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第五十七話 ギルド長のメルア



 まだ輪廻と変わらない歳に見える少女がギルド長? 何の冗談だ、と言いたい英二だったが、開きかけていた口を閉じた。

 メルアが鋭い目でこっちを見ていたからだ。




「そこの坊主」

「坊主!?」


 坊主と指を指された英二は、自分より年下に見えないメルアから坊主と呼ばれて、なんとも言えない違和感を感じていた。




「言いたそうな顔をしているが、何か?」

「い、いえ! 何でもありません!!」


 ただの少女だと思えない迫力を感じたから、逆らわない方がいいと感じたのだ。




「メルア、虐めないでやってくれないか?」

「ふん、真面目な所は変わらんな。こんなガキ達を連れて、何の用だ?」

「ガキだと?」


 貴一がガキと言う言葉にムカつき、反論する。




「ほぅ、自分が青臭いガキではないと言いたいのか?」

「当たり前だろ。お前みたいなちびっ子にガキと言われるのは屈辱だね」

「貴一!」


 悪口の応戦に、ゲイルが慌てる。さっき、貴一が放った悪口に禁句があった。




「……ほう、死にたいみたいだな?」

「っ!」


 ゆらりっと立っただけなのに、背筋に何かを感じたのだ。






 『死』






 という感覚に近いだろう。貴一はすぐに失敗を悟ったが、もう遅かった。既に、メルアは凄まじい身体能力で、貴一の前まで来ていたのだ。




「待って下さい!!」




 ゲイルが声を上げると、腹へ狙っていた拳がピタリと止まった。あと一瞬でも遅れていたら、貴一は死ななくても重傷を負う所だったのだ。




「……何だ?」

「貴一の失態を謝りますので、どうか許してやって欲しい」


 ゲイルが頭を下げる。メルアはゲイルがガキのために謝ると思わなかったのか、目をピクッとしていた。




「ゲイル坊がこんなガキのために謝るとは、前のゲイル坊から想像出来んな。……まぁいい、今回だけだ」


 メルアは今回だけ許すことにした。言い換えれば、次は許さないと言っているのだ。




「…………」

「おい、今のは貴一が悪い。謝っとけ」

「……すまん」


 英二に嗜められ、貴一は謝った。さすがに、メルアの実力を見た後では、反論する気は起きないようだ。

 メルアは元の椅子にポンと座り、話を続ける。




「で、何の用だ? そっちのガキ共と関係があんのか?」

「はい、実は……」




 召喚された勇者のこと、ここに来る前で、魔人ウルに出会うなど。




「チッ、よりによっても魔人ウルが近くでウロウロしていたとはな」

「それから、輪廻と言う少年に会わなかったか?」


 聞いた本人のゲイルは余り期待はしてないが、一応聞いてみることにした。




「輪廻? 知っているぞ」

「知っているの!?」


 輪廻の情報がここで得られるとは思わなかったのか、絢が前に出て聞いていた。




「それよりも、お前らとの関係は何だよ? 個人情報をホイホイと教えるわけにはいかねぇな」

「輪廻君は詳しく説明していなかったみたいだね……」


 英二から説明をし始めた。輪廻も召喚された1人でもあり、王城を抜け出して旅に出たことを…………









「あははっ!! 輪廻の奴も召喚者だったのか。なら、あの強さに納得だな」


 狼の耳と尻尾を降り、笑うメルア。その耳と尻尾を触りたがっていた晴海だったが、自重した。




「では、教えてくれますか……?」


 私達との関係を教えたのだから、何か情報を貰えると思っていた絢だったが、






「嫌だね」






 まさかの拒否だった。




「なんで!?」

「……メルア、どうしてだ?」

「あぁん? ゲイル坊が私に意見するのか? 嫌だと言ったら、嫌なんだよ。それが輪廻の望んでいることみてぇだからな」

「輪廻が望んでいる……?」


 輪廻が探してほしくはないとも取れる。それに気付いた絢は落ち込んだ。




「どうしてもですか……?」


 英二も諦められず、再度聞く。




「ああ、私はゲイル坊やお前達の王よりも輪廻を選ぶ。わかったなら、用事は終わりだな?」

「待って下さい!!」


 ティミネス国の王よりも輪廻を選ぶ? 普通なら有り得ない選択でもあるのだ。もし、ティミネス国が輪廻を渡さないなら戦争を起こすと言われても、間違いなく目の前の少女は輪廻を匿う。

 その確信が瞳から読み取れた。何故、輪廻に執着するのか聞きたかった。




「なんで、輪廻君に執着する?」

「……はぁ、しつこい奴だな。なら、一回だけチャンスをやろう。お前らが負けたら、私からの情報は諦めろ」


 そう言って、メルアは立ち上がってドアに向かっていく。皆も慌てて、メルアに着いていく。

 メルアに着いていく形で、案内される英二達。






「ここなら、死んでも外で生き返る。そういう場所だと理解しとけ」


 案内された場所は、ギルドの地下にある訓練場のような所で、生死の結界が張られている。


 ちなみに、輪廻が出た大会に使われたのと同じ物でもある。

 そういう結界があるのも、皆はラディソム国て習っている。




「もしかして、貴方と戦って勝てと?」

「理解が早くて、説明がいらないのは助かるな。そうだ、私を殺して見せろ」


 殺して見せろと言われても、英二達は人を殺せない…………ではなかった。この結界があれば、死なないのは知っているのもあるが、ダガンが指導している時も結界がある場所でやったこともあるのだ。英二達は結界の中で何回もダガンに殺されたり、訓練を手伝ってくれているダガンの部下を倒したこともある。

