第五十二話 土の魔人
活動報告でコメントをくれた方、ありがとうございます。
まだ活動報告を読んでいない方は良ければ読みに来て下さいね。
簡単に言えば、この作品が「コンプティーク7月号」(6月10日発売)で作品紹介して貰いました。
今後も応援を宜しくお願いします。
魔人イシュダラは決して、姿を見せずに土の人形や土魔法での攻撃が輪廻達を襲っていた。このままでは、こっちが先に体力と魔力が切れてしまう。
「自分自身で攻めて来ないのを見るには、魔人イシュダラは後衛タイプで、魔力が多い魔人だな」
「そうですね。このままでは、こっちが先に潰されそうですね」
土の人形に込められている魔力は極僅かで、テミアやエリスぐらいの魔力があれば、一日中は出せそうな程だ。もし、魔力の回復を早めるスキルなどがあれば、一日中と言わず、三日…………いや、一週間は出しつづけられる可能性がある。
(仕方がない、このまま体力や魔力が無くなる前に一か八かの賭けに出た方がいいな……)
策は思い付いたが、敵が何処にいるかわからないのでは、賭けになってしまう。その策とは、
「これからは俺の言う通りに動いてくれ!! 敵をあぶり出すッ!!」
「「はっ!」」
「わかったわ!!」
輪廻は全員にジャンプしろと指示を出す。エリスは何をするつもりなのか予測出来ていなかったが、2人が疑いもなく跳んだので、エリスも一緒に跳ぶ。
「えっ、空中に立てた!?」
「もう一回だっ!!」
全員が跳んだ所に、”重壁”を足場にする。そして、まだ高さが必要だと判断し、また跳ばせる。地面から10〜15メートル程、離れたらすぐにエリスへ指示を出した。
「出せるだけの水をばらまけ!!」
「うぇ、わ、わかったわよ!!」
まだ何も見えない足場に慣れないエリスだったが、ちゃんと輪廻の指示を聞き、杖を上に捧げた。
「”波蛇”!!」
大きな水の蛇を5体ほど作り出して、地面にぶつけた。ぶつけられた地面は水浸しになって、何処が沼なのかわからなくなる程だった。
水の蛇は5体が限界で、エリスの魔力は残り僅かになった。魔法が主体であるエリスは魔力が切れたら戦うことが出来ない。
「よし、充分だッ!! 次はシエル、雷の矢を撃てるだけ撃て!!」
「了解!」
シエルは星屑を上に向けて、雷の矢を連射で撃っていた。他の人から見たら、なんで上に!? と思うだろう。
シエルには誰にも負けない特技があるのだ。それは…………、正確さだ。
「墜ちなさい、”流星”」
シエルが撃った空を見ると、星が光っているようにキラキラとしていた。流星のように、その星が墜ちる。
その星とは、シエルが撃った矢であり、落ちる力も加わって大量の雷の矢がドォォォォォッ!! と、地面に穴が空いていく。正確さも相俟って、狙った範囲に全ての矢を当てることが出来た。
「は、はぁはぁ、メイドの前で倒れるものですか……!!」
「チッ」
魔力を使い果たしたはずなのに、シエルは根性で倒れずに立っていた。テミアから飲まされないために。
テミアは舌打ちをしていたが、もう意識を切り換えており、輪廻を見ていた。
「最後の仕上げだ。テミア、行くぞ!」
「畏まりました」
輪廻とテミアは”重壁”から飛び降りた。輪廻は拳を構え、テミアは大包丁剣に魔力を集めて、暴走させる。
「”虚手”!」
「”魔暴剣”!」
大きな手と暴走に狂う魔力を纏う剣が、2人のおかげで柔らかくなった地面にぶち込んだ。
ドバババァァァァァァァァァァンッ!!
