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初作戦の頁 〜2〜

 『狂気の森』は昼も恐ろしい程暗いが、夜はもはや何も見えない。


音も闇に吸い込まれていく道を、テオ、バルト、リルの三人は地図の記憶だけを頼りに進んでいた。


「は〜、相っ変わらず暗いね〜ここは〜」


バルトの溜息混じりの声も、森の奥に吸い込まれていく。


「光が使えればよかったんだけどね…」


万が一灯りを見られて魔獣(モンスター)の調教師が逃げてしまえば本末転倒だということで、ランプを持ち込むことはできなかった。


昼間に一度道を調べたこともあり、そこまで手こずりはしないものの、流石にここまで暗いとちらりと不安が(よぎ)る。


テオ自身は能力があるため暗闇などあってないようなものだが、無かったらどうなっていたか解ったものじゃない。


「あ、リル、前に木が──」


「え?う゛っ………」


テオの注意は一歩遅く、リルは正面から木に激突した。


「ぶっ…!!おいおい…大丈夫かっ──はははははっ!!」


声を抑えつつも腹を抱えて笑い出すバルトと鼻の辺りを必死に抑えてるリルを見て、テオは非常に不安になった。


───バレるのも時間の問題かも……


✽✽✽


「ここら辺…なんだよね……?」


小さな空間につくと、そこで三人は足を止めた。


立ち止まったニ畳あるかないかくらいの空間には薄っすらと月明かりが洩れ、視界は先程の道よりよくなっていた。


「魔獣さんらしいのは…見当たりませんね…」


リルが目視でキョロキョロと辺りを確認する。


テオの能力でも、まだ魔獣らしき気配を確認できない。


「場所は確実なはずだがなぁ…あ~、レシカが調教師を捕えたか?」


「それなら辻褄は合う」とバルトは続けた。


「でも…それならここにいたはずのモンスターたちは…?レシカが纏めて始末したのかな…?」


「レシカには一応、捕獲し損ねても捕獲出来ても、間に合うようならこっちに合流しろとは言ったけどなぁ?」


そこまでバルトが言った時、テオはやっと生き物の気配を感じた。


勿論、動物や普通の生き物の類ではない。


「来た」


テオが短くそう言うと、バルトは辺りを見回した。


「んん…?」


「え、どどどどこですか?!!」


リルはもうただあたふたとテオとバルトを交互に見ている。


少しの間目を凝らしていたバルトだが、不意に肩を竦めた。


「──判んねぇや」


「え……」


───この前の勘は何処に行ったの?!!


「今一番戦えんのはテオってことだな〜。さーてどうしたもんか〜」


「何を呑気に──?!」


つい声を荒らげてしまったテオは必死に口を抑えた。


──が、もう遅い。


今までまばらだった気配の目線が、完全にこちらに向いたのが判った。


「あぁ、あれか。今判ったわ。テオ、視えてるならお前がリルを守っててくれ」


「え?!バルトはどうするの?!」


バルトは一本の木の肌を撫でながら悠々と答える。


「お前がリルを庇ってる間に、周辺の木を切り倒す。狭すぎるからなぁ〜?コレなら一、二撃与えりゃ何とかなりそうだ」


「なるほど……」


木には申し訳ないがそうしたほうがいいだろう。


何しろ先ほど説明した通り、この空間は三人がギリギリ入れるような狭さで、とてもこのようなところで自由に武器を振り回せるような余裕は無いのだ。


「ありがたいけど、そんなことしてて魔獣は大丈夫なの?僕、多分リルだけで手一杯だけど──」


「俺の実力、ナメんなよ〜?」


こんな時でさえ笑顔をバルト保てるバルトの精神は一体どうなっているのか?


