第七十二話 邪魔者
一部屋を借りて、大きなベッドで三人が寝転がっていた。
「このベッドは大きいな」
「はぁはぁ、すごぃ……」
「はぁはぁ……、勝てない……」
話が噛み合わない。先程まではヤッていたのだから、2人の息が荒くなっているのも仕方がないだろう。
と、下の方からゴソゴソと音がするな? と思い、目を向けると…………
「お、お前っ!? 何をしているんだ!?」
「何をって、見てもわからないのか?」
ルフェアがいた。何故、ここにいるんだ? と聞くと、
「何、楽しそうなことを人の屋敷でやっているのう? 我も交ぜろっ!!」
「待てよ!? 俺は愛のない奴とはする気はないっ!!」
輪廻はお互いが好き合っていないなら、したいとは思わない。もし、輪廻がルフェアに興味を持っていたとしても、ルフェアが楽しそうだからとヤルというのはお断りしたいと思っている。
「む、我はお前のことが気になっている。恋とは違うかもしれんが、感情なんぞ天気のように変わりやすい。もしかしたら、気になると言う感情が好きの感情になるかもしれん。問うが、愛とは何ぞ?」
「む……」
輪廻は答えられなかった。愛とは、何か? と聞かれたらお互いが好きになることが愛としか答えられない。それでは、ルフェアを納得なんて無理だろう。
どうすれば、納得させることが出来るだろうかと考えていたら、全裸のテミアが話し掛けてきた。
「気になると言っているのですから、良いのでは? 御主人様は吸血鬼幼女のことを嫌ってはいないでしょう?」
「おい、ちょっと待て。吸血鬼幼女とは何だ? まだ嬲られ足りないなら……「ただの愛称ですよ?」…………それなら仕方がないな」
「それでいいのっ!?」
間違いなく悪口で言っていたはずが、愛称と納得してしまったよ!? とツッコミを入れていたシエルだった。
幼女と言われるのは好きではないルフェアだが、悪口ではなく、親しい者に使われる愛称として呼ばれるなら、悪い気はしないようだ。
「……まぁ、嫌ってはいないな」
「それで、吸血鬼幼女に惚れさせることが出来れば…………」
「俺の安全に繋がると?」
「はい、さすが御主人様です」
称賛してくるテミア。だが、輪廻はテミアの目的がそれだけではないと見抜いていた。
「…………で、本音は?」
「夜の帝王として、吸血鬼幼女を一晩で堕落して欲しいと思います!!」
「きっぱりと言うのね……」
堕落させて、輪廻が上だとルフェアに認めさせたいと考えているようだ。先程の安全もそうだが、師弟の関係だけでは心配のもあるが、戦いの件で輪廻が負けたことに悔しかったそうだ。
だから、夜の帝王である時間ならば、ルフェアに負けないと言いたいようだ。
ハァッと溜息を付きたくなる輪廻だったが、安全のことも確実ではない。さらに、お互いが嫌ってないのもあり、強く否定は出来なかった。
「ほぅ、私を堕落させると言うとは面白いな? 我はまだ経験はないが、一晩で堕落させるのは無駄な努力だと教えてやる。それどころか、我の虜にしてやろうじゃないか!」
「やって見せなさい」
テミアが自信満々に答える。その時にテミアの胸がぷるんっと揺れて、シエルが羨ましそうに見ていたことには何も言わない。
「なんで、テミアが答えるんだよ。…………まぁ、いいか。やろうか?」
「ククッ、年長者として、リードしてやろうじゃないか」
輪廻もやる気になって、ルフェアは興味津々に輪廻の眼を見詰める。
そして、その夜は日が上がるまで続いたのだった…………
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「我は輪廻の妻になるっ!!」
結果は堕落させることに成功したのだった。輪廻本人はいつも通りに元気だった。
ルフェアは股を閉じて、頬を赤くしていた。まるで、恥ずかしがる少女のようだった。
「いきなり妻ですか。御主人様、さすがです」
「まぁ……、やり過ぎた感もあるけどな。シエルはどう思う?」
「ふぇっ!? い、いえ、す、凄かった、と言いようがないです……」
