第八十七話 妖術
予想外のことがあったが、目的は達した。魔石と目的の物を拾った輪廻達はこのダンジョンから出ることにする。
「地下100階のボスが死んだなら、この状況は解けているはずだ。ルフェア、頼んだぞ」
「うむ」
ルフェアは自分の世界へ繋げ、ゼクス達が待っているだろうと、屋敷がある方向へ向かった。
「あっ、帰ってきたか!」
「帰ってきたって、ここはお前達の家じゃないんだろうが……」
「我が家のようにリラックスしていますね……」
ゼクス達はルフェアの屋敷を我が家のように、ソファーに寝転がったり、ご飯を食べている者もいた。これはあとで請求しなければならないなと考える輪廻達だった。
「恐らく、転移陣は使えるようになっているし、魔物も元に戻っているから、そのままダンジョンで探索するか、外に出るのどっちがいい?」
地下100階のボスを倒したが、ダンジョンは消えたり入れなくなるということにはならないようで、ゼクスにこれからどうするか聞くことに。
「そうだな、指導の続きをお願いしたいと思いましたが、今日は無理そうですね……?」
「ああ、邪魔する馬鹿がいたから少しは疲れているから、今日は勘弁してもらいたいな」
それほどに疲れはないが、エルネスのせいでテミアは機嫌が悪い。ゼクス達が話しかけたらギロリと睨んで、話しかけるなとオーラが出ている。勿論、輪廻だけは例外であり…………
「落ち着けよ、夜にご褒美をやるからさ」
「本当ですか!?」
輪廻の言葉で、すぐに機嫌が良くなったのだった。
(テミアの機嫌は直ったのはいいが、エルネスと言ったか……?)
エルネスのことを考えていた。まだ不明な所が多く、実力を読み切れないでいる。人形使いと言っていたが、メアと言う人形しか持っていないとは思えなかったのだ。つまり、まだ実力を隠しており、メアとは別の人形を持っている可能性が高い。最後まで戦わずに済んだのは、こっちにしては、助かったかもしれない。
「むぅ~」
「どうしたんだ?」
輪廻が考え事をしていたら、横でシエルが頬を膨らませて輪廻を見ていた。
「テミアばかり、ずるい……」
「わ、我だって!」
どうやら、テミアだけにご褒美があることにズルいと言っているようだ。確かに、シエルとルフェアも頑張ったのだから、ご褒美をあげる必要があるだろう。
「夜にだぞ?」
「了解です!!」
「楽しみにしておるぞ」
夜にご褒美をやると約束をして、ゼクス達はどうするのか、また聞いてみたら………
「僕達は街に帰ることにするよ。色々とお世話になったから、何かお礼をしたいんだが…………」
「お礼か………」
お礼とは、危険な場所からここへ避難させてくれたお礼のことだろう。ゼクスなら生き残れるだけの実力があるようだが、他の仲間達はそういかない。ゼクス抜きでケルベロスクラスと戦ったら必ず死者が出ることは予想出来た。
そのことについてのお礼だが、ゼクス達に貴重な物を持っているようには見えないし、お金は充分稼いでいるから欲しいとは思わない。だから、いらないと言いたいが、それで納得してくれるとは思えなかった。
「…………なら、貴重な情報を貰おう」
輪廻は情報を報酬としてもらう。輪廻の知らない情報があれば、御の字でもし、無くたってこっちに損はない。
「情報か?」
「ああ、何でもいいぞ。例えば、Sランクの魔人が出て来る場所とか、珍しい魔道具が売っている国やその効果など。まぁ、雑談程度で出る情報でいい」
「情報か……、近くのティミネス国で魔人に襲われたとかは知っているよな?」
「まぁ、知っているな。しかし、どうやって知ったんだ? 俺たちは転移でティミネス国から来たばかりだから知っているが……」
輪廻達はティミネス国を救った後、すぐにダンジョンへ向かったから、先に入っていたゼクス達は知らないと思っていたのだ。
「ここのダンジョンには、情報屋がいますからね。輪廻達に会う前にその人に偶然に出会って、聞いたんですよ」
