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50 秋  コスモス・ローズマリー 17

 別にローズマリーの本体は元気なのだから、以前の自分なら、花の精とはいえ少女の一人や二人、泣こうがわめこうが気にならなかっただろう。

 園芸部の活動を始めてから、何かが変わってきてしまったみたいだ。


「「いただきます」」


 拓と茜は同時に紅茶に口をつけた。

 紅茶に、少し爽やかさが加わっていた。ローズマリーの葉の香りから想像されるようなえぐみや苦みは特に感じられず、あと味もすっきりしていた。


美味うまい」

 ひと口飲むと、すぐに次が飲みたくなった。

「ほんとに、おいしい」

 茜も、カップを手にしたまま、リラックスした笑みを浮かべた。

「だろ? だろ?」

 恭平は目尻を下げ口角を思い切り上げると、自分もマグカップに入れた紅茶を飲んだ。


「で、ローズマリーの栽培自体は、うまくいってんのか?」

「おかげさまでな。剪定もしすぎないようにしてるし、水やりも控えめにしてさぁ、根腐れに気をつけてるぜぃ」


 恭平はソファの背もたれに身をあずけてローズマリー入り紅茶をすすった。



「でも、なんでまたローズマリーに興味を持ったの? 最近なんでしょ? 植えたの」



「よくぞ訊いてくれたな、茜ちゃん! ちょっとクッキー持ってくるわ」

 恭平はまた立ち上がると姿を消し、クッキーの入った缶を抱えて戻ってきた。

 そしてそれを開け、一つつまんで、拓たちにも勧めた。


「……さっき、クラスの女子がローズマリーに興味持ったっつったろ?」

「うん」

 拓は黙っていたけれど、茜はちゃんと頷いてやっていた。


「俺さぁ、その子のこと好きなんだよ」

 恭平は首を突き出し、上目遣いで茜を見た。


「じゃ、ちょうどいいじゃない! ローズマリーを育てるのに興味ある子なら、育て方の相談に乗ったり、生えてるところを見せてあげたりすれば?」

 赤いジャムが載った大きな丸いクッキーを手に、茜は目を輝かせた。


「本当はそうしたいよ。でもさぁ、そう簡単にはいかねーんだって」

 恭平は、チーズの香りがこうばしいスティックタイプのクッキーを咥えて頭の後ろで手を組んだ。

「どうして?」



「実はさぁ……その子、俺の親友の彼女なんだよね」



 クッキーをすべて飲み下すと、恭平は目の端と眉根に皺をつくって天井を見上げた。それから、手をほどいて背筋を伸ばし、くるむように膝に手を置いた。

 拓は正直、この話を聞いても何も心が動かなかった。

 茜が目配せしてきたけれど、大げさな表情を作ったりする気にはとてもなれない。


「た、大変ね、それは。親友の人は知らないんでしょう?」

 わぁ、踏み入れたくない所に足を踏み入れちゃったよ! そんな表情をさほど隠す気もない感じで、茜は眉を不均衡ふきんこうに上げた。


「もちろんだよ。そもそもさぁ、親友――仮にAとするけど、Aが彼女と付き合うようになって急に付き合いが悪くなったんで、最初は腹が立ってたんだ」

 恭平は視線を落とし、溜息をついた。


「それまでは毎日、学校帰りにつるんでどっかに遊びに行ったり、たらたらだべりながら帰ったりしてたんだけどさぁ、そういうの、あいつが彼女と付き合いだしてから全然、なくなっちまったんだよねー」


「けっ。いいじゃないかそのくらい。別に親友が消えちまうわけじゃねーんだろう?」


 拓が思ったことを正直に言うと、恭平は口をあんぐりと開けた。


「うっわぁー!! 冷たぁっ! 何、その突き放しっぷり! 水原ってさぁ、もしかして『非情と書いておとこと読む』みたいなポリシー持ってんの?」


「別に。長庭こそ過剰に反応しすぎだ!」

「あー……拓はちょっとこういうの、年の割にうといのよ。変な反応でごめんね」

「なんで茜が謝ってんだよ。謝らなくていい」

 拓がむすっとしたまま口を尖らせると、茜は苦しそうに恭平に向かって微笑んだ。


「拓の言うことは気にしないで。長庭君が言ったの、あるある。女子でもあるわよ、彼氏ができると同性の友達とあんまり遊ばなくなっちゃうとか。ちょっと寂しいわよね」


 茜は優秀なカウンセラーみたいに、恭平の言うことに同意してやっていた。


「ほんっと茜ちゃんはいい子だなぁ。なんでこんないい子が水原みたいなやつの肩を持つのかわからない。茜ちゃん、しなくていい苦労はさぁ、しない方がいいよ? ……で、えーとどこまで話したっけ?」

「最初は、A君の彼女に腹が立ってて」

 そうそう、と恭平は膝をポン、と叩いた。


もうお前ら付き合っちゃえ!(うそです)


ここまでお読みいただきまして、どうもありがとうございました。

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