閑話 第二の試練
これからの話は、一ヶ月半前にあったことであり、エルフの国のアルト・エルグを出た後の話になる。
ルフェアから特訓を受ける一ヶ月半前、輪廻達はある洞窟の中にいた。
ここの洞窟は、自然に出来たモノではなく、人の手が加えられている。
「ここに『邪神の加護』を強化させるモノが? ジメジメとしているねー」
輪廻達は二つ目の試練を受けるために、ここまで来ている。いや、ここにあるかはまだわからない。あの監視をする悪魔、ガーゴイルがまだ見つかっていないからだ。
「文献によれば、ここは土の大精霊が奉っていた記録があるから可能性は高い。大精霊も魔物、魔人類に分類されているからな」
「人間は馬鹿ばかりですね。あ、御主人様は別ですよ? 大精霊といえば、幻獣と同等の力を持っていて、昔は神の一部と呼ばれていたはずなんですがね」
「そうだねー。精霊は人間を害していた処か、手助けをしていたのに、その力が怖いからって敵対するなんてねぇ」
「ふむ、精霊の力が怖いなら、敵対するなんて、矛盾してないか?」
普通なら、怖がって手を出そうとは思わないはずだが、現在は敵対している。大精霊は世界中に散らばっているのだから、簡単に殲滅なんて出来ないはずだ。
人間側はそれをわかっていないのか、疑問が出る。それを答えられる者はいるはずもなく、お流れになるのだった。
「まぁ、いいや。今は『邪神の加護』のことだ。ガーゴイルを見付けるぞ」
「「了解」」
ここの洞窟はアルト・エルグから三日の距離があり、中はジメジメとしている。おそらく、水分が他の洞窟より多くて、温度が高いからだろう。温度が高い理由は、外は噴煙でいっぱいで、下はマグマがドロドロと溶けているのは予測できる。つまり、ここら辺は火山帯なのだ。
「火山帯で、水源も近くにあるから空気がジメジメとしているんだろうな」
「この洞窟は先が長いですね」
「しかも、先に進むごとに暑くなっていない……?」
「確かに……」
ここ洞窟は、下へ向かっており、だんだん暑くなっている。もし、これ以上に温度が上がるなら引き返すことも考えなければならない。そう考え、少しだけ進んで行くと、終わりが見えた。
「うわぁっ、マグマだよぉ……」
「これがマグマですか。初めて見ました」
「俺も直に見るのは初めてだな」
道の終わりは、この先がマグマで、進める道がないからだ。
「ここにはガーゴイルはいないのか…………ん?」
「あ、あそこにガーゴイルがいます!」
「マグマの近くにいますね」
崖の下になる場所、ポコポコと、マグマが熱を発している近くにガーゴイルの石像があることに気付いた。ガーゴイルの石像は陸の上にあるが、そこまで行く道がない。試しに、ここから声を上げて、呼び掛けたけど、反応がない。
「近くまで行かないとダメなのか……」
「”空歩”で行けない?」
「行けるかもしれないが、もしマグマの中に魔物がいたら面倒じゃないか?」
「マグマの中に魔物? いやいや、そんなのいるはずが……」
ギャォォォォォ!!
「「「………………」」」
3人が顔を見合わせて、崖の下を除いてみると、燃えたワニが何体かが泳いでいた。
「なんで!? 燃えていて生きていられるのよ!?」
「……そういう魔物だろう。とにかく、足場が悪くてあんな魔物がいるなら止めとこう。別の方法で行くしかないな」
「御主人様、こういう時は隠し道とかが濃厚です。周りの道を調べてみましょうか?」
「そうだな。瘴気で調べてくれるか?」
「お任せを」
こういう時は、瘴気が役に立つ。テミアが手から瘴気を放出して、周りに散らばらせる。この時はまだ半径15メートルしか出来ないが、洞窟の中だからそんなに広くはなかったのもあって、すぐに見付かった。
「見付けました」
「早いな。で、あそこにあるんだな?」
テミアが指をさす先には、何もないただの壁だけがあった。だが、輪廻が向かって手を掛けるだけで、壁が崩れて、下へ向かう階段が現れたのだった。
(脆いな……、『邪神の加護』を持った者ではなかったら崩れなかったかもな)
『邪神の加護』が壁を崩したという確信はないが、先に進めるようになったので、階段を降りていく。
「よし、マグマを通らずにここまで来れたのは良かったな。では…………」
「良く、ここまで来たな。ワイはずっと待っていたぜ」
「試練を受ければ、強くなれるんだろ? なら、行くに決まっているだろう」
「クケケッ、それは生きていたらだろう? 無駄な話は終わりにして、試練を始めようじゃないか」
ガーゴイルは指を鳴らすと、マグマの中にいたワニがこっちに向かって来る。
「今回の試練は、3人全員で参加していい。あれらのワニを全滅させ、その中にいる一番強いワニ、グレイトギャオスを倒して額にある紅い宝石を奪い取れ。それが勝利の条件となる」
ガーゴイルが説明している間も、ワニは止まらずに輪廻達へ殺到してくるので、もう戦い始めていた。
「初めの試練は一対一だったが、今回は向こうの敵が多いってわけか」
「そして、こっちも仲間の参加を認められている」
「でも、向こうの方が多いわね……」
こっちに向かって来るワニ。マグマの中から、どんどんと現れてくるから、その数ははっきりとしない。その中で、ガーゴイルが言っていたグレイトギャオスと言う強いワニがいるらしい。だが、特徴になる紅い宝石が額にあるワニは見当たらない。
(雑魚を全て倒さないと現れないパターンか?)
