしまったわ。それでも何度も私は果敢にカイルと呼ばれた騎士に切り掛かる。それを軽々と捌きながら悲しげな瞳でこちらを見ている騎士。
「弱いな。可哀想なくらいだ。さてと、そろそろ終わりにしようか。次で決めるぞ」
ああ、予想外にマリアがプレーシスを使ってきたから負けそうだわ。でも、仕方ないわよね。だって、私は研究一筋のガリ勉女子よ。本業の騎士様に勝ち目なんてあるわけないわ。
「それでもここで負けるわけにはいかないのよ」
まだ、尊敬する父のような学者にはなれてないもの。死ねないわ。それに愛する人を守るにはマリアを殺してでも止めないと…
カイルと私の剣と刀が何度も交差する。でも、明らかに力が違う。私の攻撃は全て軽くいなすようにさばかれているもの。やばいわね。
「チェックメイトですよ。お嬢さん!」
そして、ついに来るべき時が来たようだわ。力負けした私の刀が弾き飛ばされたと思ったら素早い動きでカイルはこちらの首元に剣を突きつけてきた。
「クッ…」
ああ、尊敬する父のような学者にはなれなかったようね。でも、父のように愛する人を最後まで思える素敵な人生を送れたわ。きっと、母を見送った時はこんな気持ちだったのかしら。
ああ、見えるわ。母と貿易ビルセンターで父を待っていた時のことが飛行機が見えたわ。あの時の衝撃。
「私もここで命を落とすかもしれないけれど」
それでも守りたいものがある。私はカードを取り出した。あの時に絶望した思いを込めるために、
「ウィル」
と言葉を告げる。ありがとう。お父さん、そして元気でね。それとメル。愛しているわ。あなたのためにマリアとそのカードを全て道づれに…
「おっと、何かをしようとしていますね。その前に死になさい!!」
カイルが首元にある剣を少し引いた後に突き刺してきた。間に合って! このカードを…
「マコト!! プレーシス。我が愛する半身を守りたまえ!」
メ、メル!? なんで、ここにいるの? 嘘! メルの放ったカードから不可視な障壁でも生成されたのかしら。カイルが私を突き刺そうとした剣ごと壁にぶつかったみたいに後方に倒れ込んだ。
「マコト! 前も言ったけどさ。僕を置いて勝手に行くなといったろう!!」
白いワンピースのスカートをひるがえし、駆け寄ってきたメル。これは幻影なのかしら。幻影でも良いわ。もう、泣きそうになってるもの。いえ、いえ、私がじゃないわよ。目の前にいる可愛いメルがよ。
「な、なんでここに?」
泣きそうな目でこちらを見上げるメルの愛らしい姿は誰が見ても少女だわ。でも、驚かないでね。私よりも可愛いメルは実は男なのよ。信じられないでしょう。私も心でこんなことを言うくらいに信じられないのよ。そんなメルに私は問かけると、
「君のお父上であるマサルさんに連絡を取ったんだよ。なんで、帰ってなんだよ。お父上もすごく心配していたんだよ。もちろん、僕もだ」
と言って睨んできた。睨む姿も可愛いわ。って、もうお父さんは言わないでって頼んでおいたのに…
「だって、メルが心配でそれで…」
「今は何も言わないでいいよ。君の瞳を見てわかったよ」
私が潤んだ瞳で彼を見たら、彼が照れたように顔を俯かせる。男性経験がない私でもわかるわ。メルはちょろインだわ。うん、でも、彼は私だけのヒーローよね。きっとだけど。
「メル」
なんて可愛いのかしら。食べちゃいたいくらい。
「…マコト」
私の雑念とは違い真剣な目で照れながら見つめてくるメル。もう、もう、何て可愛いのかしら。た、たまらないわ。鼻血が出そう…
「ああ、私の前でラブコメをするな! 死ね!!」
私と彼の素敵な一時はそんなマリアの声で台無しね。って、こんなことをしている場合じゃなかったわ。マリアを止めないと。
「姉上、もうこのゲームで人を殺すのをやめてくれませんか?」
私がどうやって王の候補者を殺すことをマリアにやめさせようかと考えていたらメルが彼女に説得しにかかった。
「いやじゃ、わっちはこんな呪われたゲームを終わらすのじゃ。今世紀でこのゲームを最後にして、次世代のモノには幸せになって欲しいのじゃ!」
「姉上…」
「じゃからのう。メルよ。そこの女と一緒に死んでたもれ!!」
「マコトは殺させない。そんなことになるくらいならば死ぬのはあなたの方だ。姉上!! いや、マリア!!」
私のことを庇うように前に進み出る小さなメルは、
「創造主でしかない。あなたには僕とマコトを止められない」
と言ってカードを具現化する。剣のカードだ。
「クッ、共鳴と創造ができるモノが2人もじゃからな。じゃが実に面白い。フフフ、勝負じゃ。かかってこい小娘ども! カイル、頼むのじゃ!」
「ハッ、すべては我が主であるマリア様のために…」
何よ。マリアの奴はカードとラブラブなの? なにかそこら辺に彼女が王候補者を殺害する理由がありそうねと私が思案していたら、
「マコト、一緒にいこう。もう離れないでよ。僕を王にしてくれるんだろう?」
とメルが私を見つめてそんなことを言ってきたわ。もう、心配性なんだから。大丈夫よ。私にはあなたがいるから。可愛らしい。とても大切な。だから、嘘をつかずに。今度こそ、父がくれた名前に恥じないように…
「ええ、もちろんよ。あなたを王にするわ。さぁ、ここを乗り切って一緒に生きましょう」
そう、彼と一緒に生きて微笑むのだ。そんな思いを胸に秘めて私はメルと共にマリアに戦いを挑んだのであった。




