表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/217

第五十九話 テミアの新武器



「輪廻君!!」


 絢が輪廻の元へ駆け寄ろうとするが、輪廻に止められる。




「ストップ。まだ戦いの途中だから、話はあとでね」


 絢もまだ戦いの途中だということを思い出して、脚を止めた。




「ギガァァァァァァァァァ!!」


 左鬼がまた動き、輪廻と英二を葬ろうと、鉄棍紡が振り下ろされる。




「輪廻君ッ!! 早くこっちに!!」


 絢がそう叫ぶが、輪廻は動かない。むしろ、面倒そうにしていた。




「テミア、止めろ」




 輪廻がそう言うだけで、輪廻と左鬼の間にテミアが入り込み、片手だけで巨体な鉄棍紡を止めたのだった。




「畏まりました。その後はどうしましょうか?」


 あっさりとあの鉄棍紡を片手で止めたことに、皆は呆気に取られていた。輪廻だけは指示を続ける。




「とりあえず、大きな鬼は投げ飛ばして。小さな鬼はシエルに任せるよ」


 輪廻は手を挙げることにより、シエルに指示を出す。英二はそんな人はどこにいるのか姿が見えないと思っていたが、空から何かが降ってくるのが見えた。




「がぅ!?」


 小さな鬼は冒険者を5人ほど地に伏せて、圧倒していた。だが、シエルが撃った雷の矢によって、左手に三発も撃ち抜かれていた。

 英二は輪廻の言うシエルは何処にいるのか? と捜していたら、見付けた。




「まさか、あそこから……?」


 この街で結構高いと思える建物、時計台の頂上に1人の女性が弓を持っているのが見えた。

 ここから150メートルぐらいは離れていて、右鬼に当てたのだ。しかも、味方には一発も当てていない。




「クソ鬼、御主人様の近くで息をするな」


 今度はテミアが動いた。鉄棍紡を止めている手だけで鬼ごと持ち上げていた。




「ギィ!?」


 なんと、鉄棍紡だけではなく、左鬼本人も持ち上げられ、地から離れていた。そして、ローブの鬼がいる場所へ向けて投げ付けていた。

 ローブの鬼はこっちの意図に気付いていたのか、簡単に避けられていた。




「何だ、それは……」

「お前は後ろに下がってろ」

「え、輪廻君の口調が……うわぁっ!?」


 襟を掴まれたままだった英二はふわりとゲイルがいる方に投げて寄越していた。左鬼と違って、ふわりと優しく投げられているといえ、投げられる者にしては堪ったものではない。




「さぁ、すぐに終わらせて温泉に入るぞ」


 テミアが左鬼、シエルは右鬼を相手にして輪廻はローブの鬼に向き合う。

 だが、戦いはいつでも一対一にはならない。ローブの鬼がついに、動いた。




「狂暴化……」


 ローブの鬼が何かを呟いたと思ったら、左鬼の身体がさらに大きくなり、筋肉が膨れていた。

 おそらく、ローブの鬼によって強化されたようで、左鬼が凄い力を持って邪魔をしてくる。


 左鬼は再度、輪廻に向けて鉄棍紡で殴り付けようとするが、またテミアに片手で止められる。




「ギガァァァァ!?」


 さっきの攻撃より威力が上がっていたが、テミアに取っては軽い攻撃でしかなかったようだ。




「テミア、やれ」

「はっ!」


 テミアは鉄棍紡を弾いて、自分の武器を空間指輪から取り出す…………






−−−−−−−−−−−−−−−






「大丈夫!?」

「あ、あぁ……」


 今のうちに、絢が英二に回復魔法を掛ける。絢の回復魔法で、すぐに脚は傷が癒えて動けるようになった。




「大丈夫か? ようやく、輪廻の奴に会えたな」


 貴一も英二達の所まで戻って、英二の様子を確認していた。




「ああ、あのメイドは何者だ? あの鬼の鉄棍紡を片手だけで止めて持ち上げるとは……」

「まさか、テミアにあんな力があるとは気付かなかったな」


 ゲイルも元のテミアに会ったことがあるが、素人だと判断していた。だが、今のテミアは雰囲気が違っており、強者を前にして余裕を持っていた。あの攻撃を受け止めるなんて、本当に人間なのかと疑いそうだ。




