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第七十話 魔拳士



 輪廻達が転移したわけでもなく、ルフェアがこの世界を一瞬で変えたのだ。しかも、生死の結界もありで。




「……ったく、出鱈目でたらめだな」


 広さに限界があるが、神秘な建物から半径200メートルはあると、ルフェアが説明してくれた。見渡す限りは、向こうの地平線まで行けそうだと錯覚されそうだった。

 生死の結界は、広くなるほどに魔力を凄まじく使うはずなのに、ルフェアの様子を見るには、まだまだ余裕そうだった。ステータスは隠されているから、どのくらいあるかわからないが、確実に輪廻達よりは強いと判断出来る。




「海の上は歩けるようにしてあるからな。さて、やろうじゃないか」

「……ったく、やるしかないか」


 それぞれが武器を持つ。輪廻は紅姫、テミアは地喰、シエルは星屑を持ち、ルフェアは何も持っていなかった。




「ハンデとして、先に我の職業を教えてやろう。我は魔法と拳で戦う魔拳士と言う奴だ」

「どちらも行ける職業だな」


 前衛、後衛のどっちでもやれる職業であり、ソロでやって行ける素質を持つ。




「さらに、魔法もあまり使わないでやろう。これでいい勝負が出来るかのう?」

「充分だ」


 ここで戦うなら、死ぬことがないから手加減はしなくてもいいが、悪ければ魔法一撃で終わってしまう可能性があるから、それは避けたかった。だから、このハンデは充分過ぎる程だろう。




「よっと」


 テミアは建造物に近付いて、地喰に喰わせる。




「あ〜、下を土にした方がよかったか?」

「いや、もう遅いだろ?」


 神秘だった建造物の一部が刔られて、変な形になっていた。




「まぁ、いいか。しばらくすれば、自動復元するだろうし」

「お待たせました」


 これで準備が終わったので、これから戦いが始まる。






 輪廻が先に動こうとしたが、既に輪廻の腹にルフェアの掌打が軽くり込んでいた。


 そして、そのまま後ろにあった建造物まで吹き飛ばされていた。






「あ、しまった。力加減を間違えたか?」


 テミアとシエルは何が起こったのか、すぐに理解できなかった。輪廻の前まで一瞬で現れて、吹き飛ばした。それを理解したテミアは声を上げ、地喰を振り下ろした。




「ぁ、アアアァァァァ!! 貴様ァァァ!!」

「隙が大きすぎるぞ」


 ルフェアは迫ってくる地喰に手を添えて、手首を回すだけで、軌道を逸らした。そのまま終わらず、反対の手を支点にしてテミアが振り下ろした勢いを利用して、地喰を掴んでいるテミアごと流れに逆らわずに投げつけた。




「なっ……!?」


 テミアは水の上をバウンドして転がる。




「して、次は……」

「”流星”っ!!」


 上空からの大量の矢が落ちる技。雷の矢で貫通力を持っていて、当たれば感電する。ルフェアが矢の嵐を受けている間に、シエルは後ろに下がって距離を空けようとしたが、煙りが晴れた時、シエルは信じられないモノを見たような表情になっていた。




