第六十八話 白皇の森
本日二話目です。
思ったより、執筆が進んだので、また投稿しました!
吸血鬼が目撃された場所、白い木、白い葉、白い花…………
全てが白い森である『白皇の森』。地面以外は全てが白かった。
「なんだこりゃ……、『試練の山』も凄く白かったが、ここはそれ以上だな」
「話では、魔物も白いとか……」
受付嬢にどんな魔物が出てくるのか、聞いておいたのだ。その情報とは、魔物の姿は全てが白いので保護色のように、姿が見えにくいとか。
ここは『試練の森』のようにAランクの魔物ばかり出るわけでもないが、ここにいる魔物の方が戦いにくいと思うだろう。
「白の保護色に、”魔力遮断”とか、ふざけた能力を持っているなんて、面倒な」
”魔力遮断”とは、普段に外へ発する魔力を遮断して、魔力を察知、感知出来る敵に悟れないようにすることが出来るのだ。
「動いたら、さすがにすぐわかると思うけど、近くにいて襲われると厄介ね」
まだ魔物に出会っていないから、はっきりと言えないが、白いフィールドになる場所で白の保護色をしている魔物に襲われたら面倒だと、輪廻も思う。
「それなら、私にお任せを」
「テミア? ……あ! アレがあったんだな!?」
「アレ?」
久しぶり過ぎて、輪廻も忘れていた。テミアは病魔の魔人であり、瘴気を操る。”瘴気操作”には、瘴気に触れたモノを察知することが出来る。魔力を感じることが出来ず、眼には見えない相手だろうが、すり抜けるわけでもないので、瘴気が触れたらテミアに伝わるのだ。前は察知できる範囲は、半径15メートルが限界だったが、今はレベルが上がって操作出来る範囲も広がって半径50メートルは広げる。ちなみに、敵を殺す魔力の毒は半径30メートルである。
「今は周りに人間はいないので、両方とも出しておきます」
魔力の毒は、黒い粉のようなモノで、見えなくはない。味方である輪廻やシエルを巻き込まないように、輪廻とシエルが触れても効果が発動しないようにしてある。
「へぇ、触れても大丈夫なんだ? 操作性が上がったのね。頼りにしているよ」
「はい!! 頑張ります!!」
テミアは輪廻に頼りにされて、張り切っている。察知の瘴気を広げたら早速、見えない敵を見付けた。
「私が全てを消しても?」
「ああ。見えなくて魔力を感じない敵と戦うのは面倒だから、戦闘になる前に消しちゃって」
範囲が広がった察知の瘴気と魔力の毒なら、相手にこっちの姿を見る前に殺せる。数が多くても、全位方向に向けているから何十体が現れようが、魔力がある限りは無双出来るのだ。
「あっさりと捕まえられたので、ここの魔物は強さがたいしたことありませんね」
「隠れるのが上手いだけかもしれんな」
ここの『白皇の森』は、A〜Cランクとばらつきがあるのだ。たまにSランクの魔物も出てくるが、数は少ないからそうそう出会わないだろう。
「あら、魔力の毒から避けている者がいます」
「危険だと気付いたかもな。魔物か魔人?」
「いえ……、人間みたいです」
「む?」
瘴気の察知に掛かったのは、数人の人間だった。魔力の毒は黒い粉のようなものだから、周りが白いのでは、目立ってしまう。だから、違和感を感じた人間達は、瘴気の察知に気付かなくても、魔力の毒を危険だと判断して、迂回していた。
「冒険者なら、何か情報を得られるかもしれないから、会ってみるか」
「え、瘴気の中から出て来ても大丈夫なの?」
今は、魔力の毒に囲まれている状態になっている。危険だと判断した黒い粉が散らばる中から輪廻達が現れたら警戒はするだろう。
「スキルだと言っておけば大丈夫だ。シエルはこれを初めて見て、瘴気だと判断出来るのか?」
「……いえ、判断出来ないですね」
「なら、すぐに行こう」
瘴気をただの黒い煙を出すスキルだと言い張れば、問題はないと判断して冒険者達の前に出た。
「だ、誰だ!?」
「子供……?」
「なんで、黒い粉の中から現れているんだ?」
一番前に出たのが輪廻で、子供だとわかり、呆気に取られていた。冒険者は6人もいた。6人で一つのパーティだろうと判断して話し掛ける。
「武器を降ろしとけ。こちらには敵意はない。話をしたいだけだ」
「君は……、人間だよな?」
「あ、後ろから2人が……メイド?」
「待て待て、黒い粉は危険だと、俺の”危険察知”が判断しているんだぞ!!」
