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第五十五話 戯れる魔人



 ラディソム国を出て、ガリオン国に着くまであと三日になった頃。

 英二達は今、猿の化け物と戦っていた。




「キモい猿だな!?」


 貴一がそれを相対しながら叫ぶ。目の前にいる猿はゴリラのように、大きくはないが、一メートルぐらいはある。

 普通の猿と違って大きいが、貴一が叫んだ理由がそれだけではない。目がカメレオンのようにギョロッとしていて、骨が浮き出るほどに細く長い腕を持っていた。腕は細いのに、脚だけはガッシリとした筋肉質だった。

 アンバランス過ぎる姿で、キモかったのだ。




「強そうに見えないが、これがBランクの魔物とは…………速っ!?」


 猿は脚をバネにしたように、縮んで伸びる。そのバネで素早い動きを可能している。それだけなら、Bランクとは認定されない。その猿には、長い腕がある。




「キィィィ!!」


 真っ直ぐに突っ込んでくる途中、周りにある木を長い腕を使っていて方向転換してくる。

 英二は動きが読めないので、向かってきた瞬間を見て、反射で避けるしかない。


 トリッキーな猿が2体もいて、英二と貴一が相手をしている。絢と晴海はゲイルと下がっている。木々が邪魔で、さらに動きが速い猿相手に、魔法では当たらない可能性が高いから下がっているのだ。


 周りはジャングルのように密集した木々。ガリオン国に近付くつれに、整備されていた道路は狭くなっていく。道はあるが、すぐ横には木がある。


 ラディソム国辺りの整備された道では、余り魔物は出てこなかった。ラディソム国には冒険者が沢山いて、道の近くにいる魔物達は狩り尽くされているからだ。

 だが、ガリオン国辺りでは道の近くにいる魔物を狩り尽くすのは難しい。何せ、魔物が格段に強くなっていて、ガリオン国は暖かい国でもあるから、動物や虫の魔物が動きやすい環境なのだ。