「まだ甘いな」

「う、嘘! 雷の矢を掴んだの!?」


 ルフェアの手には、雷の矢が何本か握られていた。どうやって掴んだのかわからないが、どうやら、当たりそうな矢だけを全て掴んでおり、ルフェアは無傷だった。

 ルフェアは掴まえた矢をシエルに向けて投げて返した。




「ぐぅっ!?」


 適当に投げたからなのか、殆どが外れて、一本だけが脇腹を貫かれ、感電してしまう。シエルも倒れて、全員が地に伏せたことになる。




「終わりなのか? 弱すぎだろ…………」




 その言葉は続かなかった。建造物の瓦礫から、”虚冥”が撃ち出され、ルフェアに当たったからだ。




「ククッ、まだ生きていたんだな」


 ”虚冥”が当たったのに、ほぼ無傷だった。突き出された左手には黒い弾が握られていて、たった今、潰された。つまり、輪廻の切り札を左手だけで破ったのだ。


 輪廻は”虚冥”を撃ち出した後にすぐ、ルフェアに向かっていたから、今はルフェアの横にいた。




「だが、まだ遅い」

「くっ!」


 紅姫を振っても、先程のテミアのように受け流されて、反対側に掴み飛ばされていた。”空歩”で、水飛沫みずしぶきを撒き散らしながらバランスを取って立つ。




「ふむ、さっきは”瞬動”で後ろに下がったから衝撃があまり伝わらなかったようだな」

「それでも、肋骨を何本かやられたけどな。というか、”瞬動”を使った魔力を全く感じなかったぞ?」

「そりゃあ、使ってないからな」


 先程、輪廻に迫った時は”瞬動”は使わずにステータスの高さだけで、やったことだと言う。”瞬動”無しで、このスピードだと、マジで化け物じゃないかと思う輪廻だった。




(先程の受け流し、八卦掌に似てんな……。あと、攻撃してきた時も発勁を使ってなかったか?)


 ルフェアの戦い方に、見たことがあるような型や攻撃方法があったことに気付いたのだ。異世界人の者から聞いたなら出来ても不思議ではないが、型が少し違っているから、こちら側の世界で開発した型なのかもしれない。




(信じられないぐらいのステータスを持っていて、さらに技術も高いな……)


 少ししか戦っていないが、頭の中で勝てないと確信していたのだ。だが、まだ輪廻達は生きているのだ。やれるだけやってから、潔く負けようと思う。




「御主人様! 無事ですか!?」

「いや、骨が何本か逝っているから、”再水”を飛ばしてくれ」

「はっ! ”再水”!」


 テミアの”再水”が輪廻の腹に当たって、少しずつ回復していく。完全に治るまで15秒。




「テミアとシエル! 俺が完全に治るまで、15秒は足止めをしろ」


 骨が折れたままでは、動きを制限されてしまうので、輪廻は治るまで足止めをしろと命令を出す。




「はっ!」

「わかったわよー」


 テミアはまだ無傷で、シエルの方は脇腹に雷の矢で貫かれたが、15秒ぐらいなら我慢すれば問題はない。




「”雷火”、”流星”!!」


 ただの雷の矢では、先程みたいに掴まれてしまうので、触れたら爆発する効果もある”雷火”で”流星”を放つ。




「先程と違うな?」


 先程の攻撃と違うとわかり、わざわざ受ける理由がないので、避けようとするが、




「させません!」

「また力任せか」


 もうすぐで矢の嵐が来る中、テミアがルフェアの足を止めるべく、突っ込んだ。だが、またもして力任せに振るうだけの剣に呆れて、また受け流して反撃をしようとした。

 しかし、テミアはそこまで馬鹿ではない。




「っ!?」


 触れた瞬間に、剣の刀身が崩れて、建造物の材料であった岩がルフェアになだれ込む。






「……チッ」

「少し驚いたが、威力が弱すぎたな」


 ルフェアはダンスを踊るような動きで、全ての岩を受け流して、落ちてくる矢も、攻撃範囲から離れることで避けたのだった。

 完璧に2人の攻撃を捌き、避け切って無傷で佇むルフェア。




「あと10秒ぐらいか。輪廻の前に、先に2人の相手をしてやるよ。精々、耐えてみせよ」


 ルフェアは2人を殺すまでは、輪廻に手を出さないと宣言して、シエルに突っ込んだ。手加減しているのか、シエルはギリギリ視認出来ていた。




「私が先!?」


 口で言いながらも、空間指輪から大盾を取り出して、星屑で撃ち出すのだが…………




「大きな盾に隠れても無駄だ。”浸透掌”!」


 ”雷火”の矢を全て避けて、大盾に掌打を繰り出していた。






「ぐ、ゴバァッ!?」






 ルフェアは間違いなく、シエルに触れてもいなかったはずなのに、シエルは吐血をしていた。輪廻はその様子を見て、物理を超える衝撃でも放ったのかと推測する。




「まず、1人」

「…………っ!?」


 シエルは”浸透掌”を受けたダメージで大盾を支えられなくて、ルフェアに裏拳で軽く弾かれてしまった。そのまま、無装備の胸に向けて発勁を喰らって、光の粒になって消えた。




