第七十六話 終結
黒い穴から輪廻達が現れたのは、シエルの闇魔法にある。
「便利だね。あれは」
「はい。私も闇魔法で転移系を使えるようになるとは思わなかったわ」
転移系の魔法、スキルは様々な効果を持つ種類があり、シエルの闇魔法で”移扉”を使えるようになっている。空間を渡る効果で、仲間ごと行ったことがある場所へ空間を繋ぐことが出来る。便利だが、発動に時間がかかるので戦いには向かない。ちなみに、ルフェアも転移系のスキルを持っており、現世界→別世界→現世界と言ったやり方で、シエルと同様に行ったことがある場所へ行ける。もちろん、戦いには使えない。
どちらも魔力を大量に使うため、一日に多様出来ない。
ここへ来た輪廻達はある目的があって、一度ティミネス国へ来たが、たまたま戦争中で”魔隕石”が発動されていたのだ。国を壊されては困るので、シエルに”魔隕石”で相殺して貰ったのだ。ちなみに”魔隕石”の破片で魔物を300体も倒せたのは偶然である。
「り、輪廻君なのか?」
「…………誰?」
「おいっ!? この前、少しだけ話したじゃないか?」
「…………………………………………………いたっけ?」
「チクショオォォォォォォォ!!」
完全に忘れ去られて、クラスメイトの1人が膝を地に付けて落ち込む。
「それよりも、こいつらは俺達がやるから兵士達を下がらせろ。邪魔だ」
指揮者がナザド副隊長だとすぐに判断して、兵士達を下がらせるように命令を出す。兵士達は輪廻のことを知っていたし、Sランクになったことも周知なので、言う通りに下がった。
「さぁて、魔人は1人だけか……。まず、魔物を片付けるぞ」
「御意に」
「これくらいなら、すぐだね」
「我も手伝うか?」
「そうだな、舐められない程度に少しだけ力を見せた方がいいかな」
「任せとけ」
3人の師匠であるルフェアも攻撃に加わるように頼む。ちょうど、王城のバルコニーからロレック国王が見ているようだから、力を示してやった方がいいと判断した。そうすれば、英二達みたいに探しに来る者はいなくなり、もし『邪神の加護』を持っていることがばれてもこちらに反抗しようと思わないだろう。
(まぁ、ばれないように気をつけるが)
生き残った魔物を見る。始めの半分程度に減っており、”魔隕石”が魔物側に落ちたからなのか、勢いが減っていた。
「”虚冥”」
先手必勝と言うように、”虚冥”を一度の発動で三個も発現した。
三ヶ月前は、制御が難しくて一個ずつがやっとだったが、今はルフェアの特訓のお陰で一度に三発まで出せるようになったのだ。
パシュッと、”虚冥”が魔物に向けて撃ち出されて、魔物を蹴散らしながらクレーターを作り出す。そして…………
「”熱岩斬”!」
「”黒晴雨”!」
「”凍結嵐”!」
続けて、3人も広域に攻撃する技を発現する。テミアは空間指輪で、この前に見付けた衝撃を与えると、燃える岩を大量に取り出して、地喰に吸収させる。そして、斬ると炎が纏わる剣が完成する。
それを10メートルぐらいの大きさにし、魔物に一線に振ることで、燃える岩同士が衝撃を与え合って、飛ぶ炎の斬撃が出来る。熱量は与えた衝撃の強さで変わって、今のは結構強めに振ったから魔物が消し炭になる程の威力がある。森ごと魔物を燃やし尽くしていた。
続いて、”黒晴雨”は上空に撃ち込まれた一本の矢で、晴れたような黒い光を生み出す矢となる。黒く光った空で、晴れから転じて、雨になる。
その雨は、ただの雨ではなく、大量の黒い矢となる。
黒い矢に刺された魔物は、闇に浸蝕されて闇に溶けていく。
最後に、ルフェアが放たれた”凍結嵐”は、先程のテミアとシエルが攻撃した魔物ごと、飲み込んで、魔物も森も川も、全てが凍っていく。この攻撃らから、生き残ったのは目標にされていなかった魔人だけ…………
「な、何ぃ……、こんな出鱈目が……」
