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初めての地の頁

 テオ、バルト、リルの三人は、予定していた決闘も無くなり、これと言ってすることもなくなったため、テオに紹介がてら、よく三人が集まるという場所と、その周りの街を回るという話になった。


闇と言えるほど暗い狂気の森を通る裏道を抜け、石壁のような物の前に来ると、バルトはそこの一部を力強く蹴る。


すると元々ヒビが入っていた部分が綺麗に外れ、大きな穴ができた。


その穴を(くぐ)り抜けると、首都とはまた違った光景がテオたちの前に現れた。


「こ、ここは…?」


「保護都市・レアシスさ!」


街の名を聞くと、テオは目を見開いた。


✽✽✽


 「レアシスの中ってこんな風になってるんだ…」


白い煉瓦(レンガ)造りの建物を見渡しながら、テオは息を吐くように呟く。


「一般人は普通入れねぇしな〜。物珍しいのも解らなくはねぇな」


「え?!そうなんですか?!普通に入れると思ってました…」


「あー、お前にゃ言ってなかったしな。知らなくて当然か〜」


保護都市(レアシス)は文字通り、ある特定の民を保護するためだけにわざわざ復興された都市である。


それまでは、ただ大きいだけの寂れた街で、貧困に喘ぐ民が道端にゴロゴロと転がっていたのだとか。


此処で保護される特定の民というのは、戦時中にアナスタチアから命からがら逃げ出してきた者や、捕虜として捉えられたアナスタチア兵だ。


彼らは国からある程度の事情聴取を受けた後、危険という判断をされなければ、このレアシスに送られ、普段の生活と何ら変わらない日常を過ごせる。


ただ、スラスタの他の街と明らかに違うのは、この街だけ、粗末だが囲いがあるということ。


そして普通のスラスタの国民は、このレアシスに入ることはできない。


入れるのは城に勤めている者だけで、その出入りもほぼ皆無なのだとか。


自分達は入って大丈夫なのかとテオが聞くと、バルトは「俺の仲間の特権で許される」と答えた。


一体何者なのだとテオは聞きたかったが、敢えて聞かないことにした。


「───にしても……」


暫くテオは街を見渡していたが、やがて不意に嘆息した。


「やっぱり初代元帥って凄い人だったんだ…」


「ん?初代元帥?」


訝しげな目で見てくるバルトに、テオは目を輝かせて続けた。


「うん!このレアシスは初代元帥が提案したんでしょ?やっぱり凄かったんだ!この町を見れば解る」


確かに、アナスタチアでこのような光景を見ることはないだろう。


本当に、敵国の中にいる人たちとは思えないほど、彼らは活き活きとしている。


アナスタチアなら捕虜というのは暗い牢獄やらに閉じ込められ、強制労働を強いられたり人体実験の被験者として使われることが殆どだが、この国ではそのような事は法で禁じられている。