夜、ルフェアのやり取りを見ていたシエルはまだ顔を赤くしていた。輪廻は堕落させるために、まだテミアやシエルにやってないことを色々試したのだ。
あんなことやそんなことがあり、見ている側も恥ずかしかったようだ。
輪廻は一つだけわかったことがある。それは…………、ルフェアがM寄りにあることだ。
その性癖を見付けた輪廻は、激しく攻めて、堕落させることに成功したのだった。
「はいはい、妻はあとで考えるから、今は特訓な?」
「本当か! あ、あと、特訓以外で名前を呼ぶ時は『あなた』と呼んでいいのう……?」
「うっ……」
輪廻と同じぐらいのルフェアに下から上目遣いでお願いされて、輪廻は心の中で、少しいいかもしれんと思ってしまった。
態度が変わりすぎて動揺する輪廻だったが、いつも通りの声で答えるのだった。
「呼び名は好きにしていいが、ちゃんと教えてくれよ?」
「任せるがいい! あ・な・た」
「あははっ……、昨日のルフェアから想像出来ないわね……」
まだ少女の姿をしているルフェアの口からお嫁になったような言葉、『あなた』が出るとは、昨日の態度から想像出来なかった。
「御主人様、完璧に堕ちましたね」
「それはもういいから、真面目に特訓をしようぜ?」
「畏まりました」
「は〜い」
気持ちを切り替えて、特訓に集中する面に変わった。ルフェアも真面目になったようで、特訓しやすいように、世界を変えていた。
「特訓は昨日、戦った場所でいいな?」
「ああ。まず、何をするか説明をお願い出来るか?」
「うむ、全員の格闘技術を上げることが先だな」
戦って見たが、輪廻はともかくテミアにシエルは格闘技術がないことがわかったので、そこから始めることにする。
「さて、格闘の基本から「貴様ぁぁぁ!!」む?」
ルフェアが説明をしようとした時、横槍が入ってきた。ルフェアの結界を破って、この世界に入ってきたのだ。
輪廻は魔力を斬る魔剣の夢幻で入れたが、浮いている人物は違う。無理矢理に力ずくで結界を破っている。そこから力量が高いことが見取れる。
その浮いている人物は、この前、偽物を送ってルフェアを勧誘した者でもある。
その男性は背中に黒い羽があり、肌が少し黒かった。身体は人間の姿に近いが、羽があることと、雰囲気から人間ではないとわかる。魔王の配下であり、悪魔族の魔人である。
「また勧誘か? 今は忙しいから消えろ」
「貴様! 人間と一緒にいて、魔王様を裏切るつもりかっ!?」
どうやら、さっきから怒っているのは、人間と一緒にいたから、魔王の敵側に回ったと勘違いしているからだろう。
「我は、初めからお前や魔王の味方だった覚えはないが?」
ルフェアの言う通り、仲間になることを了承した覚えはない。その言葉で、完全に魔王の敵だと認識したのか、
「貴様……、この私が貴様を殺してやろう。ゼロクア様の第一部下であるロイ……」
「ウザい」
まだ話の途中だったが、ルフェアが氷の氷柱に閉じ込めたのだった。輪廻のと戦いで使った”凍結氷柱”で現れた魔人は一瞬で凍った。
「もう来るな」
パチッと指を鳴らすと、中身ごと氷が砕け散った。
「……え、もう終わり? 結構、魔王側では重要な人物ではなかったのですか……? それが一瞬で……」
「勘違いするなよ。アイツは偽物だ」
「偽物ですか?」
シエルの疑問に答えるルフェア。さっきのは、ロイなんとかの能力で偽物を使って動かしていると言う。
「あぁ。偽物なら、今のお前達でも余裕で勝てるぞ」
「つまり、本物だったら、勝てないと?」
「うむ、我が夫が弱いと言いたくはないが、3人で掛かっても勝てるかは微妙だな」
つまり、本体だったら輪廻達よりは格上だと言う。そんな奴らが東の地にて、ウヨウヨしているなら輪廻達では生き残れないだろう。
「特訓の前に、場所を変えるがいいか?」
「ここは、魔王側にばれているなら、そうした方がいいでしょうね」
「また、あんなのが来たら落ち着いて特訓が出来ないだろうな。よし、早速動くか」
邪魔者が入ったせいで、輪廻達は『白皇の森』から拠点を移すことに決めたのだった…………




