第五十三話 再び旅へ
輪廻はまだ首になっても生きている魔人イシュダラの元に向かう。
「まだ生きているとは、さすがの生命力だな」
「……そうか、私が負けたか」
「まだ話せるなら、聞かせてもらうぞ? 何故、ここの西の地に来た?」
南の地から、西の地に来た理由が気になっていたから、聞いてみる。
「もう私は死ぬだろうし、話そう。私が南の地から来た理由は、居場所を追い出されたからだ」
「ふむ、別の魔人からか?」
「いや、人間からだ。赤く、黒い服を着た少女だった」
イシュダラはあの景色を思い出しながら、話しつづける。
「私は居場所さえ、あれば人間を襲うことはなかったのさ」
「居場所……、墓場か?」
「そうだ。あそこには私の仲間の屍がある」
『墓場の守人』と言う二つ名は、仲間の墓場を守っていたことから名付けられたようだ。だが、人間から居場所を追い出された? 墓場を必要とする人間なんているのかと考えていたら、イシュダラがその人間の特徴を詳しく教えてくれた。
「さっき言った通りに、赤く、黒い服を着ていて、お前のように小さかった。そして、変なヌイグルミを持っていたな……」
「変なヌイグルミだと?」
「エリス、知っているのか?」
「噂程度ですが、変なヌイグルミを持った少女が、SSSランクの冒険者になったと……」
「まさかの、大物に狙われるとは、運がなかったな。いや、生きているから運が良いとも言えるか?」
「運か……、戦わずに理解させられたのだ。勝てないと……」
それ程の差があると理解させられた。
「私は見逃されたのだ。ただ、戦うのが面倒なだけで……。私は、私の居場所を取り返すために、強くなると決めて来たのだが……」
「今、やられたってわけか」
「ああ……」
イシュダラは諦めたような声だった。強くなるために、南の地より初心者の冒険者が多い西の地に来たが、運悪く強い者に出会ってしまい、今は死にかけている。
「そうか、この世界は強者が生き残る。運が良い、悪いのもあるが、お前は今、負けた。それは理解しているな? さらに、居場所のことは同情もしない」
「輪廻さん、それは言い過ぎでは……?」
敵の魔人といえ、エリスには言い過ぎだと感じていた。だが、エリスを止めたのは、言われている本人であるイシュダラだった。
「いや、いい。むしろ、同情しないでくれた方がいい……」
同情してくれたからって、居場所が戻るわけでもないから、キッパリと言われたほうがいいのだ。
「ふむ、ここに来た理由はわかったが、何故、墓場しかない場所を奪ったんだ? お前に興味を持っていなかったしな」
「確かに、人間は墓場を必要するのでしょうか?」
「あ、メイド!? もう動いても大丈夫なの!?」
テミアは復活したようで、話に加わってきた。”再水”のおかげもあるのか、傷跡は残っていなかった。
「嘘……、表面は治っていても、しばらくは痛みで動けないはず」
「私は御主人様の愛があれば、すぐに治りますから」
「…………」
エリスは絶句に、呆れとも取れる顔をしている。輪廻は話を戻すことにした。
「確かに。必要だと思えんがな…………、まぁ、会ってもない奴のことを考えても仕方がないな。で、聞きたいことはなくなったから死んでもいいぞ」
「あははっ、ズバッという子供だな。今のままではまだ10分ぐらいは生きられるから、やってくれ」
「ふむ、遺言は…………短くな」
普段なら聞かないが、少しは情報を得られたから短くだが、聞いてやることにする。
「ふふっ……、じゃあな」
「じゃあな」
イシュダラは苦笑しつつ、別れの言葉を残した。紅姫で頭を貫かれ、今ここ、魔人イシュダラの命は消えたのだった…………
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「……というわけだったさ」
「そうでしたか。お疲れ様です」
ラウドの元に、戻って報告を終わらせていた。あと、変なヌイグルミを持った少女のことも聞いてみたが、南の地で活動している者だからなのか、西の地には噂程度しか届いていなかった。
エルフの王様、ラウドも良く知らないと言う。
「この報酬を渡しておきましょう。さらに、Aランクの魔人にトドメを刺した輪廻にはSランクに認定されます。いいでしょうか?」
「全員で戦ったのだが、俺だけがSランクになってもいいのかよ?」
「ええ、エリスから話を聞くには、最後は1人だけで、首を落としたと。勿論、2人もAランクの実力が見受けられるので、Aランクに認定します」
これで、輪廻はSランク、テミアとシエルはAランクと認定されるのだった。
(予想外の報酬だったが、向こうがそう言うなら、いいか。で、何が書かれているんだ?)
ちなみに、エリスはここにいない。ラウドに説明して報酬を貰った後に、ここを出たのだ。おそらく、前もって言われていたかもしれない。極秘の話があるから、報酬を貰ったらすぐに部屋から出ていくことを。
エリスがいないなら、話しても大丈夫だと思い、聞いてみる。
「ここで読んでもいいよな?」
「ええ、確実に『邪神の加護』のことは書かれています。私が嘘を言っていないかは、ここで確認してみればいい」
ラウドの顔を見るには、嘘をついていないのは判断出来た。遠慮なく、ここで読ませて貰うことに…………
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輪廻達はアルト樹を出て、外にいた。ラウドとの話も終わったので、買い物を終わらせて宿に戻ることにするが、
「あ、エリスですよ!」
アルト樹の出口で見掛けたのは、誰かを待っているエリスの姿だった。エリスは、輪廻達が出てくるのを待っていたようだ。
「お、エリスか。ちょうどいい」
「…………」
輪廻はエリスに言いたいことがあったから、ここで会えたのは僥倖なことだった。前置きもなく、キッパリと言う。
「俺達は明日からまた旅に出る。だから、ここでお別れだ」
そう、明日からはアルト・エルグを出て、ラウドから貰った本の情報から見付けた場所に向かうことになる。次は『邪神の加護』関連になるため、まだ秘密を話していないエリスは連れていけない。
「…………私が足手まといだから……だけじゃないよね? やっぱり秘密があるから?」
「そうだ。誰にも話せない秘密もあるからな」
「…………わかったわ。今は聞かない。輪廻さんから話してくれるまで、待つ。
もし、教えてくれる日が来たら、正式にパーティへ入れてほしいわ」
「…………考えとく」
「アルト・エルグで強くなって、待っているわ」
エリスはそう残して、輪廻達の元から去った。
「さて、行くか」
「はい、いつでも御主人様に着いていきます」
「私も忘れないでよね?」
3人共、明日の朝にアルト・エルグを出て、ある村に向かう。次の試練を受けるために…………




