第八十二話 異変
ゼクスのパーティに出会った輪廻達だったが、ゼクスからの願いで地下40階までは共闘することになったのだ。別に断っても良かったが、こんな機会は少なかったから丁度良いかなと考え、了承したのだった。
向こうも魔族を連れているのだから、こっちに魔族がいるとばれても問題は大きくならないと思っているのもあるが。
「よし、宜しく頼むぞ」
「大丈夫なのか…?」
「よ、宜しくお願いします!!」
「ゼクスが言うなら大丈夫だろう。俺はゾイルと言う」
「そうですね。私は、エミーと言います。暫くですが、宜しくお願いいたしますわ」
「……ラギオ」
軽く自己紹介を終わらせ、ゼクス、リダ、ゾイルが前衛でダイ、エミー、ラギオが後衛と言う形になっているという。リダは魔術師かと思ったが、フードは二つの尻尾を隠すために着ているだけと言う。
輪廻達だったら、地下40階までなんて走れば直ぐなんだが、ゼクス達めいるので、普通に進んで行くことにする。輪廻達だったら、テミアが瘴気で道を探りながら走って進んで行くから無駄な戦いをせずに済んでいたのだ。進む道に邪魔な魔物がいても、一撃で切り捨てるから余り止まることはない。
「さて、共闘をしたいと言ったが、連携とかはいらないよな?」
自分達の役割を聞いておく。向こうも相談済みだったのか、すぐに答えてくれた。
「ああ、敵は俺達に任せてくればいい。君達は気付いたことがあれば、何でもいいので、教えてくれないかな? 代わりに魔石は全て君達にあげるから」
「ふむ、共闘というより、指導して欲しいと言うわけか?」
「そうなるな。魔石だけでは足りないなら、幾らか払うが……」
「いらん、魔石を山分けするだけで、充分だ」
「それだけで、いいのか……?」
ゼクス達は手に入れた魔石を全て渡そうと思っていたが、輪廻は半分で充分だと言う。輪廻は空間指輪を幾つか持っているといえ、地下100階まで進む予定だから、余計な荷物を増やしたくはなかったのだ。もし、地下100階のボスを倒して、宝箱が出た時にどれだけあるかわからないから。
「よし、進むか」
「はい!」
このまま、輪廻達は指導をすると言うことで、楽させることになった。ゼクス達の実力を聞いてみて、ゼクスだけがSランクで、他はAランクだと知ったので、今の階では楽勝に終われるだろう。
輪廻はそう考えて、先に進んだが……
こんなことになるなんて、予測出来なかった。
「お、おい!? あれはなんだよ!?」
「わかりません! 私も見たことがありません!」
「何それ!? 魔法が全く効かないなんて!!」
「あんなのがいるとは、興味深いな……」
輪廻達は珍しく、敵から逃げている途中だったのだ。後ろを振り返って見ると、
キュツキュッ!! と鳴きながら大量の黒光りする虫がこっちに向かっていた。まさか、こっちにもアレがいるとは…………
「アレは、魔術師殺しの蟲だ!!」
「ゼクス、知っているのか?」
横で一緒に逃げているゼクス達がいて、ゼクスは知っているようで、答えてくれた。
「魔力を喰う蟲で、魔法や魔剣類の攻撃が全く効かないんだ!! アレは、浅い階層にいる魔物じゃない!!」
「何だと?」
浅い階層にいる魔物ではない? 詳しく聞きたかったが、ゼクスはそれ程に詳しくは知らず、冒険者の先輩に聞いたことがあるだけらしい。アレは地下70階辺りに出て来る魔物らしい。
「とにかく、アレに触りたいとは思わん!! 逃げ続けるぞっ!!」
「それに同感だッ!!」
見た目でも嫌悪感を感じるし、さらに酸を吐きだすと言うので、戦うのは諦めて逃げることに決めたのだ。
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ようやく、蟲を振り切って、全員は息をついていた。あれに追われる恐怖で精神的に疲れた輪廻達だったのだ。
「はぁ、はぁ、な、何で、アレがいるんだ……?」
「俺に聞かれても知らねぇよ。しかし、こんなケースは初めてなのか?」
「俺は聞いたことがないな。君達も?」
「はい、私は長く冒険者をしていたけど、こんなのは初めてです」
シエルも浅い階層に深い階層にしか出て来ない魔物が現れるなんて、初めてだし、聞いたこともない。
「何か、嫌な予感がするんだよな……」
「俺も同感だ。危険が迫っているような感じだ」
輪廻の言葉にダイも同意する。このダンジョンはおかしいと。
(チッ、これも試練じゃねぇよな?)
