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決心の頁

 泉のある例の空間には、いつも通りオレンジ髪の少年と、銀髪の少女がいた。


二人の周りで、蛍が淡い光を振り撒きながら舞っている。


会話は相変わらず少年からだが、この短期間で更に精神的にも物理的にも二人の距離は縮まり、傍から見れば恋人に見えなくもない程に二人の仲は良くなっていた。


二人並んで泉のほとりに腰掛け、星を見つめていたが、その瞳の中には昼間から星の瞬きよりも強い光が宿り続けていた。


「いよいよかぁ…僕たちにかかってるんだよね」


「そうね。失敗はしないけど」


「強気だなぁ」


テオはそういいながら空を見上げ続けていたが、やがて首が痛くなったので視線を泉へ戻した。


レシカもそれに合わせて視線を戻す。


「ただ……ちょっとだけ、引っ掛かった。今日の話は」


「え?」


レシカから話すのは珍しかったというのもあり、テオは無意識に聞き返していた。


「人殺しなんかしないって、リルが言ってたこと」


「あぁ、あれかぁ…」


レシカの感じたものに同じく身に覚えのあるテオは、思わず声のトーンを下げた。


「仇を討つのは、当たり前だと思ってたから…それにリルは、私の過去を知らないから、そういう発言が出るのも仕方がないのだけれど…」


テオはあの後、改めてレシカの口から過去の全貌を聞いたため、話はすぐに理解できた。


「そうだね…まさか思わないよね、そんな事……でも僕も、戦争が始まるちょっと前なら、リルと同じことを言っていたかもなぁ…」


「…じゃあ、テオは仇を討つことは賛成なの?」


てっきり反対派だと思っていたというような様子でレシカが聞いた。


「うーん、何か違う気がするし、きっぱり賛成とは言えないけど…僕は仇を討ちたい人物がいるから、自分を正当化するためにって意味なら賛成しないとね」


理由を聞いたレシカはただ何も言えずにテオを丸くした目で見詰めていた。


「そ、そんなに驚かれるほど意外かなぁ?」


「ごめんなさい…平和主義ってイメージが勝手にあったから…」


「いや?!謝らないで?!うーん、そっかぁ、いや、平和は好きだけど…」


困ったように頬を掻きながらテオは続けた。


「…両親を殺されたら、例え正義の味方でも、純粋に平和の為だけに敵を裁けるとは思えないんだ…」


「………なんだか、ごめんなさい」


「いや、だから謝らないで?!」


レシカの反応は当然と言えば当然なのだが、テオとしては逆に申し訳なくなる一方だった。


「あぁ、本当に頑張らないとなぁ…相手が相手だし…」


「…?」


レシカは聞きたいけど聞いたら申し訳ないと思っているのか、教えてほしいと視線だけで訴える。


勿論、テオはその視線の意味にすぐに気付いた。


「……アルトスなんだよね…第一星(リーダー)の…」


「?!!」


「まだ僕が相手するかどうかも決まってはないけど、もし相手するなら今のままじゃ負けちゃうよね」


二人の中で、今日の昼間の話が甦った。


✽✽✽


「まぁ五芒星と戦うとして、どの五芒星とも一人で渡り合えるようにはしてぇよなぁ」


きっかけはこのバルトの発言だった。


「何故ですか?」


「そりゃあお前、一人相手に四人は()ぇわ。モンスターならともかく、対人戦になりゃ俺なんてすげぇ邪魔だと思うぜ?特にレシカの」


「四人とも、戦い方は全く違うからね……」


カウンター戦法を多用するテオ、速攻を狙うレシカ、大胆な動きで一掃を狙うバルト、狼と連携して一体ずつ確実に仕留めるリル。


なるほど、確かに被りがない。


「ぶっちゃけそれぞれの戦い方に合わせて捕縛するやつ決めちまうのが一番手っ取り早いんだよな〜」


「何かできない理由があるんですか?」


リルの問にバルトは「大有りだ」と答えた。


「何しろ相手は化け物揃い。特に一番星のアルトスは、化け物どころかこの世の者かを疑うね」


アルトスという人物の名を聞いて、テオはいち早く反応した。


「そんなに強いの?アルトスって人」


「正確には能力使いに超絶厄介な奴なんだが、素の力も『異常』そのものさ!パワーに頼った攻撃をするあたりは俺と似てるが、()り方は心底ご丁寧。一度狙った奴は降参しようが何しようが息の根を止めるまで攻撃を止めない、蛇並みの執念の持ち主って話さ」


ギリッと無意識に歯軋りをしながらテオは更にバルトに質問を投げる。


「何か突破口的なものはないの?弱点とかさ」


「あいつの弱点なんて聞いたことねぇぞ?レシカだってあいつが相手なら負けるかもしれん」


「レシカが負ける?!!!!」


バルトのさらっとした台詞に全員が目を見開いた。


「あいつの能力が原因さ。他人の能力を全部無効化しちまうんだよ。その上あいつの場合パワーが強いと言ったが、タフネスだって負けやしない。戦いに明け暮れて二日間眠らないまま、数百キロある戦場に馬を跳ばして、百人を超える人間をあの世に送ったなんていうとんでもねぇ伝説もある。嘘かほんとかは知らねぇけどな?他にも………」


バルトが覚えている限りのアルトスという人物の虚実入り混じった伝説を語り尽くした頃には、それを黙って聞いていた三人は既に開いた口が塞がらないと言ったようにぽかんと口も目も丸くしていた。


「あの…大変失礼ですが、本当に人間の方ですか……?」


「そう聞きたくなるのも無理はないが残念ながら人間なんだなこれが!いやぁ〜あの男は耳を塞ぎたくなるような武勇伝ばかり持ってやがる!世の中平和が一番なんだがなぁ?」


バルトの言葉に、テオはボソリと呟いた。


「…あの男に、平和なんて………」


「ん?どうしたテオ?」


「あ、いや!何でもない!」


何でもないと言いながら作った笑顔が自分でも解るほどに引き攣っているとテオは感じた。


✽✽✽


 「………手伝えることなら何でもする。特訓なら付き合うし……」


「うん、レシカを相手にできたら怖いもの無しだよ。とってもありがたい。でも…ごめんね、せっかく提案してくれたのになんだけど…僕、特訓の相手はもう決めてるんだ」


「そう。別に謝らなくてもいいから。ただ、気が向いたらちょっと特訓に付き合って?私の相手を出来るのなんてあの中では貴方くらいだし」


「…どうだろう。僕はそうは思わないよ」


「どういうこと?」


「……………」


レシカの問には答えずに、代わりに小さく微笑んだ。


しかし微笑を浮かべながらも、ポケットに入っている、ロケットと先日拾ったリングを、テオの手は痛みを感じるほどに強く握り締められていた。

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