と考えていたら、テミアからの声を上げていた。
「御主人様!!」
「っ!?」
ここにいるのは危険だと本能が言って、後ろに下がったらドォッ! と何かが上から落ちてきた。
(今まで気付かなかった!? ……あ、あの紅い宝石は……)
「アイツがボスだっ!」
額に紅い宝石があることに気付いた。すぐに狩ろうとしたが、フッと姿を消していた。
「何だと、何も感じ取れない?」
「クケケッ、グレイトギャオスは”魔力遮断”と”保護色”を持っているからな」
「ご丁寧に教えてくれるんだな?」
周りを警戒しながら紅姫で雑魚を切り付ける。雑魚の実力はそれ程ではなく、簡単に倒せた。
「なぁに、すぐにやられたらツマラネェからな」
「…………」
ガーゴイルは邪神の力を預かっていると聞かされているが、その目的がハッキリとわからない。何のために、『邪神の加護』を持つ者に試練を与えて、合格したら力を与えたりしているのか。
(今、考えても仕方がないな。それより、ワニの居場所が読み取れんし、どうするかな…………あ、どうしてテミアはわかったんだ?)
輪廻よりテミアが先に気付いて、声を上げたのだから、察知する方法をテミアが持っていることになる。
「テミア! さっきはどうやって察知した?」
「瘴気に触れた感触がありましたから!」
雑魚のワニと戦いながら答えるテミア。
(瘴気で…………そういえば、前に瘴気はテミアの一部だと言っていたっけ)
瘴気はテミアの一部であり、敵が触れたらすぐにわかると言っている。つまり、グレイトギャオスは姿を透過しているわけでもなく、ただ姿が見えないようにしているだけなのだ。
なら、後は簡単だ。
「テミア、何処にいるかわかるか!?」
「…………いました! あのワニの後ろに隠れています!!」
「よし、”居絶”!!」
テミアが教えた場所に向かって、紅姫で魔力の刃を伸ばして一刀両断した。
ギャォォォォォ!!?
グレイトギャオスはあっさりと身体を半分にして絶命した。そして、周りにいたワニがドロドロと溶けて、ただのマグマになっていた。
「成る程。雑魚はあのワニが作り出していたわけか。……しかし、あっさりと終わったな?」
あっさりと試練をクリアして、これでいいのか? と疑問が浮かんだが、ガーゴイルは呆れたような表情をしていた。石像なのに、そこまで出来るんだと思っていたら、ガーゴイルが話をし始めた。
「普通なら、魔力を感じなくて姿も見えない、それだけで、苦戦するんだが……」
「ふむ、テミアの能力が予想外だったわけか」
「ああ、あんな察知方法はあまりないと思うぞ? まぁいいか、クリアしたんだから、力を与えるぞ。ホレッ」
指を鳴らしただけで、何も起こらない。ステータスを見ないとわからないのは一回目でわかっているが、何かエフェクト等があればいいな……と思った輪廻だった。
「お、今回は桁外れだな。仲間も+1000されるとはな」
「クケケッ、また会おうな」
あっさりと話を終わらせて、ガーゴイルはただの石像になっていた。輪廻は聞きたいことを聞き出せなかったのは残念だったが、強化されたので良しとする。
「あっさりと終わったな。次は何処に行こうか?」
「ドワーフの国はどうでしょうか? この剣では心許ないので……」
テミアの手には、既にボロボロへ成り果てた剣がある。大包丁剣が壊れて、代わりのを買ったが、大包丁剣程の剣はなかった。だから、仕方がなく…………普通の剣を買ったが、マグマのワニを斬っていたから、ボロボロになってしまっているわけだ。
「そうだな。いい武器を探さないと駄目だな。だから、ドワーフの国ってわけだな」
「ドワーフは鍛冶が得意だからね」
ドワーフは手先が器用で、鍛冶が得意な種族である。
こうして、次の目的はドワーフの国、マルダ・グリムに決まった。
そして、マルダ・グリムで地喰と夢幻に出会ったのだった…………




