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閑話 メルアの思い その3

決着が付きます。



 切り札を切ると言った輪廻。メルアは最後に繰り出されるだろうの攻撃に耐えれば、輪廻は魔力を使い果たすだろうと信じていた。


 この”魔装竜”を破るには、硬度を越える威力をぶつけなければならないから、魔力を全て使ってくるはずだ。だが、メルアはまだ一つだけ隠していた。




「”錬鉄竜装体”!!」




 さらなる、防御を上げる魔法。さっきまでは、爪だけが土によって作られた物で身体は魔力に包まれていた。だが、今は違っていた。






 ボコボコッ…………






 メルアの身体全体に土……だけではなく、鉱石も混ざっていた。メルアの身体は土によって隠れて、形を作っていく。




「マジもんの竜じゃねぇか」




 見た目が完璧に地の竜ようなモノだった。完全防御形態である竜の姿をした盾。この姿をしていたら、ゆっくりしか動けないが、防御のためにある技なので、問題はない。




「それほどの魔法を見せてくれるとはな。俺もそれでも破壊出来ると見せてやらないとな。”虚冥”!」


 輪廻は両腕を前に突き出し、指はLという形を二つ作り、それぞれの指が指す向きは右斜め上、左斜め下と、メルアには向いていない。その中心には小さな黒い球が現れる。

 切り札と称した技は、それで終わらない。




「ぐ、重くなった? ……木や岩が浮いたり沈んでいるとは……?」


 メルアは自分自身の身体が少し重くなったように感じられ、周りを見ると木や岩が浮いているのがわかった。




(もしかして、あの球がそんな状態を引き起こしている? もしかして、重力を……)


 メルアはようやく輪廻が重力を操る魔法を使ってくると理解した。


 輪廻が作り上げている黒い球は、周りにある重力を使う効果があり、重力がなくなって浮いたり、Gが強くなって重さに沈んでいるのだ。


 この”虚冥”は周りにある重力を使って、重力の暴虐なる力を集めているのだ。そして、完成した。






「蹂躙せよ」






 輪廻は変な向きになっていた指を同時、カチッと嵌まったように、メルアへ向かい、”虚冥”の黒い球が撃ち出された。






 ドオォォォォォオオオッ!!






 凄い勢いでメルアに向かっている。竜になったメルアは始めから避ける気はなく、受け止めるつもりだったので、両腕を前に出して”虚冥”を掴む形になった。




「ぐぉぉぉぉ、あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」




 メルアは受け止める自信があったが、”虚冥”は異質過ぎた。ただ威力が高い破壊の弾だけではなく、メルア自身の感覚を狂わせるのだった。

 ”虚冥”は重力の塊だが、”重球”と違う。”重球”は、引力と反発のどちらか、一つの性質を持ち合わせるしか出来ない。だが、”虚冥”は違う。

 二つの矛盾する性質を持った技、それが”虚冥”なのだ。もし、一秒ごとに、重力のGが変わったりしたら、生身で耐えれるのか? それは否だ。


 身体の調子、感覚が崩されてしまう。現にも、それを体験しているメルアは感覚を崩されて、意識が切れそうになっている。






 だが、メルアは意識をつなぎ止めていた。それを可能にさせたのは、プライド。

 ギルド長として、年長者として、強者でいる者として…………様々なプライドが”虚冥”に耐えていた。

 身体に纏っていた地の竜である鎧が剥がれていようが…………




 そして、”虚冥”の勢いが弱くなり、消えた。






「はっ、ははは……、耐えたぞ……」






 これで、メルアは勝ったと思った。煙が晴れる頃には、輪廻は魔力を使い切った姿で膝を付いているはずだと。


 そうだと、メルアは思っていたが…………






「嘘だろ……」






 目に入ったのは、二発目の”虚冥”を放つ準備をしている輪廻の姿だった。




「ま、魔力はっ!?」

「残念だったな。この技は見た目よりも魔力を余り使わないんだよね」

「な、何だと……」


 ”虚冥”に使う魔力は”虚手”を発動するのと変わらない量なのだ。なら、なぜ”虚手”よりも威力が高いのか?




「この技は殆どが、周りの重力から出来ているからね」


 他の技のように、魔力から重力を生み出しているのではなく、周りにある重力を使っているため、魔力は重力を集めて留めるしかに使っていない。


 メルアは絶望的だった。一発目を耐えたといえ、身体に纏っていた”錬鉄竜装体”は殆どが剥がれており、生身を露出している。さらに、また発動する魔力もほぼ残っていない。






「ジ・エンドだ。”虚冥”!!」






 再度、”虚冥”が撃ち出された。防御は魔力が足りないから不可、回避はまだ脚が思うように動いてくれないから不可。






(私の負けか……)






 メルアは不思議と、悔しくはなかった。完全に、全てを上回られたからなのか、強者と戦えたことに喜びの感情が沸き上がっていた。勝ち負けはどうでもいいと言うように。




 目の前の近くまで黒い弾が迫っているのに、そんなことを考えていたのだった。






−−−−−−−−−−−−−−−






「あの時は、マジで楽しかったんだよな。この二年間での退屈を吹き飛ばすほどにな」

「そりゃ、良かったデスネー」

「おい、何を棒読みになっているんだ?」


 今まで会話をしていたのだが、エリタがどうでもいいように、最後は棒読みになっていたことからメルアはどつきたくなるのだった。




「これで、私はとても忙しくなったんですよ? 訓練所の修理、貸し切りにすることの手続き、国王への言い訳など……、全てをやったのは私なんですよ?」

「そ、そうだったっけ?」

「惚けないで下さい!! 自分でやらないなら、戦いを受けないでよ!!」

「むっ、仕方がないだろ? 私が負けるとは考えていなかったからな。もし、私が勝っていたら仕事はなかったしな」


 メルアが勝っていたら、少なくとも、貸し切りに関する手続きはなかっただろう。王様への言い訳は、訓練所をボロボロにしたことだ。一日で直ったといえ、どうすればこうなるんだよ!? といいたくなるほどの惨状だったのだ。

 輪廻は、また国王との出会いイベントを面倒だと思っていた。だから、国王には輪廻達のことを言わないように言い含まれたため、エリタは詳しくは話せなかったのだ。

 ゆえに、国王側の者に納得してくれるまで、言い訳するのが大変だったのだ。




「まぁ、終わったことはいいじゃないか。私が楽しかったんだから」

「うぅっ……、メルアが楽しくなるごとに、私は胃が痛くなりそうだよ……」


 うぅっ、とお腹を抑えてギルド長室を出ていこうとするエリタ。




「なんだ、ストレスか? まだ若いんだから無理はするなよ?」

「ストレスは貴方のせいですよ!?」




 エリタは最後にそう言い残して、仕事の続きをしに戻るのだった。





「くくっ、輪廻か。私達のリーダーだった姉さんに似ていたな。旅しているなら、いつか出会うだろうな……」




 遠くを見るような目でそう呟き、面倒な書類の仕事を進めるのだった。







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