第八十話 いつぞやのパーティ
『竜の住処』と呼ばれるダンジョン、地下30階のボスと相対しているのは、輪廻達であった。
「相手になりませんね」
テミアが地下30階のボスであるキングリザードを掌底で吹き飛ばしていた所であり、その一撃がキングリザードの脇腹を凹ませた。キングリザードは硬い鱗を持っているが、役に立っていなかった。
「ギガアァァァ!」
「トドメっ!」
今度はシエルが、ルシェアから言われた通りに一点に集中させた”魔炎弾”をキングリザードの顔にぶち込んだ。当たった”魔炎弾”は爆発を起こし、頭を吹き飛ばした。
オーバーキルの威力だったようで、頭がないキングリザードはゆっくりと倒れて、光の粒になって魔石だけが残った。
「威力が高すぎだ。無駄な魔力を流す必要はない」
「はい……」
ボス戦で勝ったといえ、そこには喜びはなかった。ルフェアから魔力を無駄に使うなと怒られて、シエルはシュンっ、と落ち込んでいた。
ここの階層程度では、ボス戦でも勝っても当たり前なのだ。だから、上手く勝てるように指示を出していたのだ。結果は魔力の無駄遣いで、ルフェアに怒られるハメになっていた。
「テミアは、掌底で充分だと判断したのは良かったが、まだ力を上手く使えていないようだな」
テミアはただ力づくで殴っただけに過ぎない。全体の身体を上手く使った攻撃が出来れば、先程より威力が上がって、もしかしたらこの一撃で終わっていたかもしれないのだ。
「御主人様、お茶でもどうですか?」
「おいっ」
テミアはルフェアの言葉を聞いていなかった。ルフェアと戦いを観戦していた輪廻にお茶をコップに注いで渡していた。ルフェアは溜息を吐きたくなるが、いつものことなので、諦めていた。テミアは御主人様を優先しており、もし輪廻の喉が渇いていることに気付いたら、ルフェアの言葉を聞くよりお茶を準備する。それが、メイドの使命であり、テミアなのだ。
それに、テミアは全体の身体を使った攻撃とか、面倒なことをしなくても、元から筋力が高いのもあって力づくで殴ってしまうのだ。ルフェアはそれが悪いクセだと注意するが、三ヶ月も使ったが直せなかったから諦めている。言うだけならただなので、一応言っているが、無駄になっただけだったようだ。
「ん、サンキュー。でも、ルフェアの話を聞いた方がいいんじゃないか?」
「いえ、それはいつでも聞けますが、お茶を出せるのは御主人様喉が渇いている時だけですから」
「……ルフェア、すまんな」
「いや、いい。もう慣れたわい」
テミアの代わりに輪廻が謝っていた。だが、ルフェアは慣れたと言って、気にしていなかった。こういうみたいなことは前に何回もあったから、もう気にしないことにしている。
「やっぱり、地下30階のボスでは2人の相手にならなかったようだな。さっさと進むか?」
「ふむ、地下40階は2人のどちらかだけで挑んで貰うか」
「でしたら、年増エルフだけで充分でしょう」
「私1人だけで!?」
上手くやれば、地下30階のボスでもシエルは1人で倒せただろうが、地下40階のボスとなると、強くなるだけでも1人で戦うのは勘弁して欲しいのだ。
「少年〜」
泣きそうな顔で輪廻を呼ぶ。
「シエルでも余裕で勝てると思うんだから泣きそうな顔をするなよ。もし危ないと感じたら俺も戦うから安心しとけ」
「少年!!」
パァッと、顔を明るくするシエル。ルフェアはやれやれと首を降っていたが、何も言わない。
「では、先に進……いや、近くに誰かがいるな」
「ここは公開されている場所なんだから、冒険者がいてもおかしくはないさ」
ルフェアが教えてくれるが、輪廻も誰かが近付いていることに気付いている。ここはダンジョンであり、誰も来ないとは言えない階層なのだから、冒険者などに出会ってもおかしくはないだろう。
