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第七十一話 初めての敗北


 輪廻はテミアとシエルの頑張りで、傷は完全に回復することが出来た。傷は回復したが、実力の差が縮まったわけでもない。




(せめて、一分は生き残らないとな。さらに、傷一つでも付けれたらいいんだが……)


 とにかく、ルフェアのステータスは輪廻のステータスよりも高いのは確実だろう。特に耐性と魔耐が高過ぎたら、傷を与えられない。だが、ルフェアは攻撃を殆ど受け流している。

 もしかしたら、耐性と魔耐が自分と同じぐらいだったら、本気の一撃が当たれば、傷一つぐらいは与えられるかもしれない。




「お前の強さは俺より高いのは確実。だが、傷一つは付けてやる」

「ククッ、やってみろ」


 ”瞬動”+”空歩”で空を蹴りつつ、素早く動き回る。ルフェアが使う受け流しは、攻撃の見極めが出来なければ成功することはない。

 だが、今までルフェアは事もなげに、受け流してきたから全ての攻撃が見えているか、動きが読まれているのどちらかだろう。だから、輪廻は動きを読まれないように、ルフェアの全位方向を動き回って隙を探そうとしたが…………




(完璧に見えていやがる……)


 ルフェアは輪廻の動きを全て目で追っていた。敏捷が高い者を目で追うには、相手の敏捷に近い実力か、それ以上の実力が必要になる。

 敏捷に差がありすぎると、消えたように錯覚させることが出来るのだ。




「”縮星”」


 続いて、大量の”縮星”をばらまく。だが、ルフェアは掌打を当てるだけで、効果を発揮せずに消えてしまう。




「特異魔法の『重力魔法』か。面白い使い方をしてくるな」

「……もしかして、ステータスが見えているのか?」


 輪廻は脚を止めて、話をしてみる。ステータスを見られるとは思えなかったが、ピタリと当ててきたからステータスを見れる疑惑が高くなった。輪廻は”上位隠蔽”を持っているから、”上位鑑定”を持ってもステータスは見られないはず。だが、ルフェアはステータスが見えている可能性があることから、輪廻は気になったのだ。




「何か”上位隠蔽”を無効するようなスキルか、魔道具を持っているのか?」


 まず、思い付くのはそれだったが…………




「少し違うな。我は”真実の瞳”を持っておるから、ステータスを隠そうとしても、見抜く力がある」

「そうか、”上位鑑定”以上のスキルを持っていたわけか」


 ”真実の瞳”は”上位鑑定”よりも強いが、見れるのは生き物のステータスだけで、アイテムなどの名称や内容は見れない。生き物だけと絞られているため、”上位隠蔽”があっても見抜くことが出来る。




「なら、魔法とスキルは筒抜けってわけか」


 輪廻は武器をしまう。もう諦めたわけではなく、次の手を使うためにだ。




「お前は面白い奴だのう。まだ11歳で暗殺者だけでも驚くことなのに、『邪神の加護』、『魔族を虜にした者』、『異世界者の覚醒』、『重力魔法』…………普通ではないわぃ」


 ルフェアの言う通りに、輪廻のような称号とスキルを持つ者はいないだろう。殆どが異常過ぎたから、ルフェアは輪廻に興味を持っている。

 似ている故に…………






「む? 今度は徒手空拳か。何が出来るのぅ?」

「ステータスで殆ど見られているからな。なら、お前が知らない技を使うしかないし、紅姫で攻撃しても振り払われるからな」


 紅姫での攻撃をしても、全く当たらないので、今度は近い距離ですぐに対応出来る戦闘が望ましい。なので、輪廻は無手で構えを取っている。

 どの基本には当て嵌まらない型。左手を前に出し、だらりと脱力し、右手は親指、人差し指、中指の三本だけを立てて腰の辺りに構えていた。


 この構えでも、攻めの型なのだ。輪廻が先に動き、ルフェアの正面から向かう。




「……? 何も特別なことをしないと?」


 何か仕掛けてくると少し警戒していたが、何もなく、ただ突っ込んでくることに訝しむ。

 ルフェアが何もしないわけでもなく、掌打を喰らわせようとしたが…………




「っ!?」

「チッ!」


 掌打は倒れるように下へ避け、そこから”瞬動”で一気にルフェアの懐に入った。ルフェアが驚いたのは、ここからだ。

 右手の三本指がルフェアの腹に向かい、輪廻は同時にダラリと下げた左手と足を捻って連動して、指に力を集中させた。


 ルフェアは徒手空拳で向かってくるなら、受けてもたいしたことはないだろうと考えていたが、連動する手と足を見て、切り替えて咄嗟に避けたのだ。

 それでも、完全に避けることは出来ず、服が刔り取られたのだった。ルフェアに傷は付けられなかったが、服といえ、今までは3人全員の攻撃が当たらなかったのだから、この結果は凄いことだろう。ちなみに、”虚冥”はわざと受けていたから、数には入らない。




