77 冬 冬虫夏草 22
――理由は、わかりません。……原因、すなわち、何によるものか、も。……自分だけで生み出したものの可能性もあれば、自分以外のものにあやつられて生まれたものの可能性も、あります。
吹子は少し目を伏せ、かぶりを振った。
――でも、黒っぽい気です。……大きな蛇のように、うねり、膨らみ、暴れています。……やり場のない妬み、恨み、悔しさ……おそらく、そういうものからできています。
「わ、わたし、拓に対してそんな気持ち抱いてないよ! 信じて!」
茜は首をねじって、拓に訴えかけた。
「えっ……!? あっ……あぁ」
拓は、短く頷くのが精一杯だった。
「わかったわよ! んもう! わたしの方は毎日こうやって起こしにきてるのに」「俺が頼んだことかぁ?」という茜との会話を、拓は思い出した。
ああいう小さなことが少しずつ少しずつ積み重なって、とうとう大きな蛇ほどの邪気になってしまったということか。
ぞっとした。
自分にも、だいぶ責任がある気がしてきた。
――自覚していれば、こんなことには、なりません。……自覚していないからこそ、問題……なのです。
静かに、きっぱりと、吹子は言った。 そういえば、と拓は思った。
夏に、ヒマワリの精のヒワコも、茜について気になることを言っていた。
――うまく言えないんだけどさ、彼女、過去の映像がぶつぶつ切れるんだよ。全部お前と花の精が一緒にいるとき。意識的にか無意識的にかわからねーが、心にプロテクトがかかってるのかなあ。で、その力が大きすぎて、過去を消してるかどっかに隠しちまってるのかも。
心の、「プロテクトがかかっている」のではとヒワコが表現した場所に、茜の感情は無理やり押し込められ、歪められているのだろうか。そして、彼女の知らないところで滲み出て、暴れるまでになっているのだろうか。
……ずっと近くにいながら、俺はそれに全然、気づかなかった。気づいてやれなかったのだ。
「騙されないで! 拓。わたしを悪者にして、この人、ずっと拓の気を吸い続けるつもりかもしれない!」
茜は羽交い絞め状態で顔をねじって拓を見上げたまま、地団太を踏んだ。
吹子は、黙って拓と茜を見つめている。茜が何を言っても動じる気配がなく、凛としている。
「ごめんな、茜」
拓が話しかけると、茜の動きが止まった。
「前に、ヒマワリの精のヒワコにも言われたんだ。花の精って、人間の過去が見えるだろ? お前の過去の映像、ぶつぶつ切れてて、……それが全部、俺が花の精と一緒にいたときのだって。……お前の心に、意識的にか無意識的にか、プロテクトがかかっているかもしれなくて、それで、過去を自分で消したり隠したりしてるのかもしれないって」
恐怖にも似た驚きの表情が、茜の顔に浮かんだ。そのあと、茜はにやりと笑った。
「だから、何? どうして拓が謝るのかしら。いったい、何について謝ってるの!?」
眉と目が歪み、悪意に満ちた光が目に現れている。
「そばにいたのに、気づいてやれなかったこと。小せえ頃からずっと一緒にいたのにな」
いらしてくださり、ありがとうございます。




