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アサルトセイヴ・ヴァーサス  作者: 九条智樹
第1部 VS. クロスワン・バスタード
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第2章 聖戦の始まり -5-


「よし、一通りのテクニックは使えるようになったね」


 そんな週の木曜日のことだった。ほぼ二週間近い短期特訓の末、ようやく桐矢は葵からのお墨付きをもらった。


「これで、〈reword〉ミッションやらせてもらえるんですよね……?」


 CPUや稀に相馬を相手に一人で連戦を続けていた桐矢は、へとへとにへばりながらもどうにかその確認だけはした。

 というのも、せっかく〈reword〉プレイヤーになったというのに「総残機ポイントは無駄に出来ないから」という理由で、〈reword〉ミッションをすることを全面禁止されていたのだ。

 最初の一週間で並のプレイヤーレベルには到達していた桐矢としては、早くミッションがやりたくて仕方なかったのだ。


「いや、それはちょっと……」


「え?」


 何故か渋る葵に、桐矢は目を丸くしていた。これでは一体何の為にこれほどの努力を捧げたのか分からない。


「あ、違うよ? 桐矢君の腕がどうとかで〈reword〉ミッションをプレイさせられないんじゃないの。ただちょっと、いま問題があってね……」


 慌ててフォローした葵の言葉を聞いて、桐矢は思い出していた。

 現在のASVの〈reword〉ミッションは、全プレイヤーがBランクの最終ミッション手前で足を止めている。確か昇格ミッションに挑戦すること自体が、はばかられているとか。


「問題って何です?」


「バグだよ」


 葵に変わって相馬が答える。一応は桐矢にASVの〈reword〉の説明をしているとは言え、それでもクレーンゲームに大金を注ぐような彼女の説明では、やはり不安なのかもしれない。


「と言っても、正確には昇格ミッションのバグじゃなくてね。〈reword〉をプレイ中、強制的に昇格ミッションをプレイさせられるっていう、恐ろしいバグが発生したんだよ。それも、総残機ポイントを全賭け(オールイン)した状態でね」


 その言葉で、桐矢は身震いした。

 基本的に総残機ポイントが枯渇することはないと言っていい。注意さえしていれば、どんなに弱いプレイヤーでも尽きる前に補充が出来るからだ。

 だが対戦で全てを賭けてしまえば話は別だ。一瞬でポイントを失い、〈reword〉から退場させられる。


「でもまぁ、全員が撤退コマンドを押せばお終いなバグだ。チーム全員が撤退を承認すれば、その戦闘は終了。撤退さえ出来れば、賭けた残機ポイントの九割は守れるし」


「でもそんなバグ危ないじゃねぇか」


「実際、確認できてる被害は二カ月くらい前からの十数件ほどだからね。数が足りないよ」


「……でも、みんなビビってるってことか」


「そういうこと。せめてバグの原因が分からないことには、誰も攻略再開はしないだろう。下手をすれば、普通に昇格ミッションをプレイしたら全賭けプラス撤退不可、なんてバグになるかもしれないからね」


「……でも、そろそろ通常ミッションもやって、EXP稼ぎを本格的に再開させないとまずいのも確かだよね。桐矢君の練習に付き合って、わたしたちもずっとモニター見てああだこうだ言ってただけだし」


 うーんと葵は頭を悩ませている様子だった。


「ですね。それにこれだけテクニック積んでいれば、バグが起きてもちゃんと動揺せずに撤退くらいは出来ると思いますよ。何も昇格ミッションをやろう、って無茶な提案をしてるわけじゃないんですから」


 相馬の後押しもあって、葵は何か決断した様子だった。


「よし、じゃあ明日からは〈reword〉ミッション合宿でもしようか」


「……合宿、ですか?」


 まるで自然な流れで話しているが、随分と唐突な提案だった。


「そう。明日の金曜日は創立記念日で休みでしょ? だからこの三連休を合宿に使おうかなって思って」


 六月と言えば祝日がないイメージがあるが、実際のところ創立記念日を設けている学校も多い。というのも、創立記念日は実際の創立日とは無縁で勝手に設定できるらしく、ならば祝日のない六月に、となるようなのだ。


 そんな六月の唯一の土日以外の休み。いくらゲームとはいえ連日ここまでハードに特訓をさせられれば、桐矢も休みたくはあった。

 部活動として設定されている時間は、フルでコクーンに乗りっぱなし。中にお茶などを持ちこめるし、出撃の合間に数分の休憩はあるが、基本は通しで対戦し続けている。

 疲労がないと言えば嘘になるし、中学時代もほぼ部活に入らずに過ごしていた桐矢は、土日の部活だけでもハードなのに合宿なんて……とも思った。


 ――だが。

 桐矢には、葵がただ部活の為に提案しているようには思えなかった。

 相馬の言葉がよみがえる。


『あの人は、寂しがり屋だからね』


 結局自分はそういう理由でしか動けないのか、と嫌気も差すが、この際そんなことはどうでもいいだろう。


「……いいですね、やりましょうか」


「そうですね。部長。元々ここは宿泊オーケーの施設ですし」


 相馬も乗り気でいてくれた。


「だいたい、合宿にしなくたって十五時間活動ですよね?」


 相馬の確認に、桐矢は「あ」と気付かされた。

 ならば端から二日間泊まり込んだ方が時間短縮、あるいは食事の準備などもあるおかげで多少活動時間が削れるかもしれない。

 そこまで相馬は読んでいたようだ。


「合宿でEXPをしっかり稼ごうね。――あ、相馬君の借金は別途返済だから」


「それじゃどんだけ頑張っても終わらないじゃないですか……」


 相馬ががっくりとうなだれているが、葵の方は冷たく無視して話を先へと進めた。


「じゃあ明日の午前九時に二泊分の荷物を持ってここに集合ね。私服でもいいけど、念の為に制服は持ってきておくように」


「了解です」


 意気消沈した相馬とは裏腹に、意気揚々と桐矢は敬礼で答えたのだった。


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