「情報屋……? シエル、知っていたか?」
「いえ、ここのダンジョンは初めて入るので。あれ、ダンジョンの中にいたなら、テミアの察知に引っかかりませんか?」
「そういえば、そうだな」
テミアはダンジョンでは常に瘴気で探索していたから、そんな人がいるなら、テミアが見つけているはずだ。
「すいません、誰かがいることは気づいていましたが、人型だったので、冒険者だと思い、見逃していたかもしれません」
「成る程。それなら仕方が無いな」
輪廻はスピード攻略したかったので、向かってくる冒険者以外は無視してもいいと言ってあったので、情報屋と言う者も見逃してしまったのだろう。
「情報屋は、どうやって仕入れているのかわからないが、さっきまで外で合ったことも知っているんだ」
「情報はいい物ばかりで、役に立つのが多いんだ。ただ、高いし、会えるかは運だからな……」
どうやら、情報屋という者は、いつも同じ場所に現れるわけでもないようだ。
「他には……、皆も何かあるか?」
「わ、私の技を一つだけ教えるのはどうですか?」
「リダ? いいのか?」
「はい、命の恩人ですし、もしかしたら同じ技を使う者が敵にいたら、知っていた方がいいと思って…………」
「そうか、リダがそう言うなら、僕達は何も言わないよ」
どうやら、魔猫族のリダが一つの技を見せてくれるようだ。
「私が見せる技は、獣人特有の技であり、獣人でも全員が使えるわけでもなく、人間やエルフには必ず使えません」
「へぇ、聞いたことがない情報だな。それは?」
「はい、”妖術”と言います」
”妖術”、輪廻は言葉だけなら、小説などで知っている。だが、異世界であるこの世界では、小説とは違う特性があるかもしれない。黙って、続きを聞く。
「”妖術”は、先天能力であり、一部の獣人に使えないので、情報は少ないと思います」
「ルフェア、そうなのか?」
パーティ内で最長年齢であるルフェアに聞いてみる。
「名前は知っているが、内容は曖昧だな。火も出し、水も出す、雷も出て来る。それしか残っていなかったな」
ルフェアは論文など、本から様々な情報を得ている。ルフェアは色々なことを知っているが、”妖術”についての情報は少ないようだ。
「ルフェアもあまり知らないみたいだな。説明を頼めるか?」
「は、はい。”妖術”とは、騙す技だと思ってくれば、わかりやすいかと」
「騙す?」
「はい。騙す技と言っても、このように、先程の女性が言っていたことが出来ます」
手を誰もいない横に向けて、火、水、雷、土、風などの放流を見せてくれた。
「勿論、当たれば痛いし、苦しいです」
「もしかして、”妖術”とは、幻術と同じなのか?」
「近いですが、幻術では、痛みは感じないですよね? ただ、高等な幻術は別ですが」
高等な幻術であれば、擬似的な痛みを作り出すことが出来るが、”妖術”は違う。
「ふむ?」
「さっき、言ったように騙す技ですが、火や雷などは本物に見えますが、実際は違う物が出ているにすぎないのです。それが、これになります」
今度は、手の平に何かが現れる。モヤモヤしたような茶色の気体だった。
「なんだ、これは?」
茶色の気体なんて、前の世界でも見たことがない。根気良く探せば、あるかもしれないが、魔力が感じられるから、前の世界にはない気体とだけわかった。
「これは私の魔力から作り出した擬似の技となります。適正がない属性を発動出来るように見せかけて、ダメージを与えられるのは、この気体のお陰です。私は水しか適正はないのですが、このように様々な属性を使えます」
そう言いながら、茶色の気体から様々な属性を表す彩りの球に変わる。
「へぇ、色々な魔法を使えるように見せかけることが出来るだけではなく、ダメージもその通りになると……」
「はい。”妖術”を使える者に会ったら気を付けて下さいね」
「わかった。貴重な情報をありがとうな」
その後も、いくつかの情報を貰い、ゼクス達をティミネス国まで転移させて、帰したのだった…………