 ガリオン国は東に位置していると説明したが、正確には、東南辺りにある。エルフの国も、同じ東だが、東北に位置している。




「動きが読めない!」

「クソッ、木が邪魔だな……」


 周りの木々が魔物を助けており、英二と貴一の邪魔になっている。木々が直接に邪魔をしているわけでもないが、密集しているのでは、武器を振り回しにくい。

 出来れば、もう少し広い場所まで引き付けたいが、猿が前と後ろに挟み込むように動き回っているため、二人の動きが制限されている。




「……いっそ、木々を倒してからやるか」

「確かに、邪魔だから斬った方がいいかもしれない」


 貴一の提案に乗る英二。周りの木々がなければ、素早いだけの猿なら相手にならない。

 2人はそう決めて、英二は”聖光剣”で剣の威力を上げ、貴一はクレイモアを持つ手に力を溜める。




「はぁっ!」

「うらぁっ!」




 邪魔になる木々だけを斬り倒し、猿は長い腕で掴まっていた木が倒れたため、地に落ちた。

 そのまま、1体は英二の手によって切り裂かれ、もう1体はなんとか倒れる木々から離れて、別の木に掴まる。




「キィィィッ!!」


 猿は仲間がやられたからなのか、逃げ出した。英二達は深追いするつもりはなく、周りを警戒してから絢達の元に戻った。




「終わりました」

「うむ、木々を倒す作戦はよかったが、倒れた音でここにいるのを魔物にしられてしまった可能性が高いな」


 ゲイルから見て、戦い方は前より様になってきたと思う。木々を斬り倒すことは作戦としては悪くはなかったが、戦いの後を考えてなかったのは減点だった。




「では、話すのは後にして、ここからすぐに離れないと駄目ですね」

「お疲れ様。さっさと離れないと駄目だねー」


 絢と晴海もゲイルの意見に賛成し、英二達の荷物を渡していた。




「そうだな。奇策に頼らずに勝てるようにならないと」

「環境が変わると、戦い方も変わるのがわかっただけでもいいんじゃないか?」


 英二はさっきの戦いを思い浮かべ、反省をしていた。貴一は難しく考える英二に肩を抜くようにと言っていた。

 そろそろ、ここから離れなければならないので、話を打ち切って進もうと思ったが、それは叶わなかった。


 目の前にいる少女に声をかけられたからだ。




「やっぱり、Bランクの魔物じゃ、相手にならないね」

「っ! いつの間に…………、誰だ!?」


 急に、目の前に現れて話し掛けられたから、そう問い掛けるのは間違ってはいないだろう。

 問い掛けられた少女はちゃんと英二の言葉に答えた。






「ボク? もしかして、知らないの……?」

「まさか……」

「おっ、そっちの男は知っているみたいだねっ! 私が有名になってないかと思ったわよ!!」


 ぷんぷんと可愛らしい表情だが、他の人からしたら、凄まじい威圧によって膝を付きそうなのだ。額に一本角があることから、人間ではないのはわかる。

 ついに、その少女の正体が明らかになる。






「ボクは魔王の配下、さらに幹部でもあるの。ウルと言うね〜」






 魔人ウルと名乗った。兄妹の魔人で妹の方になる、SSランクの魔人だ。




「くっ、やはり魔人ウルか!」


 ゲイルが皆を守るように、前に出て剣を構える。冷や汗をかいているが、ここで皆を死なせてはならない。皆は人類の希望なのだから…………




「魔王の配下で、幹部? 何故、ここに……?」

「魔人ウルって、有名なの?」


 4人は魔人ウルのことを知らない。だが、凄い威圧から、強いのはわかっている。




「やっぱりボクのことを知らないの? そこの男、説明してやりなさいよ」

「……魔人ウルは、SSランクの魔人で危険指定魔人とされている。兄妹の魔人がいて、妹の方が魔人ウルだで、兄よりも残虐な性格をしている」

「っ!!」


 SSランクの魔人と聞いて、4人の警戒度が上がる。




「ようやく、ボクがどんな人かわかってくれたね?」


 魔人ウルはニヤッと口を歪めている。可愛らしい顔でも、邪悪な雰囲気が恐怖を生み出す。ここで魔王の幹部と戦うことになるのかと、全員が覚悟をしていたが……………………戦いは始まらなかった。






「くくっ、決死の覚悟を持っている所に悪いけど、ボクは戦う気がないから」

「なにぃ?」

「ボクは魔王の命令で、召喚された勇者って奴を見に来ただけだから」

「だからって、幹部が直接に見に来るとは……」


 見に来るだけなら、何も幹部の本人が来ないで、自分より下の者にやらせればいいのだ。




「仕方がないでしょ? ザコに頼んで、報告を聞くより強いボクが行けば、その実力がよーくわかるんだから。実力は大体わかったけど、来たばかりだからまだ弱いね。二ヶ月前に見た子供の方がマシね」

「子供?」

「そっ、子供。貴方達は子供にも劣っているなんて、本当に召喚された者なのか疑わしいけどね」


 子供と言われて、思い付くのは輪廻だけだ。もしかしたら、輪廻とは違う別人かもしれないが、判断は出来なかった。英二は戦う気がないなら、もっと情報を得ようと、魔人ウルに話し掛けようとしたが…………




「まぁいいや。ボクはもう帰るね」

「待っ……」

「バイバイ〜」




 魔人ウルは手を振ってバイバイをすると、姿が消えた。

 姿に消えたことに驚いたが、ここで自分達に手を出さなかったことに疑問を持ったのだ。


 後から危険になりそうなら、まだ弱い内に殺せばいいのだが、魔人ウルはそうしなかった。つまり、




「俺達を舐めているのか……」


 貴一が呟いた言葉がそうかもしれない。勇者達が強くなっても、勝てると言う自信があるからなのかもしれない。




「……ふぅ、皆が無事で良かった。おそらく、魔王の命令で、手を出すことを許されていなかっただろう」

「そういえば、魔王の命令と言っていたわね……」


 ただ、魔王からの命令で手を出さなかった可能性もある。

 絢だけは別のことを考えていた。魔人ウルが言っていた『子供』と言う言葉に。


 それが、輪廻君のことではないのかと、疑っているのだ。他の人は、魔人ウルのことばかりで、『子供』と言う言葉に気に止めてはいなかった。




 魔物が現れない中、絢は考えつづけるのだった…………







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