 つまり、英二達は結界の中であれば、人を殺す忌避を忘れることが出来るということ。




「……その条件では、こっちが不利ではないですか?」

「あん? こっちがチャンスを与える立場で、向こうはゲイル坊を抜いた4人、こっちが1人だ。ガタガタと文句を抜かすな」


 確かに、状況を見れば、メルアの方が不利に見える。さらに、メルアは別にすぐ追い出しても良かったが、気まぐれといえ、チャンスをあげているから優しい方だといえるだろう。




「ゲイルさん、4人でなら、やれますよ」

「……はぁ、わかった。何も言わない」


 ゲイルが知っているメルアの戦い方や強さを説明しても良かったが、英二はそれを望まないことと読み取ったので、何も言わないことにする。




「始めるか?」

「はい」


 結界の中に入り、4人は武器を構えた。特に、絢は理解の情報を手に入れるために、必ず勝つと意気込んでいた。メルアは珍しい武器を手に嵌めていた。篭手に似ていて、指の先が尖っている物だ。




「さて、苦しませないように強者と弱者の違いを見せてやるよ」

「強者と弱者の違いだと…………なっ!?」


 もう戦いは始まっていた。メルアの姿がぶれたと思ったら、消えた。






 そして、結界の中にいる1人が死んだ。


 始めの脱落者は貴一だった。首をひねられて、訳がわからないような表情を浮かべたまま、死んで光の粒になって、結界の外へ出された。




「あっ……」「いつ、のまに……」




 続けて、女性陣が何も出来ないまま、両腕で心臓を貫かれていた。そこで、英二はようやくメルアの姿が見れた。

 凄まじいスピードで、動きが見えなかったのだ。




「お前はこの中でのリーダーだったみたいだから、最後に残してやった。これが強者と弱者の差だ。理解したか?」


 英二の仲間を瞬殺するメルアの実力、英二はこんなに差があるとは思っていなかったのだ。




「これが、ある高みに昇った者だけが手に入るスキルの一つだ。”瞬動”」


 さっきみたいに、身体がぶれたかと思ったら、メルアは既に英二の後ろにいた。




「反応さえも出来ないなんて、期待ハズレね」

「そんな……」


 英二は後ろに回られたことに反応出来ず、胸から手が生えていた。

 これで、メルアの勝ちが決まったのだった。






−−−−−−−−−−−−−−−






 全員、ギルド長室に集まっていた。本当なら、負けた英二達は輪廻の情報を聞けずに、追い出されるはずだった。

 だが、ゲイルが「輪廻のことを聞かないのは約束しようが、別の話なら問題はないでは?」と言って、話をするためにギルド長室へ戻ったのだ。




「話すことはあったか? 勇者が魔王を倒しに行くというのは、わかっていることだ。私としては、ガキ共に任せるよりは自分で行った方がマシだね」

「うっ……」


 英二達は悔しかった。今は輪廻を捜すために旅へ出たといえ、魔王を倒すための鍛練も兼ねているのだ。それでも、4対1で挑んだのに、何も出来ずに負けた。

 役立たずの押印を押されても仕方がないだろう。




「そう落ち込むな。メルアはSランクの冒険者だ。ギルド長になったから、ランクはSのままだが、実力はSSランクと遜色はないはず」

「SSランク……」


 SSランクの実力がこれ程なのかと、長くて最後が見えない道を歩いているような気分になった。




「それに、メルアが使っていた”瞬動”は特別なスキルだ。目に見えないスピードが出るから発動する者も扱いが難しい。それをやすやすと扱える者なんて、SSランクでもいるか怪しいぞ」


 つまり、英二達が弱いのではなく、メルアが凄すぎるのだとゲイルはそう言いたいだろう。

 それを聞いて、少し安堵した英二だった。ゲイルはその様子を見て、次の話、温泉の貸し切りをした件に移ろうとするが、急に入ってきた者によって遮られた。




「なんだ? ノックぐらいは出来ねぇのかよ?」

「すいません! 緊急事態です、Aランクの魔物が2体と、同様にAランクの変異魔物が現れました!!」

「む、確かに。緊急事態だな」

「Aランクの変異魔物!?」


 英二達は変異魔物と戦ったことがある。Aランクではなく、Cランクの変異魔物だが、普通のCランクよりも強かったのを覚えている。それが、Aランクの魔物が変異魔物として現れたらそんな声が出てしまうのは仕方がないだろう。




「仕方がねぇな……、アイツラに知らせとけ!」

「はい!」


 入ってきた受付壌は誰かに知らせるために、何処かへ向かった。




「おい、お前らは先に行け。私はやることをやってから行く」


 メルアは、ギルド長として、ギルドにいる冒険者に指示を出さなければならないから、英二達を先に行かせる。


 指示通りに、先へ行く。魔物3体が暴れている場所へ。そこには、






 3体の鬼がいた。






 右には巨大な身体で大きな鉄混紡を持つ鬼、左には小さいが、素早い動きをする鬼。

 中心にはローブを着ていて、身体は人間に近い姿をしている。中心にいる鬼こそが変異魔物だと、威圧で教えてくれる。

 英二達は、3体の鬼との戦いに身を投じることになるのだった。







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