51 秋 コスモス・ローズマリー 18
いらしてくださり、ありがとうございます。
「ほんとにむかついてたんだよ。でも、俺の親友盗りやがって! みたいな気持ちで彼女を見てるうちに、なんかいないと目で探すようになっててさぁ。……そこへもって、またAが、彼女のどこがかわいいかとか、優しいかとか、暇さえありゃ言うわけよぉ。確かに、笑顔がすっげぇーかわいくて優しくてさぁ、それでいてワイルドでセクシーなところもあって、ドクロの小物なんか集めてんだ。……気づいたら、いつも彼女のこと考えるようになってたっつーわけ」
恭平は親指以外の指をくっと曲げ、額に当てた。それから、クシシシシ、と息を漏らしながら笑った。
「ローズマリーもさぁ、彼女が最近ハーブに興味をもって、『ハーブって植物だし体に優しくていいよねー』みたいなことを言うから、苗を買って植えてみたんだよ。好きな女の好きなもののことを知りたいっつーかさ」
「悪い動機じゃないと思う。ただし、植物にはチョウセンアサガオやトリカブトのように猛毒のものがあることは、彼女に知らせてやるべきだな。植物だから体に優しいなどとひとくくりにするのは、危険な考えだ」
拓は親切で言ったのだけれど、恭平はあまり聞いていないようだった。
というかもう完全に自分の世界に入っている。
「ったく、どうすりゃいいんだ、って感じだよね。Aが彼女と付き合ってるから、この頃は三人でめし食ったり映画観たりすることも増えてきてさぁ。で、彼女もAのことを無邪気に俺に相談してくるわけ。サシでの相談もあるわけよ」
額に当てた指越しに恭平は拓と茜を見、どうにもならない、というふうに首をゆっくり左右に振った。
「よかったじゃないか」
拓は吐き捨てた。
「んぁ!?」
恭平がばね仕掛けの人形みたいにソファから立ち上がっても、拓は落ち着いていた。
「Aが彼女と付き合ってなけりゃ、三人で何かしたり、サシで彼女と話したりすることもないかもしれないだろ」
拓は座ったまま恭平を見据えた。彼は拓と視線を合わせたまま小さく息を吐き出し、またソファに腰を下ろした。
「そ、そりゃまあそうだけど……でもそんな状態でずっといるのって、ほんと胃が痛くなるぜ? 俺にとってはAはもちろん大事。でも、彼女も大事でさぁ、日に日に、二人でいたい気持ちが強くなってきちまって。最近じゃ、Aと彼女が一緒にいるのを見るのがつらくなってきてるんだよ」
だんだん声が弱くなっていった。
「彼女には言ってない……んだよね? 長庭君の気持ち」
そっと茜が話しかけると、恭平はすさまじい勢いで何度も頭を縦に振った。
「あったりまえだろ!? そんなこと言ったって彼女を苦しめるだけじゃないかよぉ!」
「とは限らないぞ。もし彼女もAよりお前のことを好きになって、お前に乗り換えるっていうなら、二人は両思い、ある意味ハッピーエンドだ。ま、人のもん奪ったらまたほかのやつに奪われる恐怖におびえなきゃいけないかもしれないが、そりゃ別の話だろ」
拓は薄ら笑いを浮かべながら話した。
茜が制服の袖を引っぱったが、言葉が止まらなかった。
一年草のコスモスと違い、何もなければ、来年以降も恭平は生き続けられる。そして自分次第で、少なくとも高校を卒業するまで、好きな女とも大事な親友とも一緒にいることができる。
恭平には、選択肢があるのだ。
「彼女はそんな女じゃねえし! 絶対、苦しめたくねーんだよ!! それに、もし万一彼女が俺を選んでくれたとしてさぁ、AはどうなるんだよAは!」
「傷ついて一人で立ち直るか、新たな支えとなる人を見つけて二人で立ち直るか、立ち直れなくて死ぬか……俺はAってやつがどんなやつか知らないからな、なんとも言えん」
拓と恭平は、座ったまま睨み合った。
初めて出会ったとき、恭平が茜の体にさわってしまいそのことで睨み合ったときのような、いや、もっと激しい視線の闘いだった。
見えない炎が互いの目からまっすぐ噴き出、二人のちょうど真ん中辺りで押しつ戻りつしつつ激しく燃えているかのようだ。
二つの炎はそれぞれ違ったすさまじい気迫に満ちていた。恭平のは色で例えるなら情熱的な赤とオレンジの炎、拓のは冷たく憤った青白い炎、というように。
「Aを一人にするなんて……ありえねえ!」
「そうか? 俺には、お前はもう自分で答えを出しているように思うがな!」