輪廻がここに来た理由は、『邪神の加護』の試練にある。この前に、カーゴイルの石像を見付けており、今は試練の途中なのだ。
ここにいる魔物、地下100階のボスが持つある物を持ってくる試練であり、さっきのような異変が試練だと考えれば、前例がないことに納得出来る。
ゼクス達は試練に巻き込まれた形になっているとも言える。地下70階の魔物が現れたことから、ゼクス達の実力では危険だと判断し、早く転移陣まで送ったほうが良いと考える。
「ここは地下36階か、さっさと40階まで送った方がいいな……」
「輪廻?」
ブツブツと呟く輪廻にゼクスは何事なのか、聞いてくる。少し考えて、どう言うべきか決めた。
「この異変は俺達のせいかもしれん。お前達を地下40階まで送ったらすぐに転移して、帰れ。指導はいつかな」
「待って! なんで、君達のせいだと?」
珍しく、リダから話しかけて来た。ある程度は教えてやるか。と決めるが、『邪神の加護』のことは伏せておく。
「俺達は、ある試練のために、ここへ来ている。詳しく言えないが、お前達はそれに巻き込まれた形になっているようだ」
「試練? ダンジョンにそんなのがあったのか……?」
「むっ?」
輪廻は違和感に気付いた。ダンジョンとは、自然に現れて、外に被害を出さない魔物が住み込む洞穴と言うようなイメージになっている。だが、何故、試練にダンジョンを使ったのか? そこが疑問だった。
そこで、輪廻は一つの推測が頭の中に浮かぶ。
ダンジョンとは、試練のために作られたのでは? と言うことだ。
もし、次の試練でも、またダンジョンを指定されたならば、その考えは間違っていないことになる。だが、今はまだ判断出来ないでいた。
「お、おい! 輪廻!!」
「む、考え事をしていたな」
「そうなのか? それよりも、この異変をギルドに伝えた方がいいじゃないか? 試練とは何なのか聞かせて貰えないか?」
「すまんな、詳しくは言えないように制限がかかっているから言葉に出せない」
「そうなのか? なら、もう聞かないでいいかな?」
「そうしてくれ」
さっきのは嘘だが、ゼクス達に『邪神の加護』のことを言えないから、嘘をつくのは仕方が無いだろう。
「これからお前達を地下40階まで…………」
送ろうとまで続かなかった。後ろから一体の化け物が現れたからだ。頭が三つもある犬、ケルベロスのようなのがいて、大きさも人間の倍もあった。
「なっ!?」
「邪魔だッ!!」
輪廻が動き、”重球”を発動するが、簡単に避けられてしまった。
「下郎がッ!!」
続いて、テミアも地喰をぶち込むが、後ろに下がっただけで避ける。大きな身体をしていて、素早い魔物だった。仮にケルベロスとして、この魔物も地下36階にいるような魔物ではないのは、ケルベロスから出る威圧感によってわかった。
(恐らく、地下70階よりも下の階にいる化け物だろうな……)
黒光りする蟲と同様に、簡単な敵ではないのはわかっていた。ゼクスを下がらせて、ルフェアに護衛するように頼む。このケルベロスは、輪廻、テミア、シエルが相手することに…………




