閑話 勇者達とクラスメイト
森の中を歩く英二、絢、貴一、晴海、ゲイルの勇者パーティ。輪廻と別れてから、二週間経っている。
輪廻達はルフェアに出会って、特訓を受けている中、勇者パーティはティミネス国へ戻っていた。
輪廻やテミアの報告のためだ。
「戻ったか、大体三ヶ月ぶりかな?」
「そうだな。皆は元気にしてんかな? 誰も欠けていなければいいんだがな」
「貴一、そんなことは言わないで」
貴一の迂闊な言葉を窘める絢。晴海もウンウンと頷いている。
「わかってんよ。冗談だ」
「冗談でも、言わないで欲しいんだがな」
「へいへい」
「それはそれとして、確かに久しぶりだね。どのくらい強くなっているんだろうね?」
「おそらくだが、ダンジョンにずっと入っている者はお前達よりレベルは高いだろうな」
「ゲッ、そうなのか?」
レベルに差が出ているかもしれないと聞いて、貴一は情けない声を出していた。
「あぁ、ここにあるダンジョンは、魔物が良く出るダンジョンだから、沢山戦っている可能性が高いからな」
「成る程……」
「だが、技術ならお前達も負けてはいないはずだ。ダンジョンと外で現れる魔物の種類が違うし、外の方が様々な種類の魔物が現れるからレベルとは違う経験が積める」
「それで、外に出る者とダンジョンに入る者に分けようとしたのね」
外とダンジョン、お互いに利点と欠点があって、ダンジョンはレベルを上げやすいが、魔物は似た寄ったりの種類しか出て来ないから様々な攻撃を見れない。外は様々な魔物に出会えて、技術を上げやすいが、ダンジョン程に会えるわけでもないから、レベル上げには不向きである。
「お、ようやく門か」
ティミネス国の中への門が見えるようになった。そして、勇者パーティは王城へ無事に帰れたのだった…………
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ここは、書斎の部屋であり、ゲイルと報告を受ける二人が会談をしていた。
「何だと!? それらの話は本当のことなのか!?」
「少年がSランク……?」
驚愕するのは、ティミネス国の王であるロレックと、王女のエリー。
やはり、一番驚愕するとこは、そこのようだ。輪廻とテミアがSランクに上がったことやメルアとのやり取りも全て話したのだ。Sランクは、Aランクの魔人を倒さなければなることは無理だと言うのに、この世界に来てからまだ半年も経っていない輪廻がSランクになったのだ。
これに驚かないのは無理な話である。
「テミアと言うメイドもSランク? 信じられん……」
「それで、少年は?」
「そうだ! 連れて帰ったか!?」
「いえ……。このまま、旅を続けるそうです。それに、テミアもここのメイドを辞めて輪廻に着いていくそうです」
「何だと……、何とか連れて帰れなかったのか?」
ロレックは諦めきれなかった。そんな才能が高い輪廻を、前線に出さなくても城の守りに置きたかったのだ。
「ハッキリ言って、無理です。無理矢理連れて帰ろうとしたら、こっちが殺される所でしたからね」
「む……、殺されるとか、物騒な話だな。何があった?」
「実は……」
英二が無理矢理、連れて帰ろうとした時に、テミアが首を掴んで止め、殺気を出していたと話す。
「テミアのことは知っていますが、そんな女性ではないと思いましたが……」
「私もそこに、違和感を感じました。テミアのはずなのに、テミアではない何者のような気がします」
「危険なのか?」
もし、危険なら、放って置くことは出来ない。そのつもりで、ロレックは聞く。
「周りの人にしたら、危険かもしれませんが、輪廻と一緒なら大丈夫でしょう」
「え、何故なんですか?」
エリーは、何故、輪廻と一緒なら大丈夫なのか気になったようだ。
「簡単な理由です。テミアは輪廻のことが好きで、絶対服従に見えました。実際に輪廻とテミアは主従関係だけではなく、恋人のような関係みたいです」
「えっ、そうなの!?」
「そのような関係になっていたのか……」
「はい。もし、テミアを排除しようと行動すると輪廻も敵になる可能性が高いので手を出さないのが一番良いかと思われます」
「ふむ……、そうした方が賢明だな」