「残り7秒」


 シエルが耐えたのは、たった3秒だけだった。


 発勁の『勁』は、運動量と呼ばれている。運動量で殺せるのか……? と思うかもしれないが、力が強いと言う意味もある。

 簡単に説明すれば、野球で球を投げる時に流れがあるというのは聞いたことがないかな? 球を投げる時、腰→肩→肘→手首と流動して、球に力を伝えることで、早い球を投げれる。

 ルフェアがやった発勁もそれと同じ原理で、掌打を放つ時、無駄なく力を上手く手の平に集中させているから、威力が高くなる。




「年増エルフ、せめて5秒は耐えなさいよっ!」


 テミアは通じるかわからないが、”瘴気操作”で魔力の毒を放つ。これに警戒して、時間稼ぎが出来ればいいと考えていたが、




「魔力の毒か」

「なっ!?」


 あっさりと見破られて、ルフェアは瘴気のことを気にせずにまっすぐテミアへ向かっていた。黒い瘴気とぶつかるが、全く効いているようには見えなかった。




(もしかして、効かないのは不死に近い存在だからか?)


 不死ではないが、不死に近い存在だと、自分で言っていた。魔力の毒では、ルフェアを殺せないだろう。




「くっ!」


 地喰には何も付いていないから、地喰としての効果を発揮出来ない。先程、ルフェアに向けて岩を吐き出したから、今の地喰は生身なのだ。

 空間指輪に戻して、徒手空拳で受けるつもりだ。




「たった7秒……、耐えればいいだけッ!!」

「ククッ、やってみなさい」


 まず、ルフェアの突進から始まり、テミアはカウンターを合わせようとする。ルフェアが攻撃をしないまま、突っ込んで来るなら、攻撃が届く距離まで来たら、右ストレートで狙うつもりだ。




「はっ!」


 筋力が5000もある右ストレートを繰り出して、相手の出方を見る。ルフェアは左手だけを前に出して、円を書くように手首だけを回して軌道を逸らす。

 テミアはそれを読んでいたのか、驚かずに次の手を繰り出していた。右足で膝蹴りをし、脇腹を狙うがルフェアは…………




「えっ?」


 避けずに受けていた。だが、ルフェアは全く痛そうにせず、ニヤッと笑っていた。テミアは一瞬、ほんの一瞬だけだが、当たるとは思わなかった驚愕で隙を見せてしまった。

 ルフェアは不死に近い存在で、右ストレートを繰り出した後の右足で膝蹴りなんて、威力が半減してしまい、避ける必要性を見出だせなかったのだ。




「7秒は持たなかったな」

「ぐぅっ!? ぐぁあっ、がっ…………」


 隙を見せてしまったテミアは、顎を掌打で打ち抜かれて、脳が揺れる。そこから連続技が続いた。お返しと言うように、膝蹴りを腹に返して、発勁を三発、膝蹴りをした箇所に続けて打ち込まれた。

 普通の人なら、内蔵破裂、複雑骨折などの酷い傷となり、死んでしまうだろう。

 だが…………




「むっ? まさか、耐えるとは思わなかったな」

「…………が、ごふっ、た、倒れてはならない……」


 任されたことを達成出来ないことは、御主人様に顔向けが出来ない程の恥だと思っている。ゆえに、身体は限界でも、気力だけで立っているのだ。

 数秒間、死なないだけでも、目的は達成出来る。死ななければ、輪廻に手を出されることはないからだ。




「お前はよくやったと思うぞ。楽になれ」

「ごふっ、ご、御主人様……」


 ルフェアは動けないテミアの胸に手を置いて”寸勁”でトドメを刺す。”寸勁”はゼロ距離でも、発勁を放つことが出来るのだ。


 膝を折り、意識が消え逝くテミアの耳に声が聞こえたのだった。






「良くやった」






 短い言葉だが、テミアにとっては誉れの言葉であるのは間違いない。意識が消える前に、嬉しそうな笑みを小さく浮かべて、光の粒になって消えた。







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