目の前で起こった惨状に、信じられない目で見るの魔人。魔人は魔物がやられたことに、ここからすぐに離れないと危険だと思い、翼を大きく広げて逃げようとするが、
「おい、こら。逃げるな」
「なっ!?」
既に輪廻が空を走って、魔人の側にいた。輪廻は魔人をすぐに殺さずに捕まえることに決めている。何故、ここを攻めたのか聞くために。だから、武器を持たずに魔人の前に出ていた。
「ば、馬鹿が! 無手で何が出来る! 死ねぇぇぇ!!」
魔人はチャンスだと思ったのか、輪廻に鋭い爪で突き刺そうとする。魔人の正体は、魔鳥族であり、闇に飲まれたハーピィ族に似た姿をしている。
「馬鹿はどっちだよ?」
輪廻はルフェアが使っていた手首だけの受け流しで、爪を受け流す。
「な!?」
「少しは眠れ」
輪廻は”空歩”で一瞬に魔人の後ろに回って掌底を背中に打ち込む。魔人はガハッと、息が止まるが、それで終わらない。
「”気掌圧”!」
今度は両手の掌底で、ボゥッと光らせてまた背中に打ち込む。
「がぁ、ガァァ……」
”気掌圧”を喰らった魔人は、翼が動かせなくなり、意識がだんだんと落ちていった。
”気掌圧”とは、名前の通りに気を使った掌底であり、身体の制御を狂わせて意識を刈り取る。気の使い方もルフェアに教えてもらい、使えるようになったのは輪廻だけである。テミアとシエルには気と魔力の違いがわからないと言うことで、使えないとルフェアに判断されたのだ。わからないなら時間の無駄になると言って、別のことを特訓させたのだ。
輪廻は戦いが終わったばかりだが、ちょっと前のことを思い出していた。ルフェアの特訓のことだ。
ルフェアの特訓方法は、輪廻の兄である夜行と似ていた。強くなるには実戦が良いと言われて強い魔物とざんざんと相手をさせられた。
そして、一日の特訓が終わった後に、必ずルフェアは…………
「大丈夫のぅ? 何処か痛む所はないか? あなたが苦しいと我も苦しいの……。何かあったら、必ず我に言うんだぞ?」
必ず、疲れて倒れている輪廻を心配してくる。特訓のメニューを考えた本人が何を言っているんだ? と青筋を浮かべた頃もあった。それに、なんか心配の仕方が母親っぽ……いや、言わない方がいいなと感じ取って口に出さなかった。
だが、シエルが輪廻も思ったことを口に出してしまい、殴られて水面を水切りしていたのが懐かしい。
本人が言うには…………
「母親だと? 我がそんなに老けて見えるかのう?」
とか。歳に敏感で、ロリとか年増と言われるとキレる。だが、例外はあって、テミアがあだ名で幼女吸血鬼で呼ぶことで、普通ならキレる場面だが、愛称として呼んでいるといえば、「そ、そうか」と納得して怒りが引っ込む。
ちなみに、テミアは愛称で言っているつもりは全くない。
…………とにかく、シエルが水切りをする所を見ては、歳に触れないようにしようと輪廻は心の中で決めていた。
(……まぁ、キツイ特訓だったが、強くなれたからいいか)
倒れている魔鳥族の魔人は、Aランク相当の実力を持っており、そんなに弱くはない。
ただ、輪廻が強すぎただけなのだ。
輪廻は空を走って門の所に戻ったのだった。やけにうるさいな? と思っていたら、兵士達とクラスメイトが騒いでいたのだから、仕方がないだろう。
「うおぉぉぉぉぉ!? スゲェ!!」「凄いわ!!」「美女だ……おふっおふっ」「強いな……、助かった」
等と、お礼や称賛を送られていた。戦争中、ここに来たのは偶然だったから、結果としては街を守ったのだから、当然のことだろう。変な言葉が混じっていたが…………
称賛を言われていた輪廻は門の外側から誰かが来ることに気付いていた。だが、知っている魔力だったので敵ではないと判断していた。そして、門は開かれた…………
「何が起こったんだ!? あちこちが穴、氷漬けになって………………………………え、輪廻君?」
「よっ」
現れたのは、英二を筆頭に、ダンジョン前へ向かっていた者だった。