一度脳をかち割って調べてみたいものだ。


そしてそう言ってる間にも、モンスターたちは距離を縮めてくる。


もう既に、目視で確認できる距離まで来ていた。


「っ……リル、離れちゃダメだよ?」


「は、はい!」


「んじゃ任せるわ〜」


口が先か手が先か、バルトは手近にある木を次々になぎ倒していった。


あの調子であの巨木を倒していくのだから、案外そこまで時間はかからないかもしれない。


そしてその音に反応して更に気配が強くなる。


───自分の方に集中しよう…


テオは改めて周りの気配に気を配った。

まだ空間が広くないので非常に戦い辛くはある。


「──!!」


刹那、先程から近づいていた背後の気配がこちらへ突進してきた。


「はっ!!!」


頭から突進してきた魔獣は槍の先に頭から貫かれ、一撃で飛散する。


それを合図に次々とテオに魔獣が押し寄せた。


一方のバルトの方でも魔獣は襲い掛かってきていた。


「俺に近づいてもいいことねぇと思うけどな〜?」


青年はアックスを軽々と振り回し、器用に木と魔獣を捌いていく。


その様子を見て少し安心したテオは、目の前の敵に集中する。


途中からリルが怖さから背中にしがみついてしまったので少しだけ動きづらい。


とはいえ離れろなんて言うのは酷に思えて口に出せない。


「早めに終わればいいけど………」


✽✽✽


 戦いが始まってだいぶ時間が経とうとしている。


「一体何匹いるんだろう……」


エンドレスに出てくる魔獣たちに少しずつ疲労感を与えられていく。


余りの数にリルも拳銃で応戦し始めたが、あまり使い慣れていないため命中率は悪い。


「痛っ?!」


気付くと、自分が止めを刺しそこねた魔獣に足を噛みつかれていた。


テオはすぐに払って足を開放させる。


「ん?おい、なんか血生臭くねーか?誰か怪我したか?」


僅かな臭いにすぐに気付いたバルトは気が付いた。


「足、噛まれちゃった」


案外冷静な返答に、バルトは安堵する。


「おいおい、人を守るのもいいけど自分を守んなきゃ意味ねーぞ〜?」


「ごもっとも──おっと…」


会話はしながらも正面から迫ってきた魔獣に的確にカウンターを仕掛ける。


余り片足に重心を乗せられなくなったため深追いができない。


容赦なく続く魔獣の攻撃に、テオもうんざりしてきていた。


何よりも、以前戦った見境のない魔獣と違い、いやに統制のとれた動きをしてくるのが余計に厄介だ。


群れを成すタイプかとも考えたが、見た目がバラバラな辺り恐らく違うだろう。


「──!うーん、どうしよっかなこれ…」


魔獣たちはとうとうテオたちを囲い始めた。


───もう少し近づいてくれれば……


テオは焦れったさを感じながら魔獣の動きを見ていた。


もう少し近づけばテオの槍のリーチの範囲に入り、刃で薙ぎ倒すこともできるが、ぎりぎりのところでなかなか入ってこない。


テオが次の手を逡巡していると、背後のリルが声を掛けてきた。


「テオさん、バルトさんの音が聞こえなくなりましたよ…?」


テオがその声に視線だけで辺りを見渡す。


「あ…ホントだ、倒すの止めてる……」


改めて周りを見ると、だいぶ戦いやすいように周りの木は一掃されていた。


次の瞬間、一気に自分の背後の敵が飛散した。


「木が終ったから手伝うぜ?」


まるでちょっと暇だから遊びに来たと言ったような軽さで、バルトはテオに応戦し始めた。


「バルトが後ろをやってくれてるし…前だけ集中するか………」


そう考えると気が楽になり、動きも軽いものになっていく。


テオが突きを確実に相手の急所に決めていきながら次々に魔獣を飛散させる。


リルは空中の敵を何とか数体撃ち抜いていく。


その間、バルトはその二倍以上の敵をあっさりとスライスしていた。


考えればバルトの使う武器・アックスは、魔獣専用武器であり、振り回すだけでも大ダメージなのだから、この差は当然といえば当然だ。


「おせーよ〜。特訓付き合ってやるから鍛え直そうぜ?」


とうとうバルトはテオの背後の敵のみならず、テオの視界にいる敵までも一掃し始めた。


「──っと!」


バルトは、小枝を振り回すように軽々とアックスを振る。


しかしテオたちの元には、振り回した時に生じた風がしっかりと届いた。


たった一振りで魔獣を文字通り蹂躙していく姿は、もはやどちらが化物なのか判ったものじゃない。


「うわぁ………」


闘いながらも、テオはその敵を圧倒していくバルトの姿に唖然としていた。


魔獣撃破用に作られた武器とはいえ、対人用の槍とここまで差があるのだろうか。


「さ〜てと、もう終わりか?」


そう言ったバルトの背後に迫った魔獣を、テオは一突きで仕留める。


「これでおしまい」


そこまで言うと、テオは「痛たたた…」と言ってその場にしゃがみこんだ。


「テオさん大丈夫ですか?!」


「出血ちょっとひどいかも……」


骨が見えないのが奇跡的なほど、傷はなかなかに深かった。


「おいおい、何のためにリルがいるんだよ〜」


バルトがやれやれと言ったジェスチャーをする。


「テオさん、少し足に触りますね」


リルは有無を言わさずテオの傷口の近くに自分の両手を当てた。


「え……凄い……何これ…」


優しい、人肌とはまた違う温かさが傷口にじんわりと広がる。


徐々に痛みは取れ、二分もしないうちに傷口は消えた。


「……ふぅ!もう大丈夫ですよ!」


「あ、ありがとう!【キュアー】の治療は初めて受けたんだけど…こんなに心地良いんだね」


信じられないとばかりに何度もテオは自分の足とリルの手を見る。


「十中八九、今日は収穫無しだな〜…ま、別に今日じゃなきゃいけねぇ理由もねぇか」


能力に感動しているテオとは反対に、苦笑いを浮かべながらバルトは頭を掻いていた。


「え?何で??レシカが捕まえたかもしれないよ?」


「なーいない!人を囲ったり、タイミングを図りながら近づいてくるなんて、調教されてないモンスターにできるわけがねぇ。必ず、どこかで指示を受けていたはずだ」


種類が違うのに統制が取れていたのはそういうことだったのかとテオは納得する。


「僕は何の気配も感じなかったけどな……」


「最近、アナスタチアの科学の進歩が目覚ましくてなぁ。あの資料によれば、半径五キロ以内ならモンスターたちに自由に指示を出せるそうだ」


「それじゃあ僕の能力も使えない範囲があるな…」


 テオが少ししょげたように肩を落とすと、バルトは笑いながらその肩を叩いた。


「ははは!まぁそんなに気にすんなって!あれだけの数を相手に今日はよくやったよお前は!」


そこまで言うと、バルトは「帰ろうぜ〜」と二人を促した。


「あ、(わり)ぃ、リル、今日は遅いから泊まらせてくれ」


「はい!分かりました!」


「ぼ…‥僕もいい?」


「勿論です!」


そう言いながら月の光さえ差さない森の道を、三人は引き返していった。

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