第七十九話 魔法とは
輪廻達は、”移扉”で王城から出て、ティミネス国の近くにあるダンジョンに向かっていた。用事とは、ここへ来ることあり、ダンジョンの入り口を見つめる。
ダンジョンの前には、戦った跡が残っており、英二達とロロイが事を起こした場所である。
「ここにいるのか……?」
輪廻は疑わしそうな声を出していた。ここに輪廻が求めているモノを持っている魔物がここにいる情報を掴み、ここへ来たのだ。
「ダンジョンの中では魔石しか落とさないじゃなかったのか?」
「私もそう聞いていたけど、違っていたのかな?」
輪廻が探しているモノはある魔物が持っていて、このダンジョンの地下100階でボスをやっている魔物がそうだと聞いている。
「地下100階と言えば、最下層だから、特別なモノが置いてあるとかじゃないか? ボスが持っているじゃなくて」
「かもしれませんね」
シエルとダンジョンのことを話して見て、魔物が落とすというより、宝箱とかに入っているじゃないか? と推測する。とりあえず、地下100階まで進まなければならないのは少し面倒だと輪廻は思う。
「このメンバーなら、余裕で地下100階まで行けるだろう。よし、降りて行くてがらに、特訓でもするか」
「うえっ!?」
シエルは嫌そうな声を出していた。今までの特訓を思い出したのか、ゲンナリとしていた。輪廻とテミアは暇潰しぐらいになるだろうと、平然としていた。三ヶ月も特訓をやらされては、慣れるものであり、輪廻にとっては苦痛ではなかった。自分が強くなるのも感じられるからだ。
「案じるな。今回は組手なしだ。そんなことをしている時間は取れそうはないからな」
「ホッ……」
シエルが一番キツイと思っている特訓は、ルフェアとの組手だ。この組手は完全に体力が無くなって倒れるか、ルフェアから一本を取るまでずっと延々とやるのだ。まだシエルだけは一本をなかなか取れなくて倒れるまで、やり続けさせられている。輪廻は特訓をし始めてから一ヶ月ぐらいで一本を取れるようになり、テミアも輪廻の後になってたまに一本を取れるようになって来たところだ。
何故、シエルだけが一本を取れないのかは、スキルに頼りすぎる所があり、さらに敏捷もまだ5000を越えていなくて、隙を見つけても追いつけないことで見逃してしまうことも良くある。
「今までは体術を中心とした特訓だったが、今回は魔法に関することだ。さて、魔法には三つの種類があることに気付いているか?」
「基本魔法、特異魔法、もう一つの呼び方はわかりませんが、神からの加護によって使える魔法もあります」
テミアが答える。確かに、三種類の魔法に分かれているのがわかる。
「そうだ。基本魔法は火、水、土、雷、風の五つになり、適正があれば、誰にも使える魔法だ」
ここまでは、誰でも知っていることであり、常識でもある。
「次に、特異魔法のことだ。輪廻が持っている特異魔法は『重力魔法』で、今まで発見されたことはない魔法だ。特異魔法の特徴は、誰にも手に入れることは出来ず、一つの才能と呼ばれる程に、持っている者は凄く少ない」
特異魔法は先天の魔法で、後から手に入れるのは不可能だ。つまり、輪廻は誰も持ってない才能を持っているとも言えるだろう。
「特異魔法は、強力な魔法だが、デメリットはある。それはわかるな? シエル、答えてみろ!」
「はひっ、ええと、基本魔法が使えなくなるでしたよね?」
「そうだな。それだけではなく、神の加護を持っていたとしても、魔法の恩恵を受けることが出来ない可能性がある。それは検証されたわけでもないから、確実ではないがな」
実際にも、検証は難しいのだ。何せ、特異魔法を使える者が少ないのに、魔法を与えられる神の加護も付くとなると、その確率がぐーんと減るだろう。輪廻の場合は、特異魔法に邪神の加護もあるが、邪神の加護は魔法を与えられる類の加護ではないので、未だにも、わかない状態である。
「最後に、神の加護から付く魔法だが、それも特異魔法と同様に全てを知っているわけでもない。基本魔法や特異魔法のように名前があるか我も知らないのだ。神の加護は様々な神がいて、まだ与えたことがない神がいてもおかしくはない。……で、神の加護から手に入る魔法は神のクラスから弱いものや強いものがある」
神の加護によって、与えられる魔法の強さが違うのは確実だと考えている。証拠はあり、ルフェアの使う魔法、『氷獄魔法』にある。この魔法は、氷を操る魔法であり、同じ効果を持っている人物が近くにいることを知っているだろうか?
