第四十五話 御礼品
援助することで、ラウドとビアンカが少々言い合いになっていたが、ラウドは決めたことを取り消すことはないので、ビアンカが先に折れた。
「はぁ……、これは絶対に秘密にしなければ……」
魔人と繋がっていると、ばれてしまえば、他の国から攻められる可能性が高いのだ。この秘密を知る者は、5人だけで、口をしなければいいだけなのだが、ビアンカは心配で少し憔悴しているように見えた。
もしかしたら、前にラウドの無茶な要求などがあり、ビアンカに心情の苦労が溜まっているかも知れない。
「さて、次は御礼の話に入ろう。白銀貨20枚と魔道具を数個と魔弓でどうでしょう?」
「そんなにいいの!?」
「魔弓まであげるつもりなんですか!?」
5人の中で声を上げたのは、シエルとビアンカであった。白銀貨20枚は、2000万円の価値があり、さらに魔道具と魔弓までもあげると言っているのだ。
これで驚かない人はいない。現にも、輪廻とテミアも内心で驚いている。まさか、大会の賞金である白銀貨の二倍もくれるとは思っていなかったからだ。それに…………
「魔弓もいいのか? そこの人は反対のような顔をしているが?」
「当然のことですよ!? ラウド様が言う魔弓は『星屑』のことでしょう。これはラウド様の先代が使っていた家宝でもある弓なんですよ!!」
「……と言っているが?」
輪廻はエルフの国の歴史を知らないから、ラウドの先代はどんな人だったかはわからない。だが、その家宝をあげると言われては、輪廻もラウドが何を考えているのかわからない。
(まぁ、あげると言っているのだから、貰うけどね)
ラウドが何を考えているかはわからないが、貰える物は貰っておく。
「そのまま、埃を被っているより、使ってもらった方が、武器としては喜ばしいことでしょう?」
「え……、その言い方では、3人の誰かがあのスキルを?」
「ええ、ダークエルフが持っているようです」
「えっ?」
シエルは指名されて、呆けてしまう。話によると、星屑という魔弓を使うには、あのスキルが必要になると言うらしい。では、そのスキルというのは…………
「ダークエルフは”弓術”と”魔法付加”を持っていますね? ”魔法付加”と言うスキルはとても珍しいスキルで、エルフの国では持っている人がいません。もちろん、私も含めてです」
「え、珍しかったの!? 私の村では、”魔法付加”を使える人が何人かいたのですが……」
「おや……、そうなんですか?」
輪廻は話を聞いて、一つの推測を思い付いた。
”魔法付加”というスキルは、ダークエルフにしか使えないのでは?
ラウドの先代がエルフだと聞いているが、もし、そのエルフがシエルみたいに”偽装”か、”上位鑑定”を防げるほどの効果が高い隠蔽系のスキルを持っていて、本当の姿は”魔法付加”を持ったダークエルフだったと言うオチも考えられる。
(まぁ、先代がダークエルフだろうが、俺には関係ないことだな)
とりあえず、シエルが使えるのはわかったので、魔弓はシエルに渡すことでいいだろう。
魔剣や魔弓は何かの条件がないと使えない物だったか? と疑問が出たが、紅姫や星屑は使えるのだから、問題はないとしておく。
最後までビアンカは渋ったが、諦めてお金と魔道具と魔弓を持ってきてくれた。
「魔道具はこれで良かったのですか?」
「ああ、空間指輪を二つと隠鎖を三つはあればいい。お金と魔弓を貰っているのだから、多すぎるぐらいだ」
魔道具は空間指輪と隠鎖に決めた。空間指輪はテミアとシエルの分で、隠鎖は”隠蔽”の効果を持った腕輪になる鎖だ。
効果はスキルと道具なら重複出来て、”隠蔽”と隠鎖があれば、”上位隠蔽”の効果と同等になり、”上位鑑定”を防げる。
(これで、”上位鑑定”があってもステータスを見られるのを防げるな。あとは魔弓か……)
”鑑定”で確認したら、確かに魔弓で間違いない。
星屑は弦がない弓で、大きさは80センチと小さくて、珍しい形をしていた。真ん中に10センチ程の丸い穴があり、どうやって弓を引くんだ? と思う形状だった。
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名称:星屑
魔法の矢を無限に撃てる弓で、”魔法付加”が無ければ、使えない。
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相変わらずの簡潔な説明しかなかったが、”魔法付加”が必要なのはわかった。
”魔法付加”で魔法の矢を撃ち出せる魔弓で、矢は魔力があれば十分だ。
(……あれ、”魔力操作”では撃てないのか?)
