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救出の頁

「ここからレシカのとこまで、私語は厳禁だ」


ウルズの言葉に三人が頷くのを確認すると、ウルズは首にかけていた小さなホイッスルを吹いた。


音すら聞こえなかったが、確実に何かに反応したかのように、十数匹のモンスターが一気に柵越しにウルズの元に集まった。


虎のような姿のものや、土竜(もぐら)のようものなど、姿形は様々だが、どのモンスターも鋭利な爪を持っている。


その爪の形が独特で、ナイフのような平べったい爪だった。


もう一度ホイッスルを吹くと、モンスターたちは一斉に柵をそのナイフで切りつけ始めた。


柵越しでもその様は身の毛もよだつもので、リルはカインの背中にしがみついてブルブルと震え、テオはもしもの事態に備えて槍を構えた。


しかしウルズはそのモンスターたちを見ると、三人に向かって手だけでついて来いと合図すると、スタスタと柵伝いに歩き出した。


三人が追い駆けると、先に待っていたウルズの目の前では黙々と穴が掘られている最中だった。


中を覗くとテオの腰ぐらいの高さはある巨大土竜が、そのスピアを連想させるような頭で地面に頭突きを食らわせいた。


普通にその鋭利な爪を利用して掘ったほうが明らかに効率が良く見えるのだが、そこはきっと突っ込んではいけないところなのだろう。


土が柔らかいのが幸いで、人の歩く速度ほどには穴掘りは進んでいく。


若干苛ついた顔をしながらウルズが土竜に付いて行き、三人もそれに続いて足を進めた。


✽✽✽


数十分歩いた所で土竜の進みが止まった。


とうとう固いところに当たってしまったらしく、頭突きを繰り返すが、カキンという何かを弾く音が聞こえるだけで、一向に進む気配が無い。


そろそろ頭突きをしている頭を見るのが痛々しく思えてくる。


不意にウルズは笛を吹き、土竜に掘るのを止めさせた。


三人に下がるようにジェスチャーをした後、自分のピアスを一個外すと、それを壁に向かって投げた。


リングのピアスは、壁に触れると同時に青い炎を上げて小さく爆破した。


土煙に噎せながらテオが壁のほうを見ると、洞窟とは別の空間が見えた。


四人は出口に向けて、今度は一気に駆け出した。


✽✽✽


出た場所は肌寒く、テオは身につけていた外套を少し自分に寄せた。


「もう声、出してもいいぜ」


「ここ…どこですか?随分寒い所ですが…」


リルが少し声を震わせて聞くと、ウルズは「あぁ」と言ってその問いに答えた。


「王宮の中だ。もっと言えば、王宮の牢獄」


「牢獄?!!」


ウルズの言葉に、テオはすぐさま飛びついた。


「じゃあ、レシカがいるんですか?!此処に?!!」


「落ち着け落ち着け!今案内するから一旦落ち着け!」


ウルズは自分の肩をゆさゆさと揺さぶる少年を何とか静かにさせると、ポケットからすぐに鍵を取り出した。


「こっちだ。付いて来な」


牢獄と言ってもそんなに広いわけではなく、寧ろ人が一人通れる、廊下のような細長い空間だった。


その廊下の両壁に鉄格子が嵌められ、囚人の部屋となっているようだが、驚くほどに囚人の数は少なかった。

いや、寧ろ無人に近かった。


「此処だ…っておいどうしたレシカ?!!」


四人が見たレシカの様子は目を背けたくなるほど、余りにも痛ましかった。


身体のあちこちに大きな生々しい傷や、打撲痕がある。


「レシカ!!!」


テオの声にやっと反応したのか、少しだけレシカがテオの方に顔を上げた。


しかし返事をする体力は残っていなかったのか、テオの姿を確認すると、またその顔を俯かせてしまった。


「今開ける」


ウルズが早業で鍵を開けると、テオとリルは真っ先にその中に飛び込んだ。


ノースリーブの服しか着ていないレシカの身体は、手足は氷よりも冷たくなっていて、体を微かに震わせていた。


枷は彼女の動きを封じるはずのものだが、ここまで弱りきっているとその意味も無いように思える。


「レシカしっかり!!」


テオは急いで自分の外套をレシカに羽織わせると、蚊が鳴くよりも小さな声で「ありがとう」というレシカの声が聞こえた。


リルとカインは電光石火の勢いでレシカの回復に回った。


「拷問を受けたのか?!」


「あんたが居なくなったのを見計らってね」


「五芒星か?」


「紅髪の女」


「イレーナか!畜生!!」


余りのウルズの大声に、テオは自分たちの侵入がバレないか不安になった。


しかしすぐに意識はレシカの傷の方に向いた。


「それにしても加減を知らないね…凄く痛そう…」


次々と消えていく傷口を見ながら今にも泣きそうな顔をするテオに、レシカは小さく微笑んだ。


「これぐらい、どうってことないから」


「そんなの嘘だよ!さっきなんて息をするのがやっとみたいな感じだったじゃないか!」


テオの心配は、初めて自分に見せてくれたレシカの笑顔に気付かないほど膨らんでいた。


しかしテオの心配を掻き消すように、リルの能力で傷はみるみるうちに消えていく。


「はぁっ…すみません…これが限界です…」


リルは息を切らしながら能力の使用を止めた。


リルとカインの能力は、地味に本人の体力を消耗する。


特にリルはそれが激しかった。


「ありがとう。殆ど治ってる」


レシカの身体はすっかり元通りで、殆どと言うよりも完全だった。


「痛みや疲労感は無いですか?」


カインの質問にレシカは頷いて答えると、今度はウルズがレシカに近づいた。


「んじゃ、最後の仕上げだな」


そういって先程とは違う方のポケットから鍵の束を取り出すと、ウルズは四つの鍵をそこから選び出した。


「ったく…面倒くさいことするよなぁ…」


 ウルズはそう言いながらレシカを繋いでいた四つ全ての枷を外した。


「…ありがとう」


一瞬躊躇したが、礼を小さくしっかり言うと、レシカはすっくと立ち上がった。


「テオも、ありがとう」


レシカが羽織らせてもらっていた外套をテオに返すと、テオはそれでもまだ心配だと言うような視線でレシカを見た。


「ここを出るまで着てていいんだよ?」


「大丈夫よ」


レシカは服に付いている埃を(はた)き終わると、「ふぅ」と小さく息をした。


「もう一度、希望を見たい。…見たいじゃないわね。見るのよ。その為にも、こんなところで死ぬわけにはいかないの」


そう自分に言い聞かせるレシカは、その身体から確かに、静かな闘士を溢れさせていた。

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