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少女if

作者: トモコ  

 彼女は不幸な女性である

どうしてこんなにも不幸が彼女の元に訪れるのか、その理由が解らない程に彼女は不幸である

しかもその不幸は途切れることを知らない


 彼女に出会ったのは、十七年前、短大の入学式の時だった

うちは決して学問に優秀な学校ではなかったのだが、それでも当時、彼女の金髪にボディコンシャスの白いスーツはのんびりとした雰囲気の田舎学生達の中でひときわ目立っていた

 私はというと紺のプリーツスカートにジャケット、ソックスにローファーというなんとも抜け切れていないスタイルで母と一緒に坂道を登りながら怖々と彼女を眺めていた

 教室の案内があり指定された席について驚いた。隣の席に座っていた少女は、そう…さっきの金髪娘だった。おそるおそる「こんにちは」と声をかけた私に彼女はこう答えてきた「よかったさぁ 隣ん人がよさそな人でぇ みんな派手な格好しとらして怖かったんよぉ 仲ようしようねぇ」

 長い爪に真っ赤なマニキュアを塗りたくった指を口に当てながら彼女はそう言った。決して冗談で言っているのではない彼女の目と、のんびりとした長崎訛りに私はホッとすると同時にあっけにとられて笑ってしまいそうになったことを今も覚えている。


 程なくして私達は、お互いの家のことや友人のことについていろいろと話しをするようになった。彼女の家は佐世保の米軍キャンプ地の近くにあるということ。彼女のお母さんは大きな病院の看護士さんで躾も厳しく我慢や礼節、そういった美徳を子供の頃から彼女に口を酸っぱくして教えてこられたこと

反対に父親はほとんど働くこともなく家の金を持って出たり彼女や幼い弟に毎日のように暴力をふるっていたこと、彼女の高校は進学校だったが彼女の不純異性交遊がバレて落第点になってしまったこと、夜はラウンジガールの仕事をしていること。何人もの男性と付き合ってきたこと。

 平凡な田舎の家庭に育った私にとって彼女の話はまるでドラマの中の出来事のようにエキセントリックで好奇に満ちたものだった。

 短大生活の二年間私はTシャツにジーパン姿。自転車で山を越え部活と図書館での読書に勤しむ毎日を送り、彼女はあちこちのクラブやホールで名を広め、夜はヘルスで働いて贅沢なマンションに住む生活を送っていた。今にして考えてみると私達がなぜ二年間という間、仲の良い友人という関係を保ったのか不思議で仕方がない。それ程に私達にはまるで接点というものが無かった。 励ますのは、いつも私だった。彼女は、いつもなぜか何かの問題を起こしその罠に自分ではまり苦しんでいた。端から見ていると奇妙な程に彼女は同じ苦しみを繰り返し味わっていたかのように思う。 …ただ一度だけ…うちのネコが寿命で逝った時に彼女に慰めてもらった気がする。

 卒業してからは、お互い連絡を取ることもなく過ごしていたのだが、数年前に彼女から数回 電話と手紙を貰った。

 二十歳の誕生日の時に、ずっと憎んでいた父親が首を吊って死んだこと。良い人に巡り会って結婚したけれど生まれた子供の目の色が青い色をしていたということ。何度も手首を切って病院に連れ込まれたこと。子供を殺しそうになったこと。最近部屋を全て真っ黒に模様替えしたこと。新興宗教に入ろうとしていること。尼になって山に籠もりたいこと。別の男性と関係を持っていること。こどもが数万人に一人という難病に懸かっていて莫大な医療費が必要なこと。

 彼女は、いつも取り乱して連絡をよこし、話しているうちに前向きに生きていく決心をした。そして暫くするとまた新しい問題が起こり取り乱して連絡をしてくるのだった。それは奇妙な程 不自然に循環する螺旋を描いていた。

 彼女との連絡が途絶えて既に十年近くになる。どこにいるのかさえ解らない。最後の頃は、精神安定の薬のせいで随分おかしな言動が増えてきていたが、出来ることならあのおかしな循環から逃れて家族と共に元気で暮らしていて欲しい。それで彼女に対する思考は終了させたかったのだが、ただ一点疑問が残る。 それについては、考えないようにしてきたのだけれど実はずっと考えていたこと。頭の中から追いやってきたこと。


 彼女は、不幸を楽しんでいるのではないのか?

 酔いしれているのではないのか?

 もっともっとと呼び込んでいるのではないのか?


いや、このような邪推は、もうよそう。

それよりも、そう  どの地点からでもスタートは出来る。戦後に生きた私達の祖父母がそうであったように、遠い国の腕の無い母親がそうであるように。


どの地点からでもスタート出来ると思う


そんな事を彼女と語り合えたらいいなぁなどと夢想する。


彼女が私に惹かれた理由は、こんな世間知らずのお子様ぶりなのかもしれない。

そう思うとバカバカしくなってヘラヘラっと笑って床についた。 PM10時。

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