そう、晴海だ。晴海も『氷魔法』を持っており、ルフェアと同じ効果を持つが……、威力が違っている。
ステータスの差もあるが、与えた神のクラスが違っており、晴海に与えた神よりもルフェアに与えた神の方が強いのだ。
『氷獄魔法』や『 氷魔法』だけではなく、『光魔法』、『闇魔法』、『回復魔法』も神からの加護によるものでもある。最も強い神に気に入られたら、強い魔法を使える。
だが、もしも神から見放され、加護が消えたら魔法も使えなくなる可能性があるのだ。
「このぐらいが、我の知っている範囲だな。何か質問はあるか?」
テミアがハイと、手を挙げたのだった。
「例えば、『氷魔法』が吸血鬼幼女の持つ『氷獄魔法』に変わる……いえ、進化する可能性は?」
「吸血鬼幼女ってあだ名は変えられないのか……?」
「はい、このあだ名よりもいいのが見つかりませんので。愛称として呼んでいるので、いいでしよう?」
「……はぁ、もういいわぃ。で、進化するか? だったな。その可能性は考えてなかったな。我は初めから『氷獄魔法』だったからな」
「なら、可能性がないとは言い切れないということか」
前例がないだけで、すぐに判断は出来ない。ないと言い切れないなら、進化する可能性も考えた方がいいだろうと輪廻は考える。
「…………他に質問はないな? 次に進めるぞ。今回、やってもらうことは、魔法の集中と拡散を知ってもらう」
「集中と拡散ですか?」
「ああ、輪廻だけはもうとっくにやっているけどな」
輪廻はもう出来ているとルフェアは言う。
「集中は広域魔法を一点に集め、威力を高める。拡散は単体魔法を広域魔法に変えるわけだ。拡散したら、威力が下がってしまうが、なかなか当たらない相手には効果的だろうな」
「星屑では拡散は出来るけど、普通に魔法を使うなら難しいですね……」
「ああ、凄まじい集中が必要になるからな。初めから決められていた流れを変えるようなモノでもあるのう」
ようは、明確なイメージが必要になり、どうやって単体を複数の攻撃にするか理解が出来なければならない。輪廻は異世界からの来訪者だからなのか、理解は出来ていた。おそらく、漫画や小説などでイメージの助けになっていた可能性もあるが……
「よし、始めるか!」
ようやくティミネス国にあるダンジョン、『竜の住処』に入ることになる。そして、輪廻達がダンジョンに入ろうとする頃、王城では……
ーーーーーーーーーーーーーーー
ロレック国王と英二、啓二達は地下室で魔人と向き合っていた。魔人とは、輪廻が気絶させて捕まえた魔鳥族の魔人である。
魔人は封印の鎖により、魔法も使えなくなり、ステータスが十分の一に下がっており、力を出せない状態になっているのだ。なのに……
「何をニヤニヤしている?」
魔人は何も言わずにニヤニヤするだけ。何も出来ないはずなのに、笑っていることに不気味だと思えた。
「何か言ったらどうだ!? 何故、ここを攻めた? 東の地からでは、ここより近い国があったはずだ。なのに、何故、攻めたのが、ここだった?」
「……ククッ、わからねぇのか? ここの王は馬鹿なんだな?」
「貴様!?」
兵士が剣を抜こうとするが、ロレック国王がそれを止める。
「挑発だ。自分で死ねないから相手に殺させようとしているだけだ」
「っ、すいません!」
「良い。英二と啓二はどう考える?」
「そうですね、原因は僕達にあるかもしれません」
「勇者を召喚したのは、ここだけみたいだからな」
そう、召喚したのは、ティミネス国だけであり、他の国ではやっていない。
「やはり、そうなるだろうな。召喚者の実力を調べるために、捨て駒と言ったとこだな」
ロレック国王はこの魔人は捨て駒だろうと判断した。だから、魔人は一人しかいなかったのだろう。
「何も話さないなら、勇者の経験となってもらおう」
ロレック国王は冷酷に、英二へトドメを指すように言う。
「え?」
「どうした?」
「い、いえ……」
英二はまだ人型である魔人を殺すことに躊躇があるのだ。だが、いつかやらなければならないことだと頭では知っていても心が拒否を示していた。
「……? もしかして、怖いのか?」
「っ!?」
あっさりとロレック国王に見破られて、狼狽する英二。だが、ロレック国王は英二を責めることはなく、
「そうか、無理に言わない。啓二が代わりにやるか?」
「そうだな。英二にはまだ時間が必要だろうな。レベルが上がるなら俺がやろう」
啓二は英二と違って、あっさりと魔人の首を落とした。
「英二、殺すのが怖いなら、後は俺達に任せてお前は王城で待っていてもいいんだぞ?」
「…………」
英二は何も言えなかった。
「気を落とすことはない。誰だっても殺すのは、覚悟が必要なんだ。もし、無理なら王城でゆっくりしても構わない。ここにいる皆も同じだぞ」
ここにいた召喚者の皆にも伝えておく。
「おそらく、これからは魔人達の攻撃が増えてくると思う。怖い、無理だと思ったなら、先に言ってくれ。前線には出さないと約束しよう」
ロレック国王はそう言って、地下室から出て行く。ロレック国王の言葉にクラスメイトの皆は考え込むことになる。