二つの力が地面を波のように揺らし、周りにあった木が吹き飛び、重力と爆発の力が大きな地震を起こす。その衝撃で、地面の中にずっと潜んでいた魔人イシュダラが苦しみながら飛び出てきた。
「ガァァアッ!? ゴバァッ、……な、なんて無茶苦茶なことを……」
「ようやく出て来たか」
魔人イシュダラは血を吐いて、黒い身体を紅く濡らしていた。体外に傷はないが、輪廻とテミアが起こした衝撃波によって、体内の部位を傷付けていた。
シエルとエリスのお陰で、地面も柔らかくなっていたから攻撃の範囲を広げることが出来たのだ。つまり、柔らかくなった地面は簡単に吹き飛び、地面の底がさらに深くなったから、衝撃波が届く範囲が下がったということ。
深い地中にいた魔人イシュダラはその衝撃波を受けてしまい、体内に傷が出来、さらに空気までも吐き出されてしまったから出て来たのだ。魔人といえ、生きるためには空気が必要であり、イシュダラの肺活量は一回の呼吸で10分ぐらいは持つ。
普通なら輪廻達が土の人形が相手をしている間に、遠くの場所で空気を補充するつもりだったが、思いがけないことで、輪廻達の近くで姿を現してしまった。
「もう潜らせねえよ」
「…………」
魔人イシュダラは潜ることに特化した身体を持つが、敵が目の前にいては、潜ると隙を見せてしまうことになるので、潜れない。
「テミア、行…………あ、壊れたのか?」
「はい、込めた魔力量を間違えたようで、もう使えません」
テミアの持つ大包丁剣は根元までもバラバラになっており、前の形がなくなっている。
これでは、テミアは武器なしで戦わなければならない。魔人イシュダラの装甲は見ただけでも硬そうに見える。
「……仕方がない。俺が前に出るから、テミアはサポートだ。もし、潜りそうになったら引き抜いてくれ」
「畏まりました」
シエルとエリスは魔力が僅かで、今は役に立たない。だから、輪廻が1人で相手をすることにした。
「硬そうな装甲、まさか見かけ倒しじゃないよな?」
「ふぅ、やるしかないですね」
魔人イシュダラは両腕の甲辺りが、ピキピキと音を鳴らし、身体の黒い装甲が集まって強固な盾のようなのが出来た。
身体の防御は薄くなったが、両腕の装甲はさっきのより太くなり、硬そうに見えた。
(それが、接近戦スタイルってわけか)
魔人イシュダラは地中に潜って、安全に隠れながら土の人形を遠距離操作して、相手を潰す戦法をしてきた。だから、接近戦は得意ではないと思っていたが、違っていたようだ。
「試した方が速いな!」
気をつけるのは、その腕だと判断し、紅姫を足元に切り付ける。だが、イシュダラは読んでいたようで、身体を沈ませて腕を横にクロスするような形に構えた。
腕の甲で魔力の刃を挟み込み、力付くで折った。
「なっ!?」
「硬さを両腕に集めたのですから、こうすれば武器は簡単に壊せます」
「くっ!」
イシュダラが両腕を盾にして、突進してきた。スピードもあるので、当たったら内蔵破裂するのは確定している。”空歩”で上へ逃げ、後ろへ回り込む。
「後ろなら、防御は無理だろ!!」
輪廻は”重脚”で背中を狙うが、イシュダラは足元の土を回し、方向転換して脚が黒い装甲を纏う腕に当たるようにした。輪廻は止められないと判断して、そのままぶち込んだ。
だが…………
「ぐがぁっ!?」
お互いが吹き飛び、輪廻は背中を木に打ち付けられ、イシュダラは吹き飛ばされはしたが、足は地に付いており、削ったような跡が残った。
今のは輪廻が押し負け、打ち込んだ脚は折れていた。
「凄い威力でしたが、その脚では、さっきように速く動けないでしょう?」
「くそ、ヒビさえも、入らないなんて、堅すぎだろ?」
イシュダラの腕は無傷だった。このままでは、輪廻は高い敏捷を生かせないまま、負けてしまう。どうするか…………と考えていたら、
「虫けらがぁぁぁ!!」
「むっ!?」
テミアが拳を打ち込んでおり、イシュダラは咄嗟に防御をしたが…………
「がぁ!?」
さっきの輪廻のように、木まで吹き飛ばされていた。腕は無傷だが、凄い力で、脚が地を掴むことが出来なかったのだ。