「まぁ、向こうも気付いて、こっちに向かっているから、挨拶ぐらいはした方がいいんだろうな」
向こうのことに気付いているのに、離れていくと、不審だと思われてしまうので、ここは堂々と挨拶するのが一番いいのだ。
扉の向こうから現れたのは、意外にも、輪廻が見たことがある人だったのだ。
「あれ、見たことがあるような顔だな……」
現れた者は、6人の冒険者。一番前にいた剣士の男を輪廻は見たような気がしていたのだ。
「子供とメイドに、エルフ……あ、あの時の!?」
「『白皇の森』で、黒い粉の中から現れた奴じゃねえか!?」
『白皇の森』と聞いて、輪廻は思い出した。吸血鬼を探しに来た時、『白皇の森』で出会って少し話した冒険者達だと。
「確か、リーダーはゼクスだったっけ?」
「あ、ああ。君はSランクの冒険者で、輪廻と言ったよな?」
「おう、三ヶ月ぶりだな。まさか、ここで会うとは思わなかったけどな。北の地で活動していなかったのか?」
「それはこっちのセリフだ。強い仲間が増えているなら、ここにいる理由が見当たらなそうだが?」
確かに、輪廻達は西の地で活動するには、手応えがなさすぎるだろう。
「どうせなら、ダンジョンをクリアしてやろうと思ってな。クリアしたら、王様からお金を貰えるし」
「資金稼ぎってとこか? 俺達は、君が言っていた通りに北の地で活動していたんだが、力不足だと痛感して、ここへ鍛えに来たわけだ」
「なるほどな。あの時、魔人とは……戦ってないみたいだな?」
見る限りだが、大怪我したような感じもなく、パーティメンバーで変わったと思えるような人物はいなかった。ゼクス以外は曖昧だったが、男女の数が同じで目立ったような変化はなかったから、そう判断したのだ。
「ああ、君から警告を貰ってから、一度仲間と相談したんだ。そして、止めにしたんだ」
「へぇ、子供の警告を聞くとは思わなかったな」
「子供ね……俺達は見た目で判断しないように決めているからな」
答えたのは、隣にいた魔術師の姿をした男。テミアの瘴気を危険だと判断した者である。ダイと呼ばれており、周りの危険を察知する役割を受け持っている。
「お前はSランクの冒険者で、周りにいる仲間も危険だと”危険察知”が教えてくれていたんだ。そんな奴が危険だと警告しているんだ。無視出来ないことだったんでな」
危険だと判断していた者から警告を受けたなら、考えて相談ぐらいはするだろう。その結果はSランクの魔人を狙うのは諦めたと言うわけだ。
「懸命な判断だったな。あの魔人は前の俺達でも勝てるか微妙だったからな」
「もしかして、君達は出会ったのか?」
「まぁな。スキルで作られた偽物だったが、おそらく本物の方だったら無事ではすまなかっただろうな」
ここは正直に答えておく。もし、本物が現れていたとしても、ルフェアが殺していたかもしれないが……
当のルフェアやテミア、シエルまでもこっちの話に加わらず、後ろで反省会の続きをしていた。
「俺達の仲間だが、反省会で忙しいみたいだから、すまないな」
「構わないよ。君がこのパーティのリーダーだろう? なら、それだけでも充分だよ」
ゼクスは気にしてないと答えてくれる。話をすることはないので、もう話を切り上げて先に進もうと思っていたが、いつの間に、ルフェアが向こうのパーティにいる少女の前に立っていた。ゼクス達もたった今気付いたようで、驚愕していた。
何故、ルフェアが向こうのパーティにいる少女の前に立つのか? それは次の言葉でハッキリすることになるのだった。
「ここで見るとは思わなかったな。お前の種族は魔猫族だろ?」
「えっ!?」
ルフェアは紅い眼でフードを被った少女の正体を見破っていた。その正体は、魔族に認定された獣人の猫族とは違う魔猫族だと……




