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月夜の頁

 あの日から一週間が経ち、テオとバルトは身体も動くようになったが、レシカは相変わらず眠ったままだった。


「レシカ………」


自分の身体が自由になると、テオはずっとレシカの隣に張り付いていた。


たまに何かに(うな)されているのか、眉間に皺が寄ることもあるのだが、とても彼女が起きそうな雰囲気は無かった。


「…ごめんね。君のこと…守れなかった」


テオはそうぽつりと呟いた。


あの時、テオはレシカとベルディがほぼ同時に動いた瞬間に気付いていた。


しかしベルディはテオが庇うよりも一瞬早く銃を構え、レシカの身体に数発銃弾が撃ちこまれてしまった。


レシカを支えようとしたとき、レシカに向けられた最後の一発が自分を貫いて、熱された何かで貫かれたような、何とも言えない激痛が走ったことは覚えているが、それ以降のことは全くと言っていいほど覚えていなかった。


――この子の事は、守るって、決めてたのにな…


目の前が少しぼやけたが、テオは気にせずレシカの様子を看ていた。


✽✽✽


「…心配です……」


「いやぁ、あそこまでいくと見事だな〜?どうしたもんかね〜?」


ドアの隙間から二人の様子を覗いていたリルとバルトは、会話が聞こえないようにそこから離れた。


「あれで何日目だっけか?」


「三日ほどですね…」


リルはそう言うと、どこかの母親のような溜息を吐いた。


「レシカさんのことを想う気持ちは非常によく伝わるのですが……」


「あれじゃあ目が醒めたレシカがやつれたテオに驚くっつうシュールな光景を見ることになりそうだよな〜」


一度テオたちのいる病室の方向を向き、バルトは更に続ける。


「飯は一日一食、寝る間も惜しんで――本人曰く――睡眠ニ時間!…まぁあの様子だともっと寝てないんだろうが。つかあそこまでいくと保護者じゃね?」


「保護者も超えるか」と、どこか乾いた笑いをするバルトを、リルはキッと睨んだ。


「笑い事じゃないですよ!!テオさんだってまだ万全とは言えない状況なんですから!!!あれでまた倒れてしまったら元も子もありません!!」


「って言われたってよ〜?あいつ俺が言っても何も聞かねぇと思うぜ〜?」


そう言ってから、バルトの顔にふと影が刺した。


「いやぁ、恋ってほんと怖いねぇ〜…」


リルはその言葉の真意を知らずにただ「そうですね…」と頷いていた。


✽✽✽


 レシカが目を醒ましたのはその日の夜中だった。


霞がかっている脳に、視界から得る情報を整理するのはなかなか難しかったらしく、軽いパニックを起こしてレシカはベッドから跳ね上がった。


――此処は何処?何があったの?私は…


不安が一気に怒涛のように押し寄せたとき、自分の左手が妙に温かい事に気付いた。


不思議に思ってその手を見ると、レシカの手の上に、別の手がそっと乗せられている。


その手の主は、掛け布団に顔を埋めたまま動かない。


オレンジの少年の規則正しく動く背中を見て、レシカは思わず口元が緩んだ。


好奇心から少年の癖のある髪を撫でてみると、眠りが浅かったのかすぐにピクリと体を揺らした。


「んぅ〜……」


急いで手を話したと同時に発せられた、情けなくも聞こえるその寝ぼけなまこの呻き声に、レシカはとうとうクスッと声を漏らした。


「あ~…うー…寝ちゃった……」


そんなことは露知らず、テオは象のようにのんびりとした動きで体を動かした。


そこでやっと少女が目に入ったが、残念なことに寝起きの脳にはそれを認識する力すら戻ってきていなかった。


「…おはよう」


レシカのその声と、微笑ましそうな笑顔の二つの目覚まし時計で、やっとテオの脳は目を醒ました。


一瞬状況が解らず、テオは目を数回ぱちくりさせ、ゆっくりと顔をレシカに近づけた。


「………レシカ…?」


「?」


「ほ、ほんとにレシカ?」


「えぇ」


「……………」


テオは一度大きく目を見開くと、しかしすぐに俯いてしまった。


「良かった…ほんと良かった…良かった…」


少年の前髪が邪魔で見えないが、どうやら泣いているらしい。


「……………」


レシカは慣れない状況に焦り、手を宙で動かしていたが、やがて先程起きた時のように、黙って優しくテオの頭を撫でた。


外は月明かりが優しく差し込み、何処かで星が流れて閃いていた。


✽✽✽


その朝、アイリスは知らせを聞いて、すぐにレシカの部屋に向かった。


「レシカ!!」


まさかの人物の登場に、レシカは思わずビクリと肩を揺らした。


丁度一人の時だったらしく、周りに人はいなかった。


「アイ…リス………」


半ば呆然と彼女を見詰めるレシカを、アイリスは何も言わずに抱きしめた。


「アイリス…………」


もう一度名を呼ぶと、アイリスはとうとう堪えきれなくなったのか、レシカを抱きしめながら泣き出した。


「良かった…目を醒まして…本当に…」


「アイリス…私――」


「……………」


何も言うなとアイリスが首を振るのを感じて、レシカは押し黙った。


二人は抱擁しながら、ずっと静かに涙を流していた。


その様子を微笑ましげに、小さな小鳥が窓辺から覗いていた、

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