序章~過去編1~
遠い遠いあの日。
僕たちは約束を交わした。
他から見れば直ぐに忘れてしまうような約束を。
『またいつか、会おう』
僕は彼女の手を強く握り、懇願するように声に出す。
彼女の手は、僕と同様に冷たく冷えきっていた。
まるで、これからの僕たちの未来の結末を表すかのように。
『......ええ。ですが、またではなく、絶対と約束して下さい。所詮、このような口約束でも私にとっては......』
___大切なことなのです......。
赤い紅の乗った唇で、彼女はカナリアのような綺麗な声を出す。
けれど、それとは正反対に彼女の体はボロボロに汚れていた。
汚く、汚れていた。
今の彼女は美しいかったあの頃の面影すらも残さない。
『あぁ......もちろんだ。絶対、絶対にまた逢おう。何年と、何百年経とうとも、僕は必ず君を見つけよう』
『約束、ですよ?』
握り合った互いの手は離れ、小指一本になった。
だが、その一本の重みは計り知れない。
永久へと続く約束なのだから。
交じり合った小指は切れることはなく、熱は二人の間を埋める。
『もう少しだけでいいから、貴方様のお側に居たかった......』
誓い合った小指に力が込められる。
あかぎれた彼女の指には、輝く銀色の輪が一つ。
『それを......、その指輪を僕の代わりだと思ってくれ』
『もちろんです。貴方様がくれた、最初で最後の送り物ですもの』
『そうか......』
最後と云う言葉に過剰に反応してしまう。
やはり、心のどこかで恐れているのだろうか。
僕を心配する彼女は僕と瞳を合わせると小さく微笑んだ。
『私は、貴方様をお慕い申しております。この先も、永久に』
『僕も君を愛しているよ』
どちらかとなく重なる唇。
交わったのは一瞬だったが、それは永遠かのように感じられた。
頬がほんのりと赤く色づく。
『残念だが、そろそろ時間のようだ』
森の奥から、野蛮な男たちの雄叫びが聞こえる。
その声に彼女は体を震わせ顔を青ざめる。
僕はただ、抱きしめてやることしか出来ない。
『大丈夫、です。貴方様との約束があれば怖いものなど何一つありません』
彼女に云われ、ゆっくりと体を離す。
崖上まで足を運ぶ。
考えていたよりも怖くはない。
やはり、彼女が隣にいるからだろうか。
僕たちの背後まで迫ってきた野蛮な男たちは刃物を向ける。
そして口を揃え、云う。
今なら許してやる。だから返せ。と。
彼女は物ではない。
だから、男たちに渡す訳にはいかない。
彼女と顔を見合せ、虚空へと足を踏み出す。
僕たちは、この不幸せな世界から今消える。
幸せのまま、未来の約束をして。
指を繋ぎ、まっ逆さまに落ちて行く刹那、彼女の口元は微かに、だが確実に動いた。
___また、来世で逢いましょう。
僕は小さく笑い、そして、終わった。
来世で出会えることを祈り、今世を閉じた。
初めまして今日は。このサイトでの初投稿となります。
チマチマ続きは書いていくつもりなので、良ければ見て下さい。
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