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最後の一葉が散る前に  作者: (第一樹)真いかみみ (第二樹)七峰らいが
第二樹 自己妄想体験編
22/23

Ⅱ 七峰らいがは一人ではない

 七峰らいがの夢は、可愛い女の子になることだった。

 もしも自分が美少女キャラクターのような姿だったら、今とまた違った人生を送っていたかもしれないという妄想。

 それは言ってみれば中学二年を過ぎたクラスのいじめられっ子が最後の最後にすがりつく甘っちょろい希望だったかもしれない。


 当然、七峰らいがもそれが叶いっこない願いだと知らずに心の支えとしたわけではない。

 現実世界で性転換の手段は限られている。それだけでなく、自分のコンプレックスを改善することなど果たしていくらのお金と時間を必要とすることだろうか。


 ただ、ありもしない妄想が脳内に広がっていくことがたまらなく面白かった。「可能性」とか「if(もしも)」ということばの響きは思春期の少年にとっては甘美なものに映るからだ。


 ありえないから、いいんだ。

 そんな屈折した思いを胸中に抱きながら毎日を過ごしていた。


 だが、その願いをたちまちに叶える方法があった。

 いわゆる、魔法少女になること。

 もちろん、それは誰にでもできることではない。だが事実として、七峰らいがは魔法少女に変身する資格を得た。


 なるべくしてなった────それは本当だろうか。考えてみれば契約を促す存在の巧みな話術による嘘かもしれない。

 けれど、それで納得してしまうのが七峰らいがという男だった。


「……しまった、また女になってた」

 ベッドの上でふっくらした胸を揉みしだきながら思考を整える。夢を見ている間に変身能力が暴走して、起きると誰かの顔と体になっている。

 それが誰なのか調べるのも一興だが大抵は印象に残りやすいテレビコマーシャルの登場人物だったり、顔見知りだったり、そのパーツのひとつひとつをモンタージュ写真のようにしたキメラだったりする。


 落ち着いて、自分の元の姿を思い出す。そうすると身についた脂肪が減ってゆき、骨格が少しずつ変わっていった。


 そして二十代前半の青年の顔つきに、少しずつもどっていく。


 この自由自在な変身能力は、七峰らいがが魔法少女として契約することで得た彼固有のものだ。彼はこの能力で別人格を装い、理想の美少女を演じ続けてきた。


 では、そもそも七峰らいがとは何者なのか。


 七峰とは「名無し」の変形である。「名無しさん」とは、匿名希望を指す今は昔のネット用語だが名無しという名前を有するという矛盾。このねじれこそ七峰らいがの真髄だといえる。


 世界には七峰らいがという匿名の人物がおり、その人なりに生活を送っている。

 それはどのような世界であっても────つまり並行世界のようなあらゆる可能性が考えられる一つ一つの世界に、彼はいる。


 ゆえに、七峰らいがとは単一の個人を示す名称ではないのだというのが西暦二〇一一年ごろに考えられていた。それは七峰らいがを名乗るある特定の個人によってだ。


 結局いま現在となってはその特定の個人こそがオリジナルの七峰らいがであり、ほかはその模造品に過ぎないという考え方が支配的になっている。

 だからこの魔法少女に変身し理不尽な悪夢に悩まされている七峰らいがは、オリジナルではなくコピーにあたる。


 ではなぜ今、オリジナルの七峰らいがではなくコピーの七峰らいがの話をするのか?


 それは彼が史実(オリジナル)にもっとも近い表象(コピー)だからだ。近い、というのは同じだとか似ているとかいう意味ではなく、心理的にオリジナル七峰らいがの人生の近くをなぞっているということを指す。


 つまりオリジナル七峰らいがが自分の人生をもとにして架空の世界を創作するのにきわめて都合のよい存在が、この魔法少女七峰らいがなのであった。

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