輪廻を敵に回すのは本意ではないと考えている。もし、輪廻を排除したことが勇者達やクラスメイトにばれたらこっちを許さないだろうし、ここから離れることになってしまっては、ティミネス国が不利益を受けることになるのだ。
「……わかった。今は2人には何もしないことにしよう」
「それがよろしいかと」
「へぇー、今度、輪廻とテミアに会ったら色々聞かないとね〜」
エリーは恋話に興味を持つ年頃で、2人の関係が気になっていた。出会うことがあったら、是非、聞かなければ! と意気込んでいた。ロレックは娘の様子を見て、溜息を吐いたが放っておくことにしたのだ…………
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3人が会談をしている中、勇者パーティである貴一は図書室で他のクラスメイトと話をしていた。残りの3人は自分の部屋に戻っており、ここにはいない。殆どの内容は、旅と輪廻のことだった。
「そうか〜、輪廻に出会うことは出来たが、戻らずにそのまま、旅へ出たわけか」
「輪廻君は、旅が好きなのかな?」
「そうじゃねぇかな? ガリオン国では温泉を貸し切りして、楽しんでいたからな」
「えっ! 温泉があるんだ!? しかも、貸し切りにするなんて、どれだけ稼いでいるのよ?」
貴一は笑いながら皆に話をし続けていた。
「確かに、輪廻はSランクになっているぐらいだから、稼いでいるかもしれないが、普通は温泉を貸し切りなんて出来ないんだ。どれだけお金を積んでもな」
「えっ、輪廻君はどうやって?」
「ギルド長をぶちのめして、ギルド長の権限を使わせたみたいだよ。ガリオン国は実力主義だからな」
「うわぁ、ワイルドだな……。ギルド長と言ったら、強くなければなれないんだったっけ?」
「ああ、他の国では現ギルド長からの推薦などが必要だが、ガリオン国の場合は実力で勝ち取った者がギルド長になれるんだ。つまり、輪廻の奴はガリオン国でも上位に入る強い奴を倒したと言ってもいいだろう」
「スゲーな」
ワイワイと話が盛り上がった時に、絢と晴海が図書室に現れた。
「よっ、お疲れだったな?」
「ええ、少し休んだから大分、疲れは取れているわ」
「こんなに集まって、何の話をしていたの?」
「ん、なぁに、輪廻が絢と晴海が一緒に温泉へ入ったことをな…………」
貴一の言葉で、殆どの人はカチリと固まった。そして…………
「うおぉぉぉぉぉぉぉい!? 嘘だろ!?」
「キャアァァァァァ! 本当に!? 何か進展が!?」
「嘘だと言ってくれぇぇぇ!!」
「イヤァァァァァ!? な、なんで言うのよ…………はっ!?」
急いで口を抑える絢だったが、もう遅かった。絢の言葉から、本当だったの証拠が出ていたため、うなだれる男性とキャーキャーと騒ぐ女性が図書室で起こるのだった。
その中、晴海だけは興味なさそうに本を読んでいたのが目立っていた…………
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暗い部屋の中、月の光だけで部屋の中を照らしており、充分明るいとは言えなかった。
その部屋で、英二はベッドに寝転がって気難しい顔をしていた。
何か悩んでいるような雰囲気で天井をジッと見ていた。
「輪廻君はそこまで行けたんだ。なら、俺には出来ないことはないはずだ…………」
その言葉だけを聞くと、英二は輪廻を羨んでいるようだが、瞳には黒い塊は無かった。ただ、燃えるような心を持っていた。
シエルとの戦いで、英二は理解していたのだ。
自分はまだ弱い。身体も、心も、それでは皆を守れる勇者になれないと。
英二は勇者とは何なのか、ティミネス国に帰る間にずっと考えていた。召喚されたばかりの頃は勇者が強くて当たり前だと信じていた。だが、実際は違うと理解した。いや、理解させられたが正しいだろう。英二が羨む相手、輪廻によって…………
「……ふぅ、僕はただ認めたくは無かったみたいだな。だが…………」
たった今、輪廻のことを対等かそれ以上だと認め、勇者としてではなく、英二として強くなりたいと決めたのだった。
その決心が英二を強くするキッカケとなっていく…………




