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最後の一葉が散る前に  作者: (第一樹)真いかみみ (第二樹)七峰らいが
第二樹
17/23

③ 二兎を追うネコ(前編)

この物語はフィクションです。


「しんどいな……」


 SADさんはボールペンを動かす手を止め、窓の向こうを見やった。

「チッ」と舌を打ってひとりごちる。「雨だな……雨の日は具合が悪くなる」


「仕方ないですよ。天気に文句を言っても」

「それはそうだが……」だめだ、とペンを投げて言う。「少し休もう」



「こういう日が続くと、ときどき思うんだ、わたしの前世はネコだったんじゃないかなと」

「え、どんなネコですか?」

「あ? ……いや、そこまで厳密に考えてみたことはないな……」


 思いがけず動揺するSADさんを見て、ぼくの顔もほころぶ。

「じゃあ、どんなネコだったか考えてみましょうよ。気晴らしになるかもしれませんし」

 SADさんは菓子袋からチョコ・プレッツェルをつまんで、呟く。

「そうだな……ならまず、言い出しっぺのきみから始めてくれないか。その……わたしの前世ネコを想像するゲームを」


 先行の権利をいただく。


「そうですね。雨が嫌いだということは、その。きれいずきだったんじゃないですか? 濡れるとせっかくの毛並みがぺしゃんこになってしまうから……それほど毛がふさふさのネコだったんじゃないでしょうか」

「雨が嫌いだから当然シャワーも嫌いだろうな」と、SADさんが合いの手を入れる。


「ということは、飼いネコだったんですか?」

「そういうことにするか。……ちなみに今でこそわたしはインドア派だが、ネコ生ではきっとアウトドア派だったに違いない」

 それはなぜですか、と問う。

「ネコは気ままに旅をするものだと決まっている」

「はあ……そうですか」

「うむ」

この人はいつも具体的にものを言わないな、と苦笑しつつぼくは迎撃する。


「じゃあ、旅人か船乗りに同行するネコだったんでしょう――船なら雨嫌いもわかりますね、海が荒れますから――。そうやって、世界中を飽きるほど回ってきた」


「なるほどな。そうすると港という港に彼女がいたかもしれんな……」


「は」


 いきなりすごいことを言い出すな、この人は……。


「オスネコなら……無い話じゃなさそうですが」ぼくは口を曲げて言う。「まさかそれで、今は色恋沙汰に縁がないとか?」

 我ながら意地悪なことをした。するとSADさんは急に顔を曇らせて、

「や、そこまで前世が当世に影響を与えるとは思いたくないな……」

 と、いやに黙り込んでしまった。


「……なんか、すみません」

 SADさん…………彼氏いないんだな。

「いや、いいんだ……」


 まあ当然かもしれない、とチョコ菓子でできた貝塚を見て思う。

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