”魔力操作”なら、魔法の元になる魔力を操れるのだから、魔力の矢を作れるのでは? と考えたのだ。思い付いたら、すぐに試したいと考え、何処かで試せないかとラウドに聞いてみたら…………
「そうだね、地下の修練場を使うのがいいと思いますよ。着いてきてください」
地下があるようで、そこは修練場と言う魔法の結界に覆われた部屋だった。奥行きが広くて、魔法や矢を放つのに、ちょうどいい場所である。
この部屋には、修復の結界があり、前もって魔力を込めれば、発動できる。発動したら、この中で何かが壊れても時間を置けば、元通りになる。
ここには沢山の的があり、魔法と弓矢の練習が出来る。普通なら、沢山の冒険者が借りに来るが、今は魔人やコロシアムのことで、他の人は全くいなかった。
「今なら、誰もいないし、いくらでも放っても構いませんよ」
「はい! 早速、試させて貰います!」
シエルは小さな弓、星屑を片手で持ち、”魔法付加・火”を込めると…………
「おっ、赤い矢が出来たな?」
「はい。でも、弦がないのに、どうやって撃つのかな?」
「撃つイメージをするんじゃないの?」
「やってみます!」
10センチの穴が鏃を通って発現されている火の矢を的にむけて、口に出した言葉を念じる。
「……穿て!!」
念じたら、魔弓が動いた。火の矢が的に向かって撃ち出される。普通に弦を引くよりスピードがあり、狙った的に…………
ドバッ!!
当たった的は貫通して、丸い的が変な形に欠けていた。威力も十分、高かった。
「おおっ、凄いですね」
「これが魔弓の力……」
ラウドとビアンカも驚くことに値したようだ。普通の弓だったら、そんなことにならないのだろう。続けて、雷の矢と闇の矢も試したら、全て撃ち出すのに成功した。
「おい、連射も試したらどうだ?」
「連射ですか、やってみます!!」
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連射を試した結果は成功したのだった。撃ち出された魔法の矢は部屋の中を穴だらけにしていた。こんな威力がある矢を大量に撃ち出されては、デカイ的になりそうなオーガだったら、穴だらけになって死んでいそうだなと思った。
こんな惨状にした、当のシエルは…………
「きゅぅ〜〜〜〜」
魔力欠乏で俯せに倒れていた。魔力だって無限ではないのだから、説明文に書いてあった無限に撃ち出せるのは、壊れない限りは無限に撃ち出せると言う意味だろう。シエルは連射に成功し、調子にのって100発以上は撃って、気絶したのだった。
魔力が切れてしまうと、気絶するようで、シエルの身を持って、輪廻に教えてくれたのだった。
(限界は100発ぐらいか?)
シエルの魔力は2000ぐらいはあったから大量に撃てたが、普通の人だったらもっと少ないはず。100発も撃てるなら、いつか矢は買わずに済むだろう。魔力が上がれば、撃てる数が増えるだからだ。
「おーい、この薬を飲みなさいな」
テミアが気絶しているシエルに魔力を回復する薬を飲ませようとする。さらに、口に当てたら急角度にビンを立たせていた。
「ぐ、ごぼごぼ…………ゴバッ!?」
急角度に薬を流し込まれ、器官に入ったようで、飛び起きて噎せていた。
「汚いし、はしたないですよ?」
「誰のせいよ!?」
「起こしてあげるのはいいけど、俺にはやらないでね?」
器官に薬が入って、跳び起きるのは勘弁して欲しい。普通に起こすだけでいいから。
「いえ、御主人様には、口移しで起こしてあげます!!」
「それは…………まぁ、さっきのよりはマシだからいいか……」
「はい!! あ、年増エルフにはそのまま流し込むね」
「境遇の改善を求む!! 普通に起こしてよ!?」
言い合いが始まってしまったが、輪廻は予定通りに、星屑を借りて試してみたいことをやることに。
「あれ、輪廻は”魔法付加”を持っていないのですよね?」
「ああ、試してみたいことがあるんでね」
”魔力操作”を発動し、魔力を魔弓に流し込むと…………
「えっ!?」
「少年も出来たの!?」
「さすが、御主人様……、色が透明に近いですね」
星屑に、透明に近くて、うっすらと輪郭がわかるような矢が出来ていた。だが…………
「駄目だ。出来るのはここまでで、撃てない」
「どういうことですか?」
ラウドが聞いてきたので、推測を説明してやった。
”魔力操作”では矢を作れても、撃てないのは、自分自身の魔力を切り離せないからだ。例えば、手の平から魔力の弾を出す! というのは出来ない。つまり、”魔力操作”は自分自身の魔力しか操れないから、切り離すのは”魔力操作”の能力では出来ないことだ。
輪廻やテミアがやった魔力暴走をして、相手にダメージを与えられる技、それは魔力での攻撃ではなく、ただの衝撃波と変わらないのだ。だから、魔力を放つのと違う。
「この魔弓は俺やテミアには使えないみたいだな。シエル、この魔弓を使いこなせよ?」
「任せて!」
「ちなみに、撃ちすぎてまた、魔力渇望で倒れないように。倒れたら、私が飲ませてあげます」
「お断りよ!! 絶対に、メイドの横で気絶するものですか!!」
シエルにしか使えないのは残念だが、今後、この魔弓で俺達の助けになることを期待する。
こうして、シエルは魔弓、星屑を手に入れたのだった…………