「はぁ…初代の元帥がいれば、こんな戦争すぐ終わってただろうに…」


「ははっ!お前初代元帥にベタボレだな〜?……だがあいつは、そこまで褒められたようなやつじゃないぜ?」


「え?」


後半から声のトーンを変えたバルトの方を見ると、パッと見は笑っているが、纏う空気は笑っていない。


何か、言い表せない寒気をテオは感じ取った。


「どんな理由でも、どんな戦場でも、背を向けるのは俺は情けないと思うねぇ。ましてや、あいつみたいに責任を負う立場にあるやつならなおさら…な」


「でもそれは、何か理由があったんじゃ…」


「それでも何も言わずに軍を抜けちまったんだから、裏切り行為に近いくらいさ。よくまぁ、お尋ね者手配書が出されてないもんだ〜」


テオとリルは何も言えないまま、異様な雰囲気を出し始めたバルトのことを呆然と見つめた。


バルトはそんな二人の様子に苦笑しながら、「ま、これはあくまで俺の意見さ」と話を曖昧にしてしまった。


そこからは武器屋に食堂、装備屋など、街中の店を回りつくし、先程の会話の微妙な空気も、次第に薄れていった。


✽✽✽


「で、ここが基本的な本拠地というか、まぁ集会所?的な感じのとこさ!」


「でかっ…?!」


街見物が終わり、その街の外れ辺りに進んでいくと、古めかしい洋館があった。


古めかしいとはいえ、外見はきちんと整えられている。


真っ白な壁には規則正しく窓が並んでいて、上品な色合いの濃紺の屋根には何処か威厳を感じる。


何よりも、三メートルはあるんじゃないかと思う両開き扉がこじんまりして見えるほど、家自体がとてつもなく大きい。


「あぁ、因みにこの家はリルの家の別邸だから、後はリルに聞いてくれ〜」


「…えぇえ?!!!!」


テオが目を丸くしてリルを見ると、リルは「えへへ…」と頬を掻きながらはにかんでみせた。


✽✽✽


 中に入ると、更にその広さを実感する。


中がキッチンと繋がっている食堂、大きな図書室、家具にこだわりを感じる部屋の数々…


全体的に白い壁とフローリングというシンプルな造りに、アクセント代わりのこじんまりとしたシャンデリアはよく合っていた。


しかもこの屋敷、中庭まであるらしい。


「右手側の階段を登ると二つ部屋がありますので、手前側の部屋はテオさんが使ってください。そのお隣がバルトさんのお部屋です。それから……」


「ま、待って待って待って!」


もはやごちゃごちゃしてて説明など耳に入っていなかったが、部屋を使えと言われた瞬間、テオは水を被せられたような顔をした。


「へ、部屋?!泊まることになるの?!」


だとしたら居候先のおじさんに言わなくては──と、テオは続けかけた。


「あ、いえいえ!必要に応じて使い分けて頂いて大丈夫ですよ!」


「え、で、でも…」


「ここで暮らしているのは、基本的に私とレシカさんだけなので!バルトさんも余程のことがない限り、泊まっていかれることはないですし」


「あ、そうなんだ………」


ホッとした様子を見せたテオを確認し、リルは説明を再開した。


✽✽✽


 ───これは…中庭と言っていいのかな…?


リルの長々とした説明が終わり、気になっていた中庭を見て、テオは半ば絶句した。


小さなグラウンドと言ったほうが正しいのではないだろうか?


屋敷の半分はここが占めてるのではないだろうか?


───なんだかもう…とりあえず凄い…


床にはきちんと、本物の芝生が敷かれている。


しかしその芝生以外でここにあるものと言ったら、少し奥の方にあるベンチくらいだ。


あとは花もなければ何もないといった感じで、その『何もなさ』が、かえってその広さを強調していた。


「中庭はよく皆さんが体を動かす場として使ってますよ!」言うリルの言葉を思い出す。


「そんなの中庭でする事なのか」と思っていたが、広さといい何といい、認識が甘かったとテオは痛感した。


「…邪魔」


「うわぁああああ?!!!」


気付くと真後ろにいたレシカの声に、テオは見事に不意打ちを食らった。


「煩い……」


「ご、ごめん…」


容赦無く浴びせられる非難の声に首を(すく)めるテオを尻目に、レシカは中庭の中央まで移動した。


真っ直ぐな姿勢で歩きながら、優雅にポニーテールを揺らすその姿に、やはりテオの目は奪われる。


レシカが不意に立ち止まると、背を向けたまま再びテオに話しかけた。


「………ねぇ、ちょっと相手してみない?」


「………え?」


一瞬、テオの頭は固まった。


「まさかだけど、女にも勝てないの?」


挑発的な言葉を無表情に投げてくるレシカは、拒否権は無いとばかりに振り返ると同時に双剣を抜いた。


レシカの実力は、あの魔獣(モンスター)の時に見ている。


テオの背中に冷たい汗が伝っていった。

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