「3人だけで大丈夫なの!?」

「あ、そういえば……、周りの冒険者も下がっているな?」


 下がっているのは英二達だけではなかった。今まで戦っていた冒険者も下がっていて、怪我人の手当をしていた。誰も戦いに介入しようとしていなかった。




「何故だ?」

「それはあの3人が強いのを知っているからだ。俺達じゃ、足手まといさ」

「えっ?」


 英二の疑問に答えたのは、一緒に戦っていたAランクの男だった。




「あの少年とメイドはSランクだ。もう1人はまだAランクだが、俺達じゃ、相手にならない程の差がある」

「Sランク!?」

「輪廻君が……」


 輪廻達のランクを聞いて、英二達は驚愕していた。




「見ていればわかる。俺達も初めは疑ったものだったさ」


 始めは虚偽のランクを名乗っているのでは? と疑っていたが、この街に攻めてきた魔物を瞬殺したことから、そんな考えは吹っ飛んだのだ。




「周りを見ればわかると思うが、皆もSランクが来ただけで下がっているだろう? 巻き込まれないようにのもあるが、実力の差がハッキリしすぎているからな」


 確かに、周りの冒険者の顔はもう戦いに赴く顔ではなかった。巻き込まれないように、離れて観察をしているような雰囲気だった。

 それ程に、輪廻達の実力を認めているのだ。あんな鬼程度では相手にならないと…………!




「あのメイドが動くぞ! あいつの攻撃はヤベェからもう少し離れるぞ!!」

「は、はい」


 いそいそと、今いる場所からもう少し距離を取ることに。

 今は、テミアの武器が空間指輪から出される所だった。






−−−−−−−−−−−−−−−






 空間指輪から出されたのは、レイピアのような形をした黒い剣だった。レイピアより少し短くて、重量がある大包丁剣を使ってきたテミアには意外な武器だろう。

 だが、これはただの武器ではない。




「目覚めよ、私の愛剣。地喰ちぐい!!」




 剣を地面に触れ、魔力を込めると、何かが起こったのがわかる。


 土が剣に喰われたように、吸い込まれていくではないか。

 黒かった地喰はどんどんと土を纏っていき、テミアの魔力によって固めていく。そして…………




「私の地喰で押し潰してあげます」




 出来たのは、大きさがテミアの倍はある土の剣だった。土は脆そうだが、テミアの魔力が篭められているため、鉄よりも固くなっている。

 ここまで見たなら、地喰が魔剣なのはすぐにわかるだろう。

 ただ、切れ味はないから押し潰す形になってしまうだろうが、テミアにピッタリの剣でもある。何せ、刀身が欠けても、土と魔力があれば、すぐに直せるのだから、手加減なしに力任せで振り回せる。


 地喰のステータスを見ると、こうなっている。



−−−−−−−−−−−−−−−


名称:地喰ちぐい


 土、鉱石を吸収して、刀身に変える。


−−−−−−−−−−−−−−−



 相変わらずの簡易な説明文だが、魔剣なのは間違いない。ただ、この地喰はテミアにしか扱えない欠陥品とも言える。

 何故、欠陥品と言われるのかは、紅姫や星屑と同様に相手を選ぶのだ。

 この地喰は、土や鉱石を吸収して刀身にするが、重量はどうなっていると思う? その答えとは、




 テミアの倍はある地喰の重量は、そのままの重さになる。




 欠陥品だと言われる理由がわかるだろう。重過ぎて、普通の人には持てないのだ。さらに、使う魔力も多いため、ただの力自慢でも使えない。

 つまり、筋力と魔力が高い者にしか使えないのだ。重さがトンの単位に届くのだから、普通の人間が持てるとは思えない。


 だが、テミアは普通の人間ではなく、高い筋力と魔力を備えた魔人であるのだ。


 だから、その地喰は化け物にしか扱えない代物だと思った方がいい。




「ギィ!?」

「軽いですよ? あんなに筋肉を膨らませて、全くの役立たずなんて、笑せてくれますね」


 他の冒険者達が離れた理由はわかると思うが、剣がデカすぎるのだ。さらに、それを軽々と振り回して、周りに被害を出すことがあるから、巻き込まれないようにしているのだ。


 ここは門の近くで、建物は少し離れているから、被害は生えている木ぐらいになるだろう。


 テミアも周りに遠慮をしないし、警告もしないから冒険者達はテミアが戦い始めるとわかったら、すぐに距離を取るのだ。

 それは、ここにいる冒険者にとっては当たり前のことになっていた。




「すぐに終わらせてあげます」

「ギィィィィィ!!」


 左鬼は、鉄棍紡で叩き潰す戦法しか持っていない。さっきより強化されているのに、テミアには全く効いていない。そのことに、左鬼は少し恐怖が浮かび始める。


 テミアはすぐに終わらせることに決めていて、さらに地喰に土を吸収させていた。


 三メートルぐらいから、さらに大きくなっていく。四、六、八…………十メートルになり、




「潰される虫のように死ね」




 テミアはただ、十メートルもある剣を振り下ろすだけ。






 ドオォォォォッ!!






 左鬼は十メートルもある剣が凄まじいスピードで落とされては、避けることが出来ず、虫のようにプチッと潰されるしか出来なかった。




 これで、1体の鬼が消えたのだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