第八十一話 似た者
ルフェアが急に向こうのパーティである少女のことを魔猫族だと言った。始めは呆気に取られていたゼクス達だったが、ゼクスが先にハッと気付いて、魔猫族と言われた少女をルフェアから離れるように襟を引き込んでいた。
それに続いて、他の仲間達も魔猫族の少女を守るように前に出ていた。
「な、何故気付いた!? 『隠鎖』を二つも持たせているのに……」
隠鎖とは、”鑑定”などの類から防ぐ魔道具であり、魔猫族の少女は二つも付けていたのだ。普通なら”上位鑑定”を持っていても、見破れることはないのだが、相手が悪かった。
「ククッ、我の眼から誤魔化せぬ」
「待ってくれ! この子は魔猫族だが、悪いことなんてしてないんだ!!」
魔猫族の少女はルフェアの眼から逃れようと、ゼクスの影に隠れていた。他の仲間も警戒を解かないで、ルフェアの行動に注意していた。警戒していなかったといえ、さっきの動きは全く見えなかったのだ。
「そうだ、俺達は幼馴染でリダのことを良く知っているし、魔族に認定されただけで、排除するなんて許さない!」
「そうよ、貴女がどれだけ強かろうが、私達はリダを見捨てることはないわ」
ダイに続いて、他の仲間もリダを守る形に囲んでおり、リダが魔族だろうが、仲間だと認めているのだ。それを聞いているルフェアの反応は……
「……のう、あなた? 何故か我が悪者になっているようだが……」
ルフェアは困っているような表情になって輪廻な聞いていた。
「そりゃ、急に目の前へ現れて、正体をバラされたら、そうなるだろうな」
「それに、ククッと言う笑い声が拍車を掛けたと思います。私から見ても、悪者にしか見えませんでしたよ?」
「えっと、確かにそうだと思いますよ? 普通に話せば良かったのでは?」
「うーん、あなたのぅ、何とかしてくれんか?」
「はぁ……」
輪廻は面倒臭そうな表情を浮かべていたが、仕方が無いと言いつつ、ゼクスの前に出る。
「そんなに警戒しないで大丈夫だ。俺達はその少女が魔族だろうか、どうでもいいことなんだよ。ルフェアは珍しい物を見ると突っ込みたくなる性格をしているだけで、何かしようとかはないから安心しろ」
「……え、いいのか?」
「なんだ? 俺達と戦いたいのか?」
「い、いや! そういうことわけじゃ……」
「なら、武器を納めとけ」
ゼクスはしばらく考えている様子だったが、武器を納めてくれた。どうやら、こちらに敵意はないと読み取ってくれたようだ。他の仲間は武器を下げただけで、警戒をしたままだが。
「武器を向けてすまなかったな」
「構わん。先にこっちがやったことだからな」
「珍しい奴らだな。魔族がいるとわかって、襲いかかって来ないのは……」
「珍しいと言ったら、お前らもそうなるだろ? そういえば、幼馴染だと言っていたな?」
「ああ、七歳の時からの仲だな。パーティの全員が幼馴染だ。そうだよな、ダイ?」
「ああ、それよりも警戒を解いても大丈夫なのか?」
「大丈夫だろう。敵意もないし、襲ってくるなら、俺達は既にやられているだろう。それに、輪廻も前に会った時より、強くなっているように感じられるしな」
輪廻達が襲ってきたら確実にゼクス達は負けるだろう。ゼクスはそれを先一番に読み取れ、敵意ぐないなら戦わないのが一番いいと判断したのだ。当の輪廻達には敵意もなく、戦うつもりはなかった。ダンジョン攻略中のもあり戦う気分ではなかったのもあるが、自分の他に魔族を仲間に入れているパーティがあったことに珍しいと感じていた。
「魔猫族か、ルフェアはどんな種族か知っているのか?」
「うむ、書簡から知ったことだけな。尻尾が二本ある種族で山奥に住んでいるらしいな」
「ふーん、特別なことが出来るとかじゃないんだな?」
「では、何故、魔猫族は魔族に定義されているのでしょうか?」
シエルは気になったことを話してきた。ダークエルフであるシエルは邪神を崇めていたため、魔族だと判断されていた。だが、魔猫族はダークエルフのように邪神を崇めているとは聞かないし、吸血鬼のように特別な能力を持っているわけでもない。
「これは、当の本人ね聞いた方がはやいな。ゼクスもいいか?」
「ああ。変なことを聞かないと約束するなら」
「了解した。ええと、リダと言ったな?」
「あ、はい……」
ゼクスの後ろから出てくるリダ。リダは輪廻と変わらない身長で、フードを被っているから二本の尻尾が見えないが、わざわざ見せて貰うことでもない。
「さっきの話を聞いたよな? 知っているのであれば、教えてもらいたいが、いいか?」
「母からは、魔王側に魔猫族が大量に所属していると聞いたことがあります。おそらく、それが原因だと思います……」
「成る程、こういうパターンか」
こういう話は小説でもよく書かれていた。エルフも魔王側に仲間がいたんだが、アレは特殊なことだろう。
「まぁ、バレないように気をつけてな」
「あ、ありがとうございます」
「聞かせて貰っていいか? リダは隠鎖を二つも着けていたのに、何故バレた?」
「それは、特殊なスキルで見破ったとしか言えんな。ルフェアは普通ではないから、隠鎖を二つも着けているなら、そうそうとバレないだろう」
「そうか……」
ルフェアが持つ”真実の瞳”のようなスキルは誰でも持っているようなスキルではないので、対策をしようとしても、無駄に終わるだけだろう。
「聞きたいことは聞いたし、俺達は先に進むからな」
「あ、待ってくれ!」
輪廻は話すことがないので、ここから立ち去ろうと思ったが、ゼクスに止められた。そして、推測していないことが起こった。それは……
「しばらく俺達も一緒に着いて行っていいか!?」
「は?」
まさか、ここでパーティ同行の申請を申し込まれるとは思わなかったのだった。




