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46 秋  コスモス・ローズマリー 13

いらしていただき、ありがとうございます。

「建設的な話ついでに、先にローザさんにお二人のことをどう打ち明けるか、みんなで話しませんか?」

 茜が、真剣な顔でエスペランサと男性がいる方向に呼びかけた。


「あ、わたしは拓と高校の園芸部で一緒の、土屋っていいます。拓にさわってないとお二人の声が聞こえないんで、こんな格好で失礼します」

 拓の背に手を当てたまま、茜はぴょこんと頭を下げた。それから、生成りのバッグを地面に 置いて中からレジャーシートを取り出し、広げた。


 エスペランサはだるそうに彼女を眺めた。

 男性は、白い歯を見せて彼女に微笑ほほえんだ。


 ――さっきから彼によいアドバイスをしていたのを、ぼくは見ていました。


「そんな、よいアドバイスなんて、全然。ただ思ったこと言ってただけです。拓とわたしは、ここに座らせてもらいますね」


 ――自分から話を持ちかけてくる以上、何かいいアイディアがあるということですわよね? 見たところ脳みそに行くべき栄養がみんな胸に行っているようですけど。


 エスペランサは、じろっと茜の胸を見た。

 いや、胸が大きくなかったら栄養がちゃんと脳みそに行っているかっていうと、とてもそうは……。

 エスペランサのスレンダーな胸から頭に視線をスライドさせながら、拓は胸のうちでひとりごちた。


「ごめんなさい。いいアイディアはないですが、こう思う、っていうのはあります。あっその前に。わたしより胸が大きくて成績いい子、いっぱいいますよ。巨乳は馬鹿だとかいう人いますけど、あれは偏見へんけんでしょう」


 茜は拓の視線の動きを見届けたあと、それと同じ方角に向けて同じように視線をスライドさせた。

 まるでエスペランサの胸と顔が見えているかのように。

 やるじゃないか。拓は口元がゆるむのを必死で抑えた。


 笑顔のまま爽やかに、茜はエスペランサを牽制けんせいしている。幼なじみとはいえ、こいつがこんな高度なテクニックをもっているとは知らなかった。


 ――胸の話はもういいですわ。早く意見を。

 不満そうに、エスペランサは鼻から息を短く吐いた。



「傷つけないやり方はない、と思って正直にぶつかった方がいいかもしれませんよ」


 茜は上目遣いでぐっと目に力を込める感じでエスペランサに語りかけた。


 ――え。

 エスペランサは困惑の色を顔に浮かべた。


「傷つけたくないから、言えなくなっちゃうんでしょう?」

 ――それがどうだというのです。



「傷つけたくなくて最後まで言わずにいなくなったら、ローザさんは、なんでエスペランサさんはいなくなったのか、とかどうして自分を捨てたのか、とか、一生、悩み続けるかもしれません。そしてその答えは永遠に出ない。……結局、真実を告げるよりももっと深く、長い間にわたって傷つけることになりかねません」



 茜がひと区切り言い終える間に、エスペランサの目がみるみるうるんできた。

 茜はレジャーシートに手のひらをつき、前のめりになって続けた。



「どうやったってたぶん、ローザさんを傷つけないことはないんです。それに、人の地雷はどこにあるかわかりません。エスペランサさんがまさかと思うようなところでローザさんが反応することも、充分ありえます」


 ――っ!

 エスペランサは、男性に支えられたまま上半身を起こした。


「だったらもう、傷つけることも、傷つけることで自分が受けるダメージもすべて引き受けて、 工作せずに、本当のことを言ったらいいんじゃないですか?」


 ――でも、どうやって。


 エスペランサは急に弱気な声になり、うつむいた。



「あくまでも自分はこう思うってだけですけど……、まずは事実と心情を分けるのが先決です。この二つが絡み合うと、伝えるのも受け取るのもややこしくなる。だから、例えば事実だけ先に話して、あとから、自分の気持ちを話す。これだけでもだいぶ整理されるはずです」



 拓も男性も、固唾かたずを飲んで茜とエスペランサを見守っている。


 ――せっかくこう言ってもらったんだし、ここでその、整理とやらをやってみたらどうです、 エスペランサ。


 ――整理といってもどうすれば……。

 エスペランサは視線を落とし、眉をしかめる。



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