テミアはイシュダラを吹き飛ばせたが、殴った腕は折れていた。だが、痛そうな顔をせずに怒りを向けていた。
「テミア……ぐっ!?」
急に痛みが強くなったと思って、脚を見てみると水の塊が包み込んでいるのが見えた。向こうでエリスがこっちに手を向けていて、残った魔力で”再水”を発動していた。
「しばらく、そのままで!! …………はぁ、あのメイドは無茶をするのね」
今はテミアが戦っており、折れている腕だろうが、無理矢理に殴っているのが見えた。おそらく、まだ無事の腕は、防御が弱い場所を狙うために残しているのだろう。
「はぁぁぁっ!! 消えろぉぉぉ! 死ねぇぇぇ!!」
「なんだ、この女は!? 痛くないのかよ!?」
イシュダラは折れた腕で無理矢理に殴って来るテミアに困惑していた。さらに、その拳の威力が腕以外に当たったら致命傷になるだけあって、人間だと思えなかったのだ。
「コイツは早く潰さないとっ!!」
このままだと、こっちがやられてしまうと判断して、攻勢に入る。
イシュダラは防御を優先している腕を使わなくても、土魔法は使える。
「貫け、”針地”!」
「いっ!?」
テミアの足元から、土の針が現れ、両足を貫かれ、膝を折ってしまった。骨も折られ、筋肉も斬られているからテミアといえ、立てない。
そのまま、両腕を前にして、突進してくる。
「終わりだっ!」
「……まだ、一本残っている」
テミアは動けない脚を余所に、腰を捻って、今出せる力を込め、向かってきたイシュダラの左腕を狙った。
今までの攻撃で、ダメージが蓄積していたのか、ヒビが入り…………
ドバッ!
左腕の装甲がバラバラになり、壊れた。まさか、壊されるとは思っていなかったのか、突進していた脚を止めて、呆然と左腕を見ていた。
「き、貴様……、壊すとは……!」
残った右腕でテミアの頭を狙うが、
「良くやったぞ」
「ご、御主人様!」
殴られる前に、輪廻がテミアを引っ張り、お姫様抱っこをして離れていた。
「シエル、魔力を回復する薬をエリスにやって、テミアを治してやれ」
「了解ー」
「わかったわ!」
シエルの返事が軽かったのは、テミアがこの程度では死なないのをわかっているからだろう。今も、少しずつ内部で回復を促進させている。
これならすぐに治るだろうと判断して、テミアを任せた。
「テミア、頑張った御褒美は夜にな」
「はい!!」
「あ、狡い! 私にも!!」
「さ、”再水”……え、3人って、その関係だったの!?」
ギャーギャーと五月蝿くなったが、輪廻はまだ終わってないので、返事はせずにイシュダラに向かった。
「あの女は人間なんですか……? あれだけダメージを与えたのに、ピンピンしているなんて、まるで……」
「そこまでだ。すぐに終わらせてやる」
紅姫だけを右手に構える。
「また伸びるアレですか。それは効かないのはわかっているはずですが?」
「だったら、その腕で防いで見せろよ?」
輪廻は紅姫を居合のように構える。紅姫は右手に持っているから、このままでは無事の右腕に当たることになる。
「防いで見せろですか……、いいでしょう!!」
イシュダラは回避を考えずに突っ込むことに決めた。輪廻の居合は右腕で防げると判断している。
「今まで、紅姫の技は”居絶”と”伸絶”だけだったが、三つ目を見せてやろう」
輪廻はそう呟き、その紅姫が動く。魔力の刃はそのままイシュダラの右腕に向かっていき、
「”飛燕”」
イシュダラは防げると確信し、防いだらそのまま右腕をぶち込む。そのつもりで右腕を構えたのだったが…………
スゥッと魔力の刃がすり抜け、ゴトッと音がした。
「は? ………………な、何が?」
イシュダラの目には、横になった地面と輪廻の姿が写っていた。
そして、イシュダラの身体が倒れた。イシュダラは訳がわからなかった。
目には横になった地面が見えたのに、後から身体が倒れたのが見えたからだ。
「お前の顔が先に落ちたんだよ」
「まさか……」
イシュダラは理解したのだ。今、もうイシュダラは首が繋がっていないことに…………
「俺の”飛燕”はすり抜けるんだよ」
輪廻はAランクの魔人、イシュダラを倒したのだった…………




