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虚無の頁

 テオが目を醒ますと、見たことも無いような、リルの屋敷よりも遥かに立派な高い天井が目に入った。


驚きで体を起こそうとしたが、軋むような痛みに抗えず、体をベッドに沈めた。


そこで初めて、そのベッドも恐ろしい程柔らかいことに気付いた。


「ここは…何処だろう…」


目線だけであたりを見渡すと、その部屋がとてつもなく広い事だけは直ぐに解った。


家具はどれも綺麗な細工が施され、天井に下がる小さなシャンデリアもアナスタチアの物とは違って、上品で高貴な物をイメージさせた。


窓から差してくる優しい光に目を向けた丁度その時、扉が開く音がした。


「テオさん!?目が覚めたんですか?!!!」


 リルだった。


「リル!此処は何処?!あの後皆は?!リルは大丈夫なの?!」


思わず痛みも忘れて飛び起きたテオを、リルは必死に押さえつけようとした。


「テオさんダメですよ!!まだ安静にしてないと!!あと静かに…」


「そんな事より!!レシカは?!バルトは?!!カインは?!!ウルズさんは?!!狼二匹も無事なの?!!あと此処何処?!!」


「落ち着いてください!此処はアイリス様のお城です!!」


「お城?!!!」


とんでもない回答に、テオは目眩を起こした。


「はい!アイリス様が皆さんの治療のために、わざわざ一人一人に部屋まで貸してくださったんです」


「…ってことは、皆無事なの…?」


テオの質問に、リルは表情に陰りを見せた。


「…あれからもう三日も経ったのですが、気絶した皆さんの中で、目を醒ましたのはテオさんが初めてです。私は能力があったお陰で、なんとかなったのですが…」


「三日?!!!」


目玉が飛び出す勢いで目を見開いたテオに、リルは「はい」と頷いた。


「怪我しただけなのに……」


「体のダメージが大きかったのもあると思います。それに、まだ寝てる方もいらっしゃいますし……」


「レシカは?」


「レシカさんは、複数回撃たれてた内の一つの銃弾が、体の中に残ってしまっていて…治療が遅れてしまったんです…何とか一命は取り留めたのですが、まだ目は……」


「バルトは?」


「一番多く銃弾を浴びてしまっていて……でも幸い、全て貫通していたのですぐに治療はできました。まだ目は醒めていません。今はアイリス様が付き添っています」


「カインは?」


「カインさんは気絶する前に、私の能力を補助してもらうためにいち早く回復させたのと、当たりどころが良かったのもあって、気絶はしませんでした。今は看護担当の皆さんの手伝いをしています。あの人がいなかったら、バルトさんとかは危うかったです…」


「ウルズさんは?」


「……………………」


リルはその名を聞いて更に表情を曇らせた。


「………銃弾はたった一発だったのですが…心臓を撃たれた上に、身体に銃弾が残ってしまって…………」


「まさか……」


「……亡くなりました…助け…られませんでした…」


堪えきれず、涙を流し始めたリルの頭を、テオは優しく諭すように撫でた。


「ウルズさんだけじゃありません…国王陛下も……」


「何だって?!国王が?!!」


「はい………もっと言えば…五芒星の皆さんも……」


「五芒星?!全員が?!」


「捕縛を利用されて、全員が抵抗もできずに…………」


「それじゃあ何のために僕はアルトスを生かしておいたのか解らないじゃないか……」


テオはそう言って項垂れた。


同時に罪悪感に似たものがチリチリとテオの心を焼き始めた。


「…でも兎に角、リルのお陰で助かったよ。本当にありがとう。…狼二匹は大丈夫だった?」


「はい…!あの二匹が犯人を捕まえてくれたんです!」


「!捕まったんだ…良かった…」


テオは肺の中の全ての空気を使って安堵の息を吐いた。


「今度はアイリス様が直々に牢屋に叩きこんだとのことでしたので、もう心配はないかと…………もともと能力の使いすぎで、生きているのが不思議なほど(やつ)れていたそうなのですが…」


「そっかぁ…」


テオはそう言いながら無意識に再び窓に目をやった。


このもやもやした気持ちを、差し込む光で洗い流そうと思ったのかもしれない。


「一応…戦争は、終わったんだよね…?」


「そうですね…スラスタの勝利という形にはなりましたが………でも一番喜ばなくてはいけないアイリス様は――………」


そこから無言になったリルに、「そうだよね…」とテオは呟いた。


自分の父親と大切な幼馴染を同時に失い、もう一人の幼馴染は未だに目を覚ましていないのだから、当然といえば当然だ。


「…戦争って本当に、何も生まないんですね……」


「うん……そうだね………」


予想もしていなかった虚無感に、テオもリルもただ叩きのめされるしかなかった。


城の外からは、そんなテオたちの様な空気など微塵も感じさせない、賑やかなお祭り騒ぎにも似たざわめきが微かに聞こえていた。

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