「ほぅ、まさか、このステータスの差で我の服に触れることが出来るとは思わなかったぞ」

「お前が油断しすぎなんだよ」

「それはそうだな」


 さっきのは、ルフェアが油断していたため、服を刔り取ることが出来たのだ。キチンと警戒すれば、避けられない攻撃ではなかった。


 輪廻が行ったことは、”勁”と似ていて、暗殺者として、無手になっても相手を殺せるように仕込まれている。先程は、身体全体の運動量を三本の指に集結させ、刔り取る技である。本来なら、首を狙うが、避けられる可能性があるから、的の大きい腹を狙ったのだ。




「暗殺に合った技だな。普通の人間なら、首を刔られて終わっているな」

「だが、それも避けられた。つまり、徒手空拳も通じない」


 さっきのは、ルフェアの油断を狙った攻撃だったが、次は警戒されてもう当たってくれないだろう。




「まぁ、驚愕させただけでもマシか」

「ククッ、楽しかったぞ。もう終わりにしてやろう」


 ルフェアから魔力が溢れ出る。”魔力遮断”を持っているのに、魔力が溢れると言うことは…………




「特別に我の魔法を見せてやろう。『氷獄魔法』、”凍結氷柱”」




 そう言葉を聞いた時は、既に輪廻は氷の中に閉じ込められて、一瞬で身体の内部まで凍らせられて、光の粒になって消えたのだった…………









−−−−−−−−−−−−−−−






 輪廻達が負けて、今は先程の世界ではなく、初めの屋敷がある世界に戻っていた。




「強すぎんだろ?」


 輪廻はここの世界に来てから、初めての敗北。敗北してからの言葉はそれだった。




「確かに、レベルが違いすぎます」

「勝てるわけがないよ……」


 テミアとシエルも輪廻に同意する。明らかに実力が違い過ぎて、相手にならなかった。




「ククッ、そうだな。我はお前達のステータスが見えるからどのくらいの差があるかわかるしな。だが、その差があっても、良く耐えたと思うぞ?」

「それはルフェアが手加減をしていたからだろ? もし、本気で来たら一秒も持たねぇよ」


 輪廻に使われたあの魔法、もし1人にではなく広範囲に対応出来るなら、1秒以内に全てが終わっていたのだろう。




「ククッ、確かにそうだな。お前達はまだ今は弱いが、まだ強くなれる可能性がある。つまり、ヒヨッコだと言えばわりやすいか?」

「…………」


 ルフェアは楽しいことを見付けたような、笑みを浮かべていた。




「だから、お前達は我の弟子になれ」

「「「は?」」」


 輪廻達はすぐに理解出来なくて、呆気に取られていた。弟子、ルフェアの指導で鍛えることになる。それをようやく理解出来た時、輪廻は声を上げていた。




「待てよ!? どうしてその話になる? さっきの戦いといい、急展開過ぎんだろ?」


 いきなり過ぎて、受け入れられなかった。輪廻達は旅を楽しみたいんだ。なのに、ルフェアの元で特訓をするなんて、勘弁してもらいたいと思っていた。




「いいだろう? 我流で強くなるより、教えてもらえる師匠がいれば、早く強くなれる。お前は才能が高いから、お前に教えられる立場にいる者は少ないと思うぞ」

「俺達は目的があるんだよ。世界を見回る旅って奴をな」

「なおさら、もっと強くならなければならんな。東の地に行ったら、お前達の実力じゃ、死ぬぞ? 我ほどではなくとも、お前達を殺せる強い奴がゴロゴロといるからな。我は面白い奴らをこのまま行かせて野倒れさせたいとは思わん」


 ルフェアは輪廻達を気に入っていたから、簡単に死なさせたいとは思っていなかった。




「それでは、お前に得がないじゃないか?」

「あるさ。暇を潰せる」

「それは得と言うのか……?」


 急展開に、溜息を吐きたくなった輪廻だったが、ルフェアの話を聞くには、言葉に嘘を感じられなくて、世界中を旅するなら、強くなりすぎても損はない。

 ルフェアが言っていた通りに輪廻達を指導出来る強き者は少ない。その後で指導してくれる者に出会えるのかも怪しい。




(……ここで脚を止めて、強くなるのも一手か?)


 目の前には、輪廻達を無傷で負かした相手。その強き者が俺達を鍛えてくれるのだ。

 しばらく考えてから、答えを出した。






「……わかった。俺は簡単に死にたくないからお願いしたいと思う。2人はどうだ?」

「私は御主人様に着いていくだけです」

「私もお願いしたいねー」

「ククッ、安心しろ。我が教えるのだから、魔王の幹部の奴らにも追い付けるように鍛えてやる。屋敷の部屋は好きのを使え」

「お、それは助かるな」


 野宿をせずに済んだし、もしかしたらお風呂もあるのかもしれない。その好意を受けることにした。




 輪廻達はルフェアから教えを請うことになり、別世界にて、脚を止めることになった…………







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