危険だと判断出来たのは、スキルのお陰のようだ。
「安心しろ。俺は人間だし、同じ冒険者だ。後、黒い粉はこちらの仲間のスキルだから、危険などはない」
「本当なのか……?」
「そうだ。俺達は聞きたいことがあるから、近付いただけだ。質問をしてもいいよな?」
「あ、ああ……。その前に、君が誰なのか聞いていいか?」
「自己紹介は面倒だが、俺の名前だけで許せよ。輪廻で、Sランクの冒険者だ」
「Sランクなの!?」
魔術師っぽいの女性が驚いていた。目の前の子供がSランクだと思わなかったようだ。
「俺がパーティのリーダーをやっているゼクスと言う。俺もSランクの冒険者だ。で、質問とは?」
「うむ、俺は君達が何のためにここへいるのか聞きたいだけだ。まぁ、今の状況では二択に搾られるがな。Sランクの魔人と吸血鬼、どっちだ?」
輪廻は嘘をつかれても、大丈夫ようにゼクスの眼をじっと見る。
「Sランクの魔人を捜しに来たが……」
眼の反応から見て、嘘をついたとは思えない。輪廻に嘘を完璧に見破る能力はなく、なんとなくしかわからないが、今はそれだけで充分だった。
「ありゃ、そっちの方か。吸血鬼だったら、情報を聞ければと思ったけどな。呼び止めてすまなかったな」
「いいんだが……、君達は吸血鬼を狙っているのか?」
「んー、全滅したと聞いたんだが、目撃情報があったから一目は見たいと思ってな」
「そうか……」
輪廻はもう用はなくなったので、ゼクスのパーティとは別の道がある方へ向く。
「あ、そうそう。たかが黒い粉に危険だと感じたなら、Sランクの魔人と戦うのは止めた方がいいよ? お前達じゃ、無駄死するだけだ」
「な……!?」
「警告だけはしたからな。じゃあっ」
輪廻は黒い粉、魔力の毒がある場所に戻っていく。後ろから冒険者が呼び掛けるが、魔力の毒があるから、近付いてこない。
「さて、続けるぞ」
「あの者を放っても良かったのですか?」
「放って置け。時間の無駄だ」
あの冒険者と戦えば、輪廻達は負けない自信があるけど、殺し切るには、時間が掛かりそうな気がしたのだ。それに、輪廻には、疲れることをしてまでも、挑む理由がない。
「本命は吸血鬼だけだ」
「はい、畏まりました」
目的は吸血鬼だけなので、他のは無視することに決めていた。
「しかし、吸血鬼はここにいなそうだな……。住家も見付かっていないみたいだし」
「どうしましょうか?」
「う〜ん……」
しばらく歩いて、何も見付からなかったら帰ることにしようかと思った時、久々に発動した。
『邪神の加護』が
輪廻は、何かに気付いたように、周りをチョロチョロするようになった。
「御主人様?」
「少年、何か感じたの?」
「うん……? なんか、違和感を感じると言うか、変な気分だよな……」
輪廻は嫌な気配ではないが、変な気分だった。そして、一つだけ試すことにした。
「2人共、伏せていて」
輪廻は夢幻を抜いていた。違和感が、何なのか試すことにした。魔力を斬る魔剣である夢幻で、周りを適当に斬ってみることにした。
「魔力は感じないし、魔物がいるわけでもないが、こうした方がいいような気がしたんだ。”散桜”!」
”瞬動”を使いながら全位方向へ連撃を夢幻で行うのだった。シュッシュッと動き回りながら周りを斬っていく。殆どが空を斬るのだが…………
「……っ! 手応えありっ!!」
出鱈目に斬りつけていたら、一カ所だけに切り傷が入った。夢幻で斬ったとしても、普通なら切り傷は入らないはずだが、ある一カ所は空中に切り傷が入っているのが見取れた。向こう側には、白くもない、ただの森や大きな屋敷が見えていた。
…………つまり、あそこは魔力で繋がっている扉と言うわけだ。
「まさか、扉の魔力を隠されていたとはな。しかも、実体がないから瘴気の察知に引っ掛からないときたか」
「もしかして、向こう側に吸血鬼が?」
「少年は良く見付けたわね……」
向こう側に、森の中で一つの屋敷が建っているし、ここら辺で吸血鬼の目撃情報があったから、向こう側に吸血鬼がいるのは間違いないだろう。
「行くぞ」
「はっ!」
「えぇっ……、っ! わかったから、睨まないでよ!!」
テミアに睨まれて、渋々と扉とも言えない切り傷の中に入っていく。少しずつ再生しているから、しばらくすれば、切り傷が見えなくなるだろう。
そうして、輪廻達は、吸血鬼の本拠地へ